環境省に「国立公園」の高付加価値化への取り組みを聞いてきた、地域に求められる「伝えるチカラ」とは?

2023年3月に閣議決定された新たな観光立国基本推進計画で、軸足とされた持続可能な観光地域づくり。環境・経済・地域社会と文化的観点でバランスの取れた旅行が模索されるなか、あらためて着目したいのが、環境省が管理する国立公園の存在だ。国立公園が目指す上質なツーリズムについて、環境省 自然環境局 国立公園課 国立公園利用推進室長の岡野隆宏氏に聞いてきた。

地域に根差すレンジャーたち

「レンジャーは観光の専門家ではないけれど、自然を通じて感動が生まれる。その結果として、地域経済が活性化する産業を創出していくことが重要だと考えています」

岡野氏は開口一番、こう力を込めた。レンジャーとは、環境省の自然保護官のこと。アメリカの国立公園の「パークレンジャー」にならい、1953年に12名が各地の国立公園に「現地駐在管理員」として配置されたことに始まる。その仕事内容は、自然破壊を防ぐ規制に関する各種許可から公園づくり、利用のための整備、美化清掃、子どもたちへの環境教育まで多岐にわたり、まさに国立公園の案内人である。岡野氏もその1人として、阿蘇くじゅう国立公園、西表石垣国立公園で現場勤務を経験してきた。

全国に34ある国立公園は、日本を代表する優れた風景と生物の多様性の宝庫、最高の自然体験ができるフィールドだ。そこで目指す観光には、「保護」と「利用」の両輪がある。岡野氏は、「かつて高度経済成長期やバブル期には少なからず自然が損なわれた。乱開発、旅行会社による低価格競争の結果、国立公園にも廃屋などが残された。残念ながら、このような観光は保護と利用が”対立”していたと言わざるを得ませんが、レンジャーとして地域に根差し、住民、自治体、民間事業者と向き合うことで徐々に改革してきました」と語る。

国立公園の観光は「保護」と「利用」の両輪

全国に約200名いるレンジャーたちの努力とともに、国立公園を「保護」しながら「利用」するための大きな契機となったのが、2016年にスタートした「国立公園満喫プロジェクト」だ。同年3月にとりまとめられた「明日の日本を支える観光ビジョン」で、改革を進める10本の柱の1つとして国立公園が取り上げられたことを受け、国立公園の保護と利用の好循環により、優れた自然を守り地域活性化を図る取り組みが本格化した。

具体的には、先行的に8つの国立公園を選定し、2020年までにプロモーション、ビジターセンターなどの施設改修、Wi-Fi整備、多言語化などの基盤を整備。新型コロナの影響で国内外の利用者数は大幅に減少したが、アウトドアレジャーやテレワークの関心の高まりによる新たなライフ&ワークスタイルへの転嫁を見込み、アドベンチャーツーリズムへの注力、リトリート空間の充実、自然な文化を体験するコンテンツ拡充、デジタル化、8公園からの横展開など、現在も新たな施策が進められている。

「基本方針は、守られてきた自然を生かしながら次につないでいくこと。基盤整備はもちろん、地域活性化に向けて地元のみなさんと議論する機会がより増えたことで、一緒に国立公園を通じたツーリズムを盛り上げていこうとする機運が高まったのは大きな成果です」と、岡野氏は手ごたえを示す。

重要なのは、背景にある「物語」を伝えること

国立公園満喫プロジェクトのブランドメッセージは「その自然には、物語がある。」。岡野氏は、この「物語(ストーリー)」とともに、「インタープリテーション(伝える手法)」、「ルール」、「体験コンテンツ」、「ツアー化」の5つの要素が上質なツーリズムには必要だとみる。

「日本の国立公園は公園専用用地として利用されているアメリカやカナダとは異なり、人の暮らしがあるのが特徴です。自然の成り立ちとともに、人の営みを伝えるストーリーに沿った五感で体験できるコンテンツを付加することで、感動と学びが生まれ、面のツアーの造成につなげることができます。こうした感動と学びをサポートするため、地域の魅力や価値を来訪者と共有するためのコミュニケーションであるインタープリテーションも重要な機能。また、レスポンシブルツーリズム(責任ある観光)が注目されるようになり、保護と利用の好循環を生むルールも利用者に好意的に受け止められつつあります」(岡野氏)。

保護と利用の好循環を生むルールの一例では、北海道・弟子屈の阿寒摩周国立公園で硫黄山(アトサヌプリ)の特定自然観光資源である噴気孔を守るための取り組みがある。関係者間の合意によってルール策定ができるエコツーリズム推進法のもと、同地域では硫黄山を立入制限区域に指定し、人数制限を導入。同時に制限区域に立ち入ることのできる認定ガイド制度を創設し、トレッキングツアーを開発した。ツアー参加費の一部は、自然保護に充当するという仕組みを構築して保護と利用を進めている。岡野氏は「ルールに伴った限定体験は、高付加価値化にもつながると考えています」と話す。

地域に求められるインタープリテーション計画

もっとも、物語を伝えるインタープリテーションの計画作成、国立公園全体を貫く全体コンセプト、人材育成など、これから取り組むべき課題も山積している。

アメリカではすべての国立公園でつくられているインタープリテーション全体計画。「我々の国立公園のプロモーションでこれまで足りなかったのは、なぜ、どのような人々に、いつどこで、どんな経験や体験をしてもらって満足してもらえるか、それをどう発信していくかという全体的なデザイン。一つひとつの資源を組み合わせることでテーマを定め、伝えたい情報に応じて体験コンテンツやツアーを展開していかなければなりません」(岡野氏)。

実際、日本でもインタープリテーション全体計画を作成する動きも出始めている。岡野氏によると、2022年度、雲仙天草国立公園を擁する長崎県の雲仙観光局が観光庁の「令和4年度サステナブルな観光コンテンツ強化モデル事業」を利用し、環境省も協力する形で「雲仙温泉地区 インタープリテーション全体計画」を作成した。

旅行者と共有したい雲仙温泉ならではの価値として、火山と人々の暮らし、外国人避暑地としての歴史、雲仙温泉と信仰、自然の恵みと心身の健康(ウェルネス)を整理。一例として火山と人々の暮らしでは