観光産業がこれまでにない注目を集め、政治や社会の議論の中心となり続けた2020年が幕を閉じようとしています。今年もトラベルボイス記事の年間のアクセスランキングを発表するタイミングとなりましたが、その内容は例年とは大きく異なるものとなりました。上位200記事に、通常の年間アクセストップ20に入るアクセス数の記事がずらりという結果に。そのため、今回は上位200記事を対象にピックアップして今年注目された記事をご紹介します。
まず、トップ10はGoTo関連の記事。読者の皆さんが想像される通りの内容のニュースが並んでいます。年間アクセスのトップはGoToキャンペーンの開始時の記事。2位は年末年始の一斉停止を伝える記事。トラベルボイスのサイト開設以来のアクセス数1位と2位でもありました。(トップ10の内容は最下部に記載)
旅行各社が本気の構造改革へ
振り返ると2019年の本欄1位は「英トーマスクックの破綻」に関する記事でした。コロナ期を経た今、遠い昔ことのように感じますが、伝統的な旅行会社の転換期が語られる記事は日本国内でも他人事ではない出来事として注目を集めました。
そこから約1年後、旅行各社はコロナ禍の危機対応として、かつてないスピード感をもって本気の構造改革に挑むこととなりました。近畿日本ツーリストの「メイト」「ホリディ」ブランドの終了、JTBやHISなど大手各社の大規模な店舗削減など、数年かけておこなわれるような改革が一気に進んでいます。そして、目指す未来の形は各社それぞれですが、共通するキーワードは「デジタル化」でした。
- 75位 JTBの新経営計画、法人・地域支援と両輪で、来年度の黒字化狙う (2020年11月23日)
- 78位 近畿日本ツーリスト、「メイト」「ホリディ」終了、店頭は3分の2閉鎖 (2020年11月11日)
- 86位 HISの旅行事業戦略、徹底的に国内旅行を強化、海外で95拠点削減 (2020年12月13日)
- 143位 クラブツーリズム新社長に聞いてきた、テーマ型旅行への回帰で目指すデジタル化まで (2020年11月13日)
- 162位 国内旅行大手3トップが語る、需要分散化・ワーケーション・デジタル化・店舗改革 (2020年8月6日)
世界で航空各社が破綻
コロナ禍の航空需要の激減で、世界の航空各社の破綻のニュースが多くあった年でした。それらは、例年なら、その日のトップニュース扱いとなるべきものばかり。多くのコロナによる大ニュースが飛び交う中、そうならなかったという特殊な状況でした。
年末には、米国で航空会社やホテルに対する追加経済対策が決まり、その規模は航空会社には150億ドル(約1兆5500億円)、ホテル業界に中小企業向け貸付で約2800億ドル(約29兆円)に。ここまでの道のりは長かったものの、航空会社では一時解雇従業員の復職の動きも早々に始まって希望の光となっています。
日本の航空各社の決算発表を見ても傷は深く、来年に向けた動向がとても気になります。
- 95位 JAL連結決算、2021年度通期は最大2700億円の赤字予想 (2020年11月02日)
- 101位 ANA、生き残り賭けてビジネスモデル大転換、中距離国際線で新LCC立ち上げ (2020年10月27日)
- 132位 タイ国際航空が破綻、国際線の運休は6月末まで延長 (2020年5月19日)
- 139位 エアアジア、日本で破綻の一方で、東南アジアでは順調な回復 (2020年11月18日)
- 152位 ヴァージン豪航空、事実上の経営破綻、清算判断も運航継続に意欲 (2020年4月21日)
地域の「関係人口」に熱い視線、ワーケーションも
コロナ禍で急速にデジタル化した人々の生活のなかで、注目されたのが「ワーケーション」でしょう。テレワークの普及で場所を選ばない働き方が定着することで、日本でもこうした働き方・休み方が現実味を帯びてきました。企業の制度化や社会・個人の意識など、まだ乗り越えるハードルはあるものの、観光産業にとっては来年には大きなひとつのテーマとなりそうです。
そして、「関係人口」。関係人口とは、移住でも観光でもなく、日常生活圏や通勤圏以外の特定の地域と継続的かつ多様な関わりを持つ人たちのことです。観光とは違う地域とのつながりを求める人、持続可能な観光施策のひとつとして考える地域が増えてきました。これらの記事は、瞬間的なアクセス量の多さというよりは長く期間、安定して多くの方々が読む記事となっています。
- 142位 これからの観光政策と、本質的な「関係人口」のあり方を考察(2020年04月16日)
