航空旅行を再開させるためには何をすべきなのか。人々が新型コロナウイルスの感染を恐れ、政府は旅行規制や検疫を強化しているなか、旅行の計画を立てるのは難しい。2020年の国際線の旅客数は前年比92%減となる見込み。そのなかで、各航空会社が唯一期待を寄せるのが、出発前に乗客全員に簡易ウイルス検査を実施することだ。
現在、世界中で実施されている安心安全の取り組みはバラバラ。世界観光機関(UNWTO)は、統一したガイドラインの策定でリーダーシップをとっているが、問題は山積みだ。パンデミックの終わりが見えないなか、国際間の人の移動はほぼ完全に止まり、経済は瀕死の状態。特に、航空会社、空港、ホテルや飲食店など観光関連ビジネスは大打撃を受けている。
AP通信が、現在課題となっている点をまとめている。
なぜ、検査にこだわるのか?
国際航空運送協会(IATA)の調査によると、人々が長距離路線に乗りたがらない理由のひとつは、隣席の人が新型コロナウイルスに感染しているかもしれないと恐れているからだという。確かに最初にウイルスを世界中に運んだのは飛行機だが、飛行機自体がウイルスの拡散を広げる場所であるとは証明されていない。
また、多くの人が到着後2週間の隔離があるために旅行を控えている側面もある。しかし、隔離は場所によっては厳格に実施されておらず、ウイルスの拡散を止めるうえで完璧な措置ではない。
IATAのアレクサンドル・ドゥ・ジュニアック事務局長兼CEOは、「全乗客への検査は、自信を持って旅行の自由を回復させるものだ。それによって、何百万人という人たちが仕事に戻ることもできる」と述べている。
検査は有効か? 保健当局の対応は?
出発前検査は、まず空港あるいは空港外で試験的に行われている。検査結果はスマホアプリで伝えられる。最新の検査では、1時間以内に結果が判明すると言われている。
各国の保健当局は、出発前検査に前向きだが、それがどれほど有効か評価している段階だ。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、検査技術、検査能力、検査場所などは日々改善しているとしたうえで、「リスク軽減の評価、航空旅行で可能な検査体制、航空輸送における検査の統一基準の設定などで、国際的にさまざまな取り組みが進行中だ」と述べている。
誰が出発前検査を主導するのか?
IATAは、すべての乗客に対してスピーディーに、正確に、かつ大量に検査できる体制を求めている。航空会社幹部は、EUやアメリカ政府の担当部署に対応を求め、その後その課題は国連機関の国際民間航空機関(ICAO)で議論されることになった。
ICAOは、各国が検査体制を確立するうえで必要な科学的根拠に基づいたガイドラインの策定に取り組んでおり、10月29日に開催される会議でそのガイドラインが議題にものぼる予定だが、承認されるかどうかは未知数だ。
現在進行中の試行検査は?
ここ数週間、世界各地でさまざまな検査が試されている。航空会社が求めているのは、大規模な国際的な取り組みだ。
たとえば、中国では、出発前にポリメラーゼ反応試験を実施しているが、これは結果が出るまで時間がかかる。フランクフルト国際空港では、医療診断企業Centogeneが、無症状の人に対して検査を実施。価格は12時間以内の検査結果で59ユーロ(約7300円)、6時間以内であれば139ユーロ(約1万7300円)と高くなる。隔離措置を回避するため医者の証明証が必要なら、さらに25ユーロ(約3100円)を払う必要がある。
スイスのCommons Project Foundationと世界経済フォーラムは共同で、デジタル検査証明「コモン・パス」の試験運用を始めた。これは、検査の結果を証明する書類をQRコードでスマホあるいは紙面で確認するもの。この取り組みは、未承認の検査機関での結果を排除し、言語の障害も取り除くものだ。
キャセイ・パシフィック航空は、香港/シンガポール線で希望者にこのパスを試験的に導入。ユナイテッド航空も、ニューアーク/ロンドン線で試験を始める予定だという。CDCのマーチン・セトロン氏は、「こうした試験から学ぶことは多い。コモン・パスは、数あるツールの中でも潜在力は高いものだと思う」と述べている。コモン・パスは、国際的な合意がなくても、各国それぞれが独自の判断で採用することが可能だ。
何が障害となっているのか?
検査体制の確立に向けてさまざまな動きが出ている。まず求められるのは、正確性、迅速性、そして大量に検査するための経済性だ。そして、各国は検査結果を認める必要がある。また、乗客のプライバシーを守らなければいけない。さらに、陽性者の隔離手順の確立も必要だ。
簡易検査は正確性に欠けると警告する科学者は多い。感染後数日は陰性と出る場合もあり、感染しても無症状の場合も多くなってきている。
検査が唯一の解決策か?
IATAは、感染防止のためには複合的な取り組みが必要だと主張。検査に加えて、空港でのソーシャルディスタンス、非接触チェックイン、機内でのマスク着用、機内での乗客の移動の制限などを実施すべきだとしている。
今年5月にコンサルティング会社マッキンゼーが実施した調査で、40社の出張管理者に出張の再開に向けて必要なことを尋ねたところ、75%がワクチンと回答。検査は39%にとどまった。マッキンゼーによると、2018年の業務渡航の市場規模は1兆4000億ドル以上にのぼり、旅行市場全体の約21%を占める。主要航空会社では、主張者の割合は全体の10%未満だが、その利益は全体の55%~75%を占めると言われている。