観光客誘致で「高クオリティ」戦略に転換するジレンマ、「数より質」がもたらす3つの効果と地域への影響を考えた【外電】

質の高い観光客誘致を目指すデスティネーションにとって、訪れる旅行者とローカルビジネス、両方の多様性を堅持できるかどうかは重要だ。

デスティネーションの誘客戦略が、数より質を追求する方針へと転換するなかで、懸念されていることがある。家族経営の小さなローカル事業者がツーリズムの隆盛から取り残されたり、低予算の旅行者層が締め出されてしまうリスクだ。

訪問者数を増やすよりも、数字的には限られる「クオリティの高い」(または価値の高い)旅行者を追いかけるデスティネーションが増えている。Gアドベンチャーズのプロダクト担当副社長、イブ・マルソー氏は、その先駆けとして、ハワイ、ウガンダ、ルワンダ、ブータンなどを挙げる。

一方、とりあえずライバルの動きを静観し、数より質の戦略をどう実践していくのか見ているデスティネーションもある。

これまでの誘客戦略は、旅行者の数を増やすことにフォーカスしていた。訪問客数が多ければ多いほど、成功しているデスティネーションと評価された。

過去のゲームは「宿泊者数」を競っていた、と話すのは、サステナブル観光のコンサルティング会社、Solimar InternationalのCEO(最高経営責任者)、クリス・シーク氏。だが最近では、旅行者の質、あるいは価値が注目されている。実質的には、消費額が多い旅行者のことであって、言い方を変えただけ、という見方もある。マルソー氏は「収入の少ない旅行者VS多い旅行者、という議論になってしまう」と危惧する。

「価値の高い訪問客」とは?

本来は、収入だけが問題なのではなく、訪れる地域にメリットをもたらしてくれるかどうかが問われている。例えば、多種多様な文化に興味があり、そうした観光地にお金を落としてくれるとか、旅行が受け入れ地域に与えるインパクトをよく理解し、行動するなど。

「価値の高い訪問客というのは、現地での体験に関心が高く、地元の良質な品々を買い、博物館や文化・芸術イベントに出かける人たちのこと」とシーク氏。「ツアーガイドの報酬を払うこともいとわない。なぜなら、セルフィ―の画像を撮ることが旅の目的ではなく、訪れた地域について理解を深めたいと思っているから」。

質重視への戦略転換を加速している要因の一つが経済効果だ。例えばインドネシア政府は、最西端にある貧しい町、ラブハンバジョを活性化する施策として、観光開発に取り組んでおり、「質の高い」観光客誘致が成否のカギになるとの考えだ。

もっと大きな要因となっているのが、観光によるの負の影響を減らしてほしいという地域住民からの声だ。その一例がハワイ州観光局(HTA)で、混雑や環境汚染、観光に起因する諸問題に業を煮やした地域住民からの要望に応える形で動き出した。

シーク氏は「政府もDMOも、選挙権を持つ住民らに対し、少なくとも努力はしていると説明できるようにするべきだと考えるようになった。望ましい旅行者、つまり地元にお金を落としてくれると同時に、そこで暮らす人々へのリスペクトも忘れない旅行者を誘致しようとしているのだ、と」。

クオリティ重視がもたらす3つの効果

デスティネーション側に、クオリティ重視の戦略がもたらすものは3つ。オーバーツーリズムの軽減、サステナビリティの確保、そして地域社会が蚊帳の外ではなく、当事者になることだ。より現実的には、そのデスティネーションへの旅行にかかる費用は高くなる。ブータンの場合、「持続可能な開発」手数料が従来の65ドルから200ドルになった。値上げ幅は、なんと3倍だ。

「長期的な目標は、価値の高い体験を訪問客に提供すること。そして住民に、充分な報酬を払える雇用機会を提供すること」とブータン外務大臣であり、同国ツーリズム協議会議長でもあるタンディ・ドルジ氏は説明している。

国立公園の入場料値上げも、実際に起きている。インドネシア政府は、コモドドラゴン国立公園の入場料を25倍に値上げする計画を明らかにした。名称にも使われている希少種、コモドオオトカゲの生息地を保護することを目的としている。

戦略転換に伴うこうした変化が、社会階層間の分断を深くすることも懸念される。マルソー氏は「収入の過多によって、旅行できなくなる人が増えることが心配だ」と話す。入場料が高くて入園をあきらめる人は、収入がより少ない旅行者、あるいは経済的に弱い国からの旅行者が多くなるとだろう。結果として、ツーリズムが万人のものでもインクルーシブでもなくなってしまう。

また、質重視のツーリズムへのアプローチは、地元の中小事業者を排除することにもつながりかねない。「旅行者の総数が減るなら、どこかの時点で、誰かがお客さんを失うことになる」とマルソー氏。「結局、小規模な個人商店や、ホームステイを受け入れているような小さな村落が、もっとも厳しい打撃をうけるかもしれない」。

事実、インドネシア政府がコモドドラゴン国立公園の値上げを決めると、地元のツアーガイドやツアー会社がストライキを行って抗議し、国立公園のオペレーションが混乱。海外からも注目される事態となった。政府は、値上げ開始の日程を当初予定の8月から2023年1月に延期した。

旅行に高額を投じる人は、ホームステイのホストや地元ガイドなど、ローカルの観光従事者との接点は、それほど多くない。こうした旅行者は、誰もが知っている人気観光地に泊まり、宿泊先はホテルやリゾートが一般的だ。一方、旅行予算に限りがあるバックパッカーなどは、正反対の旅行をする。

シーク氏は「低予算の旅行者は、経済的な恩恵をもたらさないと批判されがち」だが、「地元の宿や飲食店を利用しているのは、むしろこうした旅行者たち。もちろん消費額は、富裕層に比べてればわずかだが、地域社会に直接、恩恵をもたらしている」と指摘する。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Tourist Destinations Face Dilemma Switching From Quantity to ‘Quality’ Visitor Strategies

著者:Dawit Habtemariam氏

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