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賃貸物件を居住者が不在の日は、民泊として貸し出し、その収入分の家賃を減額する料金システム「リレント(Re-rent)」を提供するunito(ユニット)。「住む」と「泊まる」を掛け合わせたビジネスが急成長している。unito代表取締役CEOの近藤佑太郎氏が、2020年4月、25歳の時に立ち上げた。
二拠点生活、出張、長期滞在の旅行など多様なライフスタイルに対応する柔軟な住み方に注目が集まっている。その発想の原点と、unitoが考える未来の住み方・暮らし方を若き起業家に聞いてみた。
観光との出会いから、ビジネスの着想
近藤氏と「観光」との出会いは、大学生時代。国際交流を軸に活動する学生団体を設立し、インバウンド旅行者向け都内ツアーでプライベートガイドのアルバイトをしたのがきっかけだ。「参加者にとても喜ばれた。観光は、時間と人の価値が高い。観光の1日の価値の重さに気づいた」と振り返る。
父親の仕事の関係でルーマニアで育った近藤氏は、大学卒業後、観光を学びたいとクロアチアのビジネススクールに入学した。帰国後は、起業に向けた準備として、Airbnb Japanなど複数の旅行系スタートアップで修行する。その時に、「宿泊施設を押さえたら、観光で色々な体験価値を提供できるのではないか」と考えたという。
その後、2017年に、地方の閉鎖寸前の民宿や旅館を買い取ってリノベーションで再生する会社を起業した。補助金も活用しながら、地方創生×ディペロッパーとしてビジネスを展開。事業はうまく回っていたが、将来の成長性を考えて、より拡張性のあるプラットフォーム事業に移行することを決意。起業から3年で、その事業を売却した。
そして、2020年2月、現在のunitoを立ち上げ、「住む」と「泊まる」を掛け合わせて、供給と需要をマッチングするプラットフォーム事業に乗り出した。25歳の時だ。それ以前から、民泊の可能性を感じていたが、2018年6月に施行された「民泊新法」は稼働を年間180日間に制限しており、民泊だけで事業は成り立ちにくい。そこで、民泊物件に「住む」というキーワードを加えることを思いつく。
この発想には、近藤氏の個人的体験も色濃く反映されている。起業当初、両親に心配をかけたくないと、何も告げずに家を借りようとしたが、保証人がいないため、借りることができず、シェアハウスに住むしか選択肢がなかった。また、その後、家を借りた後も、出張で不在にすることが多く、その間に使わない部屋にも家賃を払い続けなければならない仕組みに疑問を抱くようになったという。「一人一人、働き方は違うのに、家賃は同じ。もったいないなあと感じていた」と明かす。
「事業拡大に向けてはキーマンと繋がれたことが大きかった」と近藤氏。unitoのビジネスモデルとは? 自社物件の開発も
unitoのビジネスモデルは、賃貸の家賃を従来の固定費から変動費に変えることだ。
賃貸の家賃は、通常1ヶ月単位で設定されているが、unitoではその1ヶ月の間で「何日間住むか」の基準に変更。居住者は、利用した日数分のみの家賃が課され、残りの日数は「リレント」として、旅行者や出張者などに民泊として貸し出す。つまり、居住者にとっては「帰らない日は、家賃がかからない」。
unitoは、この仕組みをプラットフォームとして展開し、スマホで簡単にマッチングできるようにした。新しい居住/宿泊シェアリングの形態だ。同社が提供する居住・宿泊施設の多くは、家具家電付きだが、居住者が帰らない日は、私物を室内の鍵付きボックスに保管できる。居住者と旅行者が入れ替わるタイミングで、清掃が入る仕組みも整えた。
施設の開拓は、まずホテルからはじめ、大手不動産会社が運営するレジデンスやマンスリーマンションなどに広げて行った。2025年2月現在、旅館業法上の宿泊施設が29棟452室、そのうちホテル運営は8棟382室。レジデンスが71棟296室、そのほかマンスリーマンションなどが11棟56室となっている。
