近年、デジタル化の推進や団体から個人への旅行トレンドの変化に対応する必要に迫られてきた観光産業。コロナ禍によって追い打ちを受け、活路を拓こうと新たな事業分野に挑む観光事業者も少なくない。北海道でBtoBの貸切観光バス事業を展開する「札幌観光バス」もそんな1社だ。デジタルを活用し、広域観光周遊を促進してBtoCの商圏を広げるビジネスに乗り出そうとしている。
新たに開始したのは、旅の魅力と満足度を上げる新しい形態の旅行のポータルサイト。そのカギとなるのが、ナビタイムジャパンの法人向け旅行プランニング機能「NAVITIME Travel Planning」だ。観光の最前線を知る地域の観光事業者のアイデアとロケーションテックが生み出す相乗効果とは? 取り組みを聞いてきた。
個人観光の“マンネリ”を解消する新ウェブサービス
札幌観光バスが新規事業として2023年1月23日に公開したのは、旅行プラットフォーム「たびポス」。特徴は、ユーザー自身が旅の行程をオンライン上で作成・共有できること。他のユーザーが投稿した旅程「たびカード」が気に入ったら、それを活用して自分専用にカスタマイズし、それを次の旅人に自分が楽しんだ旅行の「たびカード」としてつないでいくことができる。
旅行記を投稿・閲覧できるサービスは従来からあった。しかし「たびポス」は、ユーザーから投稿された旅程をもとにスポットを追加・削除し、旅程に沿った最適な移動手段と経路を提示する。他人の旅行経験から簡単に自分好みの旅程を作り、旅行計画で最も大きなハードルになる現地での最適な移動手段まで示す点が新しい。
新事業を思案する中で着目したのが、旅行者の“マンネリ”だ。
札幌観光バス常務取締役の佐藤圭祐氏は、「旅行者は私たち観光事業者が想像する以上に、旅程設計に労力を感じた結果、紋切り型の旅に陥っている」と、一般旅行者が旅程を作成する際に労力がかかっている点を指摘。「着地型の周遊チケットを発売しても、知名度が高いスポットへの訪問に集中してしまう。たとえば、北海道の道央であれば、メジャーな旭山動物園は知っているけれど、そことあわせてどこに行けばいいか分からず、旅を終えている人が少なくなかった」。
しかし、旅の大きな魅力と醍醐味は未知との出会いであると感じる旅行者は多い。佐藤氏は、その支援をすることに商機を見出した。「旅は曖昧なところにこそ面白さがあり、メインの観光スポットにあわせて訪問するサブスポットを(旅行者自身が)どれだけ見つけられるかが満足度を左右する。他人の投稿から知らなかったスポットや新たなルートを発見し、自分の旅を計画できるウェブサービスを提供することで、旅の可能性を広げられると考えた」。
タビナカを知る事業者ならではの発想はあっても、この発想を実現するための技術がない。また、サイトをゼロから構築するのは時間も費用もかかる。そこで佐藤氏が採用したのが、ナビタイムジャパンの法人向け旅行プランニング機能「NAVITIME Travel Planning」だった。
ナビタイムの技術を導入企業のサイトで展開可能に
NAVITIME Travel Planningは、ナビタイムジャパンのBtoCの旅行総合サイト「NAVITIME Travel」で提供する旅行プランニング機能を、法人向けにソリューションとしてアレンジしたもの。NAVITIME Travelでは 900万件の施設データと5万超の観光情報、宿泊・チケット予約に加え、ナビタイムジャパンの真骨頂である経路検索技術を活用した旅行プランニング機能を搭載。1つの画面上に地図と旅程、スポット情報を表示して、全体の位置関係を把握しながら旅程を作成できるようにした上、その旅程に沿った移動手段と経路を提示する。
NAVITIME Travel Planningは、このNAVITIME Travelのプランニング機能をパッケージ化しており、導入企業様のサービスとして提供できるようカスタマイズがすることができる。表示するスポット情報はナビタイム上の既存データに加え、導入企業が有するデータの掲載も可能だ。OTAでもあるNAVITIME Travelと連携することで、送客に対するアフィリエイト収入を得ることもできる。これらを、サイト設計などからスタートするのでなく、最短2週間で導入企業のサイトに提供できるという。
「たびポス」では、投稿された旅程や旅程の計画時の画面にナビタイムジャパンの旅行プランニング機能が反映される。札幌観光バスの佐藤氏は、「他人の投稿から知らなかったスポットやルートを発見し、自分の旅を計画していく『たびポス』の場合、旅程を面で捉えられるナビタイムの旅行プランニング機能を活用することで、新たな旅の可能性が広がると感じた」と導入を決めた理由を説明する。
