エイチ・アイ・エス(HIS)が発表した2022年10月期(2021年11月1日~2022年10月31日)の連結業績は、売上高が1428億円で増収となり、利益は大幅に改善したものの、赤字となった。営業損失は479億円、経常損失は490億円、当期純損失は95億円。
同社では今期から会計基準を「収益認識に関する会計基準」に変更しており、旧基準では、売上高は2604億円(1418億円の増収)、営業損失が486億円(155億円の増益)、経常損失が497億円(136億円の増益)、当期純損失が102億円(398億円の増益)。すべての項目で前年実績を上回った。
売上高は、行動制限や入国制限の段階的な緩和と撤廃、観光支援策などで主力の旅行事業が回復基調となり、好調に推移。営業利益も赤字ではあるものの大幅な増益となった。経常損益、純損益の改善は、ハウステンボスなどの売却による特別利益545億円の計上に加え、財務体質の強化・改善に着手したことが奏功した。エネルギー事業の関係会社売却損等では、特別損失137億円を計上した。
代表取締役会長の澤田秀雄氏は、先月の欧州旅行に出かけ、その際に実感した欧米の旅行者の回復状況を踏まえ、「欧米から6カ月前後遅れて日本の海外旅行は増えていくのではないか」との見立て。徐々に海外旅行の予約が増えていることも明かし、「来年になるが、これから海外旅行は本格的に戻るだろう。今期は全社一丸で黒字化を目指したい」と話した。
※以下、前期との比較のため、旧基準で表記する。
主力の旅行事業は、売上高が320%増の1806億円となり、前年の430億円から大幅に増加。営業損益は293億円の赤字だが、前年から91億円改善した。
売上高の内訳では、国内旅行が76%増の418億円、海外旅行が619%増の357億円、訪日旅行が221%増の4億円。
国内旅行はゴールデンウィーク明けから市場が動き出し、県民割・ブロック割を経て全国旅行支援が実施された2022年10月には、2019年同月比を上回った。すでにコロナ前の水準に回復している。一方、海外旅行は5月にハワイツアーから自社主催ツアーを再開。段階的な水際緩和によって徐々に回復傾向がみられているが、日本の国際線航空座席供給量はいまだコロナ前の30%程度にとどまり、収益性の高い日本発海外旅行の回復に影響しているという。訪日旅行は回復速度の速い欧米市場の獲得に注力していく。
カナダ及び欧州の海外子会社における旅行事業は、インバウンド事業が303%増の303億円、アウトバウンドが692%増の842億円。回復の速い欧米の需要を取り込み、特にカナダの子会社ではインバウンド、アウトバウンドの両会社とも2019年比で7~8割まで回復した。今後も欧米市場の拡大に注力する方針だ。
これを踏まえ代表取締役社長の矢田素史氏は、海外旅行は今後も燃油高騰や円安などで短期の急回復は予測しづらいとしながらも、「2023年度での旅行事業の黒字化を目指す」と説明。2024年度~2025年度にかけてほぼ2019年度水準に回復するシナリオを描いているという。
今後は事業ポートフォリオの再構築を図り、中長期的に旅行関連事業と非旅行事業の利益を1:1としていく方針も説明。旅行事業ではHISでしかできない旅の提供へと深化させ、収益性の高いパッケージツアーの比率を高める。非旅行事業では自治体の事業受託を強化しつつ、他業種間との連携・M&Aによる事業領域の拡大も図る。カナダの専門・語学学校(Cannadian College&CCEL)や通信事業(HISモバイル)、予約システム提供(エス・ワイ・エス)は、コロナ禍でも黒字化を実現したという。
このほかの各セグメントの業績は以下の通り。
- テーマパーク事業:売上高46%増の220億円、営業利益2億円(37億円の増益)
- ホテル事業:売上高94%増の92億円、営業損失41億円(17億円の改善)
- 九州産交グループ:売上高16%増の190億円、営業損失16億円(12億円の改善)
- エネルギー事業:売上高27%減の272億円、営業損失100億円(3億円の改善)