コロナ禍で消えたインバウンド需要の回復が力強い。日本政府観光局(JNTO)によると、2023年1月の訪日外客数は149万7300人。コロナがまだ蔓延していなかった2019年同月比では4割減の水準にとどまっているものの、2019年の数値を超える市場も出てきている。一方で、3年以上に及ぶコロナ禍で外国人観光客の受け入れが止まっていた観光地の現場では混乱も起きており、環境整備や人手不足への対応といった観光の再構築も喫緊の課題となっている。
外貨を稼ぐ輸出産業としても、日本の未来を左右するインバウンドビジネスの復活。トラベルボイスでは「観光庁の未来を、観光庁の課長に聞く」インタビューシリーズを展開している。今回は、国際観光課課長の齊藤敬一郎氏に、かつての勢いを取り戻すための鍵となる施策、コロナ禍を経た変化、国際観光課の組織モデルなどを聞いてきた。
訪日プロモーションを統括
観光庁に6つある「課」の中で、いま熱い関心が寄せられているのが国際観光課だろう。国際観光課は、要員35名で訪日プロモーションの統括、実働部隊である日本政府観光局(JNTO)の機能強化、地方自治体との連携強化を担っており、インバウンド受け入れ再開に向けた行政の中心組織である。2023年度予算の柱のひとつが「インバウンド回復に向けた戦略的取り組み」であり、国際観光課が管轄する訪日プロモーションの実施に前年比1.9倍となる123億5600万円が割り当てられていることも、国として重要視している姿勢が表れている。
国際観光課の上部組織には2019年に新設された国際観光部がある。国際観光課のほかに、政府内・官民横断体制の構築、コンベンションビューロー改革、ユニークべニューなどの活用を担当する参事官(MICE担当)、国際関係、観光人材政策担当の参事官もいる。IR担当も別の参事官だ。実は、インバウンドとひとくくりにいっても、文化資源を活用したインバウンドのための環境整備は文化庁、国立公園のインバウンドに向けた環境整備は環境省が担当などと、さまざまな省庁、観光庁の組織が関わっている。齊藤氏は「もともと観光庁は2008年に設立された当初から、さまざまな省庁から人材が集まった組織。全方位で日常的に連携を図りながら施策を進めている」と話す。
人数より「消費額」が目標
インバウンドの回復が見え始めるなか、2023年の訪日プロモーションを齊藤氏はどのように考えているのか。「コロナ前の2019年は訪日外国人旅行者数が3188万人、訪日外国人旅行消費額が4.8兆円と、人数に対し、消費額の伸びが弱く、オーバーツーリズムも課題になっていた。2023年は人数より消費額の増加を意識し、足元の円安メリットも活かしながら2019年を上回る5兆円の目標に向け全力で取り組んでいく」(齊藤氏)。
そのために、重視するのが、高付加価値旅行者の誘致強化と地方誘客の促進だ。日本の魅力を全世界に発信する観光再始動事業として、地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに力を入れている。「消費額を上げ、地域を活性化するためには、富裕層を地方に誘致することが不可欠。地域に根差した観光資源の1つひとつ磨き上げるとともに、高付加価値旅行者層の取り込みに向け、全国10カ所程度のモデル観光地の計画策定、コンテンツ造成を集中支援し、全国的に横展開していきたい」と齊藤氏は語る。
海外向けに磨き上げ、発信が重要
ただ単に、地域に根差した観光資源をアピールするのではなく、インバウンド向けに素材を用意し、見せ方も工夫しなければならないと指摘する齊藤氏。「たとえば、地域の人たちがいくら“日本一”と訴えても、それが外国人にとって魅力的かはわからない。海外に向けて、その国・地域に合ったコンテンツをわかりやすくアレンジして発信するとともに、国内向けと海外向けの違いを、自治体をはじめ、観光に携わる方々に気づくきっかけを与えるのも国際観光課の仕事」と話す。SNSでの発信ひとつとっても、ターゲットを明確化し、国・地域によって変えていく戦略が求められると説く。
では、高付加価値な旅行を求める来訪者が“地方”に求めるのは何か?「富裕層に喜ばれる宿を起点に、おもてなしができる人材による体験コンテンツをそろえ、二次交通を含めて情報発信していくことが、消費額をアップさせるうえで大切なポイントになる」と力を込める。大阪・関西万博が開催される2025年はひとつのターニングポイントであり、地方誘客を促進する大きなチャンスとみている。
齊藤氏は、国際観光課課長に着任する前は、JNTO北京事務所所長だった経歴を持つ。水際対策などから日本のインバウンドにとって主力の中国人観光客はいまだ復活していない。だが、コロナ禍でも中国では日本製品があふれて近しい存在である一方、SDGsに対する関心が高まるなど、他国・地域と同様に、今後の回復に向けた準備では変化が求められるとの見方だ。
2023年を「本格的なインバウンド復活の年」と位置づけ、リピーターの多いアジアを皮切りにプロモーションを強化し、消費単価の高い欧米豪市場に向けた継続的な情報発信を図っていくという齊藤氏。アフターコロナ、withコロナで観光産業を再び成長軌道に乗せるために、インバウンドが担う役割は大きい。