バス運転手を憧れの職業に、新呼称「ハイウェイパイロット」でブランド化、ウィラーが始めた取り組みを取材した

運輸業界全体に大きな影響を与えている2024年問題。運転手の時間外労働の上限規制により、観光バスや高速バスの運行への影響も顕在化している。加えて、バス運転手の数も不足しており、バス会社にとって運転手の確保は緊喫の課題だ。

WILLERグループでバス事業を運営するWILLER EXPRESS(ウィラーエクスプレス)では、3つの変化に取り組み、不足する運転手を育てることに挑戦している。このほど開催されたメディア説明会の内容をまとめた。

写真:(左から) LABO一期生の富塚裕紀氏、平山幸司代表取締役、二期生の伊藤泉氏

運転手を憧れの職業に、採用と教育にも変化

同社では、2024年4月から、バスを運転するだけではない「安全とサービスを両立したワンランク上の乗務員」を象徴する言葉として、ハイウェイパイロットという呼称を導入した。平山幸司代表取締役は、この名称をブランド化し、運転手を憧れの職業として認知されるようにしたいと考えている。採用活動も変化させている。

現在、大型二種免許のホルダーが高齢化に伴い減り続けている上に、新たに免許を取得する人も少ない。従来の採用方法では人材確保が難しいため、同社では待遇を改善し、教育を充実させることで、新しい転職層を取り込みたいと考えている。採用時に重視しているのは、「サービス業に向いている人」。AI(人工知能)を取り入れた適正診断を2024年から導入し、すでに活躍している人の属性、資質に近い人を採用している。運転手だけでなく、他部署の社員でもテストを行ったが、診断精度が高いと社内からも高評価を得た。

平山幸司代表取締役

育成プログラム一期生が8月に卒業

教育面での変化としては、2024年から未経験者を育成するためのハイウェイパイロット育成プログラム「WILLER LABO」 をスタートした。研修期間は約3カ月。最初の週は社内規定に加え、健康管理やインバウンド需要で必要とされる英会話など、2週目にはハイウェイパイロットとしての心構えを学んでもらう。まずは座学を行い、実技訓練にはいる。

研修は、専用の施設で共同生活を送りながら実施される。集団生活の経験が少ない若い人が多く、3カ月の研修は不安の声もあがったが、終えてみれば杞憂だったことがわかった。研修生に好評で、会社としても技術向上だけでなく、マインド教育としても有効だったと評価している。

ラボ一期生の富塚裕紀氏は、もともと大型車の運転に憧れがあり、バス会社への転職を希望していた。入校の決め手はLABOで3カ月間学ぶことができる教育システム。自動車教習所では、日によって教官が変わるため、自分の運転の問題点を見つけてもらうことが難しかったが、LABOの研修では同じ教官から学ぶことができる。運転の癖や弱点、強みをきちんと理解することができるようになったという。

コロナを機にサービス面で大きな変化

コロナ渦には、同社のバス事業も多くの路線を減便するなど大きな影響を受けた。このとき、社内には会社存続のために「選ばれるサービス」にならなければならないとのコンセンサスが生まれたという。一人一人が サービス向上への取り組みを実行し、この時期に顧客満足度を示す「WILLER EXPRESSバリュースコア」は、大幅に向上した。

コロナを機に座席の改善もおこなった。カノピーと呼んでいる頭部を覆うフードを大型にし、スマホが使えるホルダーも設置した。

「選ばれるサービス」になることで、収益を上げ給与も改善していきたい考えだ。ハイウェイパイロットの年収中央値を、これまでの500万円から2024年から3年かけて600万円まで上げる計画を実行している。その結果、退職者が減り、会社の変化を通じて、運転技術を高めることと、接客に対する意識が高まったと感じる社員が増えたという。

一期生の研修実施によりLABOの課題も明らかになった。その課題解決の道筋はできているという。こうした取り組みを実行することで、平山代表は、「業界全体に風を吹き込みたい」と語った。

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