ナビタイムジャパンのメディア事業部兼トラベル事業部セールス&アライアンスの荒井菜緒氏は、「プランニング機能は、多様なスポット情報や経路検索など、まさに当社の技術とデータを集約したサービス。20年にわたり、緻密な情報収集と改善を繰り返してきた。リリース後も施設情報や場所、移動時間などを正確に提供するため、情報収集を継続し、その内容も随時更新している。この蓄積があるからこそ、提供できるサービス」と胸を張る。
ナビタイムジャパンといえば、NAVITIME Travelをはじめ消費者向けサービスの印象が強いが、実は数年前から、消費者向けサービスの提供で培ったノウハウを活用して、法人向けソリューションを提供。すでに、業務支援サービスから戦略策定、社会課題の解決まで、企業や自治体、DMOの活用例が増えている。
2022年8月には、広域周遊観光の課題解決を支援する法人向けパッケージとして「NAVITIME Travel Platform」を開発した。地域内の観光地と移動の情報提供から予約、分析までワンストップで実施可能とし、観光周遊促進や消費拡大をサポートするもの。旅程作成機能やマーケティングツールなど、ナビタイムジャパンの法人向け観光ソリューションを集約しており、NAVITIME Travel Planningも同パッケージに入っている。「旅行のカスタマージャーニーにおける各接点で最適なコンテンツを導入したいという法人様からの声が増えており、開発した」(ナビタイムジャパン荒井氏)という。
ロケーションテックとユーザー生成コンテンツが生む新しい世界
いよいよスタートした、札幌観光バスの「たびポス」。まずは北海道の旅程を対象に、その後は日本全国での展開を視野に入れる。インフルエンサーや地元の人といった「おすすめプランナー」による旅程紹介やランキングなど、投稿や閲覧を促す様々な仕掛けを用意し、まずは月間3万のユニークユーザー(UU)を目指す。
利用客層も、能動的に旅をする旅のヘビーユーザーを想定。「ツアー参加で貸切バスを利用する従来の利用客とは全く違った客層を獲得できる」(札幌観光バスの佐藤氏)と、客層の多様化に期待し、多言語展開した後は訪日外国人旅行者の利用も見込む。
ローンチから1年でのランニングコスト回収を想定しており、NAVITIME Travelとの連携によるアフィリエイト収入も期待している。さらに今後は、NAVITIME Travel Platformで開発中のマーケティング・分析機能の活用も予定。ユーザーの旅程閲覧・作成データをもとに、自社の貸切観光バスのルートや周遊パスのルート、ツアーの企画造成に活かしたい考えだ。2020年度の第3次補正予算の中小企業事業再構築促進補助金の採択を受けて実施する事業でもあり、札幌観光バスの佐藤氏は、「広域観光周遊を促す新業態として展開していきたい」と意欲を示す。
ただし、札幌観光バスの佐藤氏は、「マネタイズはもちろん重要だが、最大の目的は観光事業者として、タビマエからタビアトまで旅を想う時間を提供すること。旅行者同士の旅程の交換を促して旅行の価値を上げていく新しい文化を作っていきたい」と力を込める。
ナビタイムジャパンの荒井氏は、「当社の技術が、旅のノウハウを旅行者同士で共有・発展させていくという札幌観光バス様のアイデアを実現し、新しい観光サービスの開発につながったことは、ソリューション提供者である当社としてもうれしいこと」と、同社の技術が新たな観光を拓く一助となったことに喜びを表した。
同時に、NAVITIME Travel Platformで開発中のマーケティング・分析機能についても、「次世代のマーケティングデータを提供できるよう、しっかり作りこんでいきたい」と意気込む。同機能に対する期待の声は多く、「作成された旅程データをツール上で簡単に可視化し、旅行者の計画・行動を把握できるようにすることで、導入企業様が次のアクションにつなげられることが大切」と同機能の価値をアピールする。
自治体や企業が有名な観光地だけでない周遊を促し、定番ルート以外の新たな楽しみ方を旅行者に示すことが可能になるナビタイムのロケーションテック・ソリューション。「NAVITIME Travel Platform」に対しては今回の事例のほかにも、鉄道会社や道路事業者の周遊券・フリーパス券の販売促進や、自治体・DMOの広域周遊促進・マーケティング施策への活用、プランニング画面から直接予約につながる機能を活用したレンタカー企業の利用促進など、導入や引きあいが増えている。ポストコロナに向け、改めて地域にとっての観光の役割が問われているからこそ、新たな発想や行動を呼び起こす可能性を秘めている。
広告:ナビタイムジャパン
対応サービス:
コンテンツ提供例:
問い合わせ先:ナビタイムジャパン media-business-team@navitime.co.jp
記事:トラベルボイス企画部