パナソニックグループ3社と富士急行、ナビタイムジャパンは、「富士山エリア観光DX革新コンソーシアム」を立ち上げ、顔認証を活用した観光MaaS「手ぶら観光サービス」の実証実験を実施する。同エリアの移動と観光を含む周遊eチケット「富士五湖 顔認証デジタルパス」で、交通機関や観光施設の入場や決済を顔認証でシームレスにできるようにするもの。
顔認証により、利用都度のチケット提示や支払いの煩わしさをなくし、「自分の身一つ」で観光を可能にする。かつ、エリア内のクーポン配信や旅程プランニング、経路検索などのサービスを合わせることで、エリア全体の回遊性の向上と地域観光収益の最大化を図る。顔認証を活用した交通・観光施設の入場と現地決済を、観光MaaSで実現するのは国内初だという。
記者会見で、本実証実験の代表企業であるパナソニックシステムソリューションズジャパンのパブリックシステム事業本部システム開発本部プロセスソリューション事業センター長・梶井孝洋氏は、同実証実験が、観光庁が推進する「観光DX推進に向けた技術開発及び地域観光モデル構築事業」の採択事業であることを説明。
実証実験の後援に、富士吉田市や富士河口湖町など周辺の5市町村の自治体や観光連盟が参画しており、「地域観光の現状に即した課題解決につながる実証実験としたい。この取り組みを通し、回遊性向上と収益最大化、非接触による感染防止対策を両立する地域観光モデルを構築したい」と意欲を示した。
顔認証の活用で地域課題を解決、富士山エリアが目指す姿
実証実験の期間は、2021年11月1日~12月31日。観光MaaS「富士五湖 顔認証デジタルパス」で乗車・入場できる対象サービスは、周遊バス4路線と富士急行線の5駅、富士急ハイランドや山中湖遊覧船などの観光施設9か所だ。また、顔認証決済の対象は、河口湖駅売店「Gateway Fujiyama」など4店舗。3軒のホテルでは顔認証チェックイン支援に対応する。これらの施設への周遊や利用を促す仕掛けとなるクーポン配信や旅程プランニング、経路検索などのサービスを、富士急ハイランド公式アプリ内の専用画面で提供する。
富士急行の執行役員事業部部長・雨宮正雄氏は、同実証実験のKPIの1つとして、観光客の平均利用施設数を現在の1.3カ所から倍の3.0カ所に引き上げたい考えを示した。同エリアは富士山を中心とする自然と多くの観光施設を有する人気観光地だが、滞在時間では首都圏からのアクセスの良さが裏目となって日帰り観光が多く、平均利用施設数は「箱根や日光など、他の有名観光地と比べると少ない。もう2つくらいは訪れてほしい」(雨宮氏)という課題があった。これを、顔認証をはじめとする今回のMaaSのサービスで改善し、周遊観光の活性化を図っていく。
さらに顔認証の活用によって、地域観光の周遊促進における課題解決に繋がる例がある。それは、地域で周遊パスなどの企画券を作成する際の収入配分。これまでは各観光施設での利用者数を正確に把握できず、参加施設の公平感を保つのが難しかった。しかし、今回の実証実験では顔認証によって各施設の利用者数が明確にわかるため、「各施設が納得できる収入配分ができる仕組みを組み込めた。革新的なことだと思う」(雨宮氏)と自信を示す。
富士急行では富士山エリアを、便利に快適に周遊でき、未来の観光の楽しみ方を提供する「富士山スーパーリゾートシティ」として進化させる考え。富士急ハイランドでは2018年から、園の入場とアトラクションの改札でパナソニックが提供する顔認証システムを導入しており、同システムを拡張することで、2021年度には富士急ハイランドをハブとした顔認証周遊を実現。2022年度以降は対象施設の増加や宿泊施設とのセットプランなどの商品開発を進め、さらなるサービス拡大を推進する方針だ。
そのためには、同構想にエリア内の多くの観光関連事業者の参加が不可欠だ。地域周遊パスは、より多くの事業者が参画することでその効力が増す。今回の実証実験で参加するのは富士急グループ傘下の交通機関や観光施設だが、富士急では今後、グループ以外の観光施設や飲食店など、同エリア内の観光関連事業者にも広げていく考え。雨宮氏は今回の枠組みを、「地元に還元するCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)の考えで進めていければ」と考えている。
顔認証を活用した観光MaaS「手ぶら観光サービス」、イメージは?
本実証実験の周遊eチケット「富士五湖 顔認証デジタルパス」は、富士急ハイランド公式アプリから購入し、顔情報とクレジットカード情報を登録して使用する。チケット料金は、AIによる来場者予測に基づいたダイナミックプライシングで販売。料金カレンダーが表示されるので、チケット購入をする人は自身の都合と予算に合わせて訪問日を選ぶことができる。