欧州委員会は、今後数ヶ月以内に、業務渡航分野(出張など法人旅行)において環境に配慮したエネルギーの使用をさらに促すために、罰則規定を設けた法案を通そうとしている。現在、新しい炭素税の導入、再生可能エネルギーに対する規制強化、航空会社の報告義務なとが検討されている。この動きに欧州の旅行業界は戦々恐々だ。
欧州連合は、2050年までのカーボンニュートラルを目指しているが、それまでの過程として、欧州委員会は、温室効果ガスを2030年までに1990年比で55%削減することを目的とした法案「Fit for 55」の成立を目指している。
欧州の航空会社や空港は、この動きに対して、欧州以外の航空会社が規制の対象にならないことに懸念を示し、いくつかの法案の中身に反対を表明している。一方で、欧州の7カ国は、持続可能な航空燃料(SAF)の使用を大幅に増やすことを求めている。
SAF導入の大きな懸念材料は、そのコストだ。例えば、デルタ航空は、航空業界が今後9年間で航空燃料消費量の10%をSAFで賄うためには2500億ドル(約28.8兆円)の投資が必要になると訴えている。
そうした中でも、アメリカン・エキスプレス・グローバル・ビジネス・トラベル、スカイスキャナー、Etraveli Groupなどの旅行会社は、燃料メーカーのSkyNRGとパートナーシップを結ぶなど、SAFをめぐる動きは勢いを増している。
Citizen M Hotelを運営するAPGも10年間の契約を締結した。APGは、CO2排出量の削減のためだけでなく、SAFのスケールアップによって、生産コストを下げるために契約したという。現状、SAFの価格は従来の燃料の3~4倍と言われている。
業務渡航の業界団体グローバル・ビジネス・トラベル・アソシエーションは、欧州委員会に対してロビー活動を行い、業務渡航の現状をバイヤーとサプライヤー双方の立場から訴えようとしている。
さまざまな思惑が入り乱れており、状況はそう簡単に整理できるものではない。
同協会上級副社長のデルフィン・ミロット氏は「サステナビリティを推し進めることと出張を控えることとは別のこと。ビジネスのためには人々は旅行をする必要がある。一方で、我々には環境に対する責任もある。ビジネスのために人と人をつなげることと、地球のために正しいことをすることとの二者択一ではない」と主張している。
政府は単に旅行分野は新たな税金を徴収しやすいと思っているのかもしれない。徴収される税金が確実にグリーンエネルギーへの移行に再投資されるのか。そうしたところにも同協会の懐疑心があるようだ。
※ドル円換算は1ドル115円でトラベルボイス編集部が算出
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Europe’s New Climate Policies Meet a Travel Reality
著者:マシュー・パーソンズ氏