トラベル分野でのゲーム活用は、特に目新しいものではない。ゲームのセオリーやゲームを取り入れた戦略は、観光目的の旅行から業務渡航まで広い分野で、何年も前から、インセンティブ効果のある誘導手法として使われてきた。
例えばエクスペディアは2013年、自社ウェブサイトで「Around the World in 100 Days(100日間で世界を巡る)」と題したゲームを15週間に渡り展開。参加プレイヤーは、エクスペディアで利用できるポイントが獲得できた。
また、2015年に創業した法人旅行マネジメント会社、トリップアクションでは、出張者にリワードを提供することで、会社側が推奨するホテルやフライトの利用を促すことが主な戦略だった。航空会社などのロイヤルティプログラムも、ポイントを稼ぎ、使うというゲーム・セオリーに基づいて考案された。
ところが最近、複数の要因が重なったことで、ゲーミング効果を使って自社ブランドの成長拡大を目指すところが目立つようになっている。
背景にある第一の要因は、世界的なスマートフォン普及の急拡大。2016年のスマホ契約者数は37億人だったが、今年は66億人と推計されている。
次に、オンライン・ゲームの人気がかつてないほど沸騰していること。2021年5月にスタティスタ社が発表した推計値によると、オンラインゲーマーは世界全体で10億人に達し、コロナ禍の生活が利用者増を後押しする一因になった。
そして企業各社が参考にしているのが、中国系eコマース・プラットフォームのピンドゥオドゥオ(拼多多、Pinduoduo)など、スーパーアプリが用いる手法。ゲーム戦略を取り入れるだけでなく、アプリ内で実際にゲームも楽しめる。ピンドゥオドゥオの創業は2015年。月間アクティブユーザー数は、2021年第3四半期で7億4100万人となり、前年同期比15%増だ。
OYOの場合
OYO(オヨ)は2022年3月7日から、米国の利用者向けの新しい「ゲーミング・ゾーン」を同社アプリ内に開設した。すでにインド、マレーシア、インドネシアのアプリ利用者向けには、これより数週間前に同ゾーンを設けている。
ゲーミング会社のGamezopと共同開発したインターフェースには、「Fruit Chop」「Furious Speed」など、10種類のゲームを用意している。
オヨ・インターナショナル社長のプラスン・チョードリー(Prasun Choudhary)氏によると、ゲーミング・ゾーン開発に着手したのは数か月前。ユーザー・エンゲージメント向上と、すでにアプリをダウンロードした1億人ほどのユーザーがアンインストールするのを最小限に抑えることが狙いだった。
「あらゆる業界で、顧客エンゲージメントを維持するための手法として、ゲームを活用する動きが少しずつ広がっている」と同氏は指摘する。
「そこから今回のアイデア実現へとつながった。当社の既存顧客を維持するために、どのようにゲームを活かすべきか。さらにユーザー一人当たりのセッション改善、セッション当たりのリテンション改善など」。
またチョードリー氏は、リピート率向上という課題が、特に旅行分野においては難しいと話す。旅行というのは、日常的に発生する消費行動ではないからだ。
「例えば今日、私が何かを予約したからといって、明日もまた予約する用事がある訳ではない。旅行にはサイクルがある。消費者が当社のアプリを使い、何かを予約して終わり、ではなく、何か他の形で、当社との関係が続いていくような方法を考えていた」(同氏)。
ゲーミング・ゾーンには、高スコア順にプレイヤーを掲示したリーダーボードがあり、ランキングはリアルタイムで更新される。最上位のプレイヤーには賞品が授与され、オヨのホテル宿泊割引や無料券、さらにアマゾンのギフトカードなど、他の事業者から提供されるものもある。
チョードリー氏は、上記以外のマーケットでも、これからゲーミング・ゾーンをアプリに加えていく計画で、4月には英国、その後には南米地域での展開を予定している。各地での利用状況を見ながら、機械学習も活用しつつ、ユーザーの嗜好に合わせたカスタマイズも視野に入れている。
旅行予約の他にも、オヨのアプリが提供できる価値があるのではないかと、引き続き、様々な手法を検討していく方針だ。
「究極的には、旅行に関することなら何でもやりたい」と同氏は話す。
ホッパーの場合
アプリ強化を目指し、ゲームやゲーム・セオリー戦略の開発や試行に力を入れているもう一つの会社がホッパー(Hopper)だ。
同社のユーザー獲得担当の責任者、マコト・ロート-キハラ(Makoto Rheault-Kihara)氏は「我々はモバイル中心に展開しており、リテンション率も高いので、旅行関連だけでなく、モバイル展開で成功している他の事業者から学ぶことも多い」と話す。
「好例がスーパーアプリ各社だ。南米やアジアの主要アプリによるマーチャンダイジング手法や、アプリ内での営業拡大やリテンションのメカニズムは、旅行系各社とは大きく異なり、この状況は北米でも同じ。なかでもスーパーアプリ各社が非常に得意としていることがゲーミフィケーション」(同氏)。
ロート-キハラ氏は、詳細はまだ明らかにできないとしつつ、ホッパーでは、ゲーム・セオリー(ユーザーがアプリ内で期待通りに動いてくれた場合に報償を提供する仕組み)や面白くて消費意欲も刺激するゲームなどを「試験的に実施中で、その成果は上々」と話す。
これを社内で担当しているのは、「モバイルゲーム・チーム」と同氏が呼ぶスタッフたち。「トラベル業務担当がゲーム活用を考えるのではなく、ゲーム担当チームに任せている」と説明する。
インスピレーションの源泉の一つが、中国系アプリのピンドゥオドゥオ。ホッパーCEOのフレッド・ラロンダ氏が、同社のスーパーアプリ戦略について語るとき、頻繁に名前を挙げている企業だ。
ロート・キハラ氏によると、ピンドゥオドゥオのゲームでは、例えばユーザーが毎日、バーチャル空間で木に水をあげると果物が育つ。これをアプリ内で利用できる割引や商品と交換することができる。
「このゲームは、1日当たりのアクティブユーザー数が6000万人に上る。顧客が離れないようにするリテンション策の仕組みの一つだ」と説明する。
「アプリを毎日、見てね、とユーザーに言うよりも、思わず見たくなるような面白い仕組みを構築し、割引などのリワードも用意することで購買意欲を刺激する方が、ずっと簡単だ。こうした仕組み全体が、非常に面白いと我々は考えている」(同氏)。
ピンドゥオドゥオから得たもう一つのインスピレーションは、ソーシャルコマースの活用方法で、例えば、一定数以上のユーザーが一緒に購入してくれれば、割引を提供するというもの。ホッパーでも、例えばホテル料金の割引などで、同様な手法が可能かどうかを検討しているとロート・キハラ氏。
また、ホッパーでは検索広告マーケティングに一切投資してこなかったという経緯もあり、マーケティング予算を(検索サイトではなく)ユーザー向け割引やリワードの原資に充て、友達に同アプリを紹介したり、日常的にアプリをチェックしたり、ブラウザする人を優遇するピンドゥオドゥオの手法にも、関心を寄せているという。
「ユーザーが期待通りに動いてくれた場合のインセンティブとして、マーケティング予算をユーザーの財布に直接、支払う手法と、フェイスブックやグーグルにマーケティング費を払って送客してもらい、顧客になってもらうことは、ほとんど直線関係にある」と同氏は指摘する。
「アプリを使ってくれるユーザーには割引を、という考え方は非常に興味深いし、実際にテスト運用も開始している」と同氏は話した。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:OYO, HOPPER BET ON GAMIFICATION TO DRIVE USER RETENTION
著者:ミトラ・ソレルズ