レジデンスでは、大手不動産会社と協業。例えば、東急の「Re-rent Residence(リレントレジデンス)」、三井不動産の「n’estate(ネステート)」などのブランドで展開している。
一方で、unitoは「unito hotel residence」として、自社物件の開発・運営にも積極的に取り組んでいる。近藤氏は「今後は、この分野に力を入れていきたい」と明かす。
旅行者から出張まで幅広い利用者
「日本では人口減少が進み、特に単身者向けの賃貸市場は厳しくなる。その部屋を何とか埋めていかなければいけない。その未来への課題のなかで、宿泊を賃貸に組み込む仕組みが刺さった」。
コロナ禍には、柔軟な働き方が注目され、利用者は急増。会員数は、コロナ禍の3年間で4万人となり、現在は7万7000人を超えている(2025年1月現在)。居住者は平均月20日間住み、残りはリレント。リレントの間、民泊としての稼働率は、90~95%だという。
居住者の属性は、20~30代の独身層、30~40代の経営者層がボリュームゾーンで、結婚や自宅購入などライフステージの変化によって、離脱するケースが多いという。近藤氏自身も、4年間、unito暮らしをしていたが、結婚を機にunitoを離れた。
今年1月、新たに法人向け入居プランの提供も始めた。宿泊施設の宿泊料金が高騰し、出張規定もある法人での利用に需要があると踏んだ。プランを発表してから1ヶ月ほどで、中堅から大手企業、スタートアップまで企業からの問い合わせは100件以上。近藤氏は「一般的には、旅行などで毎月定期的に住まいを離れる人は少ないが、地方への出張が多いビジネスパーソンは存在する。逆に、長期出張で東京などに来る人もいる」と話し、法人プランに期待する。
東急との共同事業として2023年7月に開業した「ホテルレジデンス大橋会館」。都会で暮らすコストを下げて、その分を地方へ
unitoは、都心型のビジネスモデルだ。ニッチな市場を相手にしているが、近藤氏は「多拠点居住者や、デジタルノマドなど、色鮮やかな暮らしをしてる人にのみフォーカスをしていくプロダクトはうまくいかないなと思う。ニッチすぎるサービスは伸びていかない」と考えている。
unitoのサービスが登場したことで、地方に住みながら、都心でunitoの賃貸物件を借りる傾向も出てきているという。地方を拠点の自宅として、仕事用に都心の物件を借り、拠点の自宅に戻るときには、都心の物件を旅行者などにリレントする。都心の人が地方に別荘を持つという従来の生活スタイルとは、逆のトレンドも生まれている。
近藤氏は「地方への移住・定住はハードルが高い。それよりは、都会で暮らすコストを下げて、その分を地方での生活、あるいは旅行や帰省に使い、地方創生に繋げていく方が現実的」と明快だ。
unitoは、民泊×賃貸のリレントで特許も取得、創業からの資金調達は累計約9億円に達している。また、デロイトトーマツが発表した日本国内のTMT(テクノロジー・メディア・通信)業界の企業を対象にした2024年の成長率のランキングで、10位にランクインした。過去3決算期の売上高成長率は539%で、旅行関連ではトップだ。
近藤氏は、短期的には民泊でトップランナーになり、今後3年で売上高100億円を目指すという目標を掲げる。
「今後、人口減少が進む一方で、インバウンドを含めて旅行者は増えていく。それでも、さまざまなリスクを考えると、ホテルや旅館をバンバン建てていくのは現実的ではない。それよりは、民泊と賃貸との併用、『重泊』の方が効率的だと思う」と近藤氏。居住者のライフスタイルと旅行者の旅のスタイル、賃貸物件と宿泊施設、それぞれを補完しながら、ビジネスとしての相乗効果を上げていく。近藤氏が描く未来は「リレントを一つの文化にしていく」ことだ。
聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫
記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