- 159位 コロナ禍を経て高まる「関係人口」への期待、新しい働き方で生まれる価値 (2020年06月22日)
- 183位 ワーケーションは日本に根付くか? フランスの観光政策から働き方・休み方の慣習まで (2020年10月06日)
注目の新たな取り組み、見逃せないAmazonやグーグル
コロナ禍の大きなニュースの狭間で、見逃せない事業者の動きもたくさんありました。コロナ一色の1年ではあったものの、新たな旅行販売「ライブコマース」という販売手法が確立しつつあり、また航空券の新流通規格NDCで新たな動きがありました。
そして、長年脅威といわれ続けてきたアマゾンやグーグルは着々とトラベル事業をすすめています。アマゾンのバーチャル旅行は試行的なもののようですが、そこで得たユーザーデータは今後の旅行事業の展開に生かされることでしょう。グーグルのタビナカ事業や旅行サービスでの検索強化は、今後もさらに旅行分野に注力していく気合を感じさせます。
- 98位 アマゾン、バーチャル旅行体験サービスを開始、現地商品を買えるプランも (2020年10月01日)
- 101位 グーグルの「タビナカ」事業がこっそりスタート、その中身とインパクト(2020年09月02日)
- 109位 グーグル、旅行サービス新機能を続々投入、検索機能など (2020年08月20日)
- 175位 旅行大手Trip.com、海外旅行の復活へ需要喚起策を発表、ライブ配信での販売に活路 (2020年06月23日)
- 192位 ANAが「Googleで予約」を開始、自社開発のNDCを活用 (2020年09月24日)
- 199位 日本ユニシス、航空券の新流通規格「NDC」認証レベル4を取得 (2020年12月04日)
トラベルボイス記事の年間ランキング2020 トップ10
ランキング10位までは以下の通りです。
- 1位 GoToキャンペーンの開始日決定、地域共通クーポンは9月以降に (2020年07月10日)
- 2位 GoToトラベル、年末年始は全国一斉に停止が決定、キャンセル料は無料に (2020年12月14日)
- 3位 GoToトラベルキャンペーン概要を発表、宿泊施設への直予約や、修学旅行等の団体も対象に (2020年06月16日)
- 4位 じゃらん、ヤフー、一休、GoToトラベルの宿泊割引金額に上限設定 (2020年10月09日)
- 5位 「GoToトラベル」、東京発着の旅行が対象除外が決定 (2020年7月16日)
- 6位 「♯GoToキャンペーンを中止してください」、Twitterトレンド入り (2020年7月14日)
- 7位 観光庁、GoToトラベル事業で「よくある質問」をQ&A形式で回答 (2020年7月14日)
- 8位 観光庁、「Go To キャンペーン」の事実誤認報道を否定 (2020年5月28日)
- 9位 GoToトラベル、観光目的以外は除外へ、ビジネス出張や免許取得も対象外(10月30日)
- 10位 GoToトラベル全国停止でキャンセル料補てん、「予約付け替え」はNG (2020年12月16日)
今年のコロナ禍での経験は、今後の旅行トレンドに影響を与えるものになるはずです。今年、一気に加速したデジタル化は止まらず、旅行というリアルな体験に求める意味と価値は変わっていくかもしれません。
また、外出自粛の経験を経て、人々は「旅」への想いをつのらせました。こうした想いは、ポストコロナ時代に爆発する旅行需要となって観光事業者の再起のチャンスになるでしょう。
そして、開発が進んだ密回避のデジタル技術や企業の動きは、来たるべき観光復活後にはオーバーツーリズム解消のために力を発揮してくれることでしょう。
トラベルボイスは、サイト開設から8年、来年は9年目を迎えます。コロナ禍の今年、トラベルボイスは月間120万人を超える読者が訪れる観光産業で最大のサイトに成長しました。
観光産業の意義を問われ続けた今年、トラベルボイス編集部もかつてない1年を過ごしました。観光が政治や社会の議論となり続ける中、観光事業者の皆さんに、今を生きるためのニュースをひとつでも多く届けるべく、奔走し続けました。まだまだ出口が見えないコロナ禍ですが、来年も旅行・観光ビジネスに関わる皆様の一助となるニュースやトレンド情報などをご紹介していきます。
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トラベルボイス編集部 山岡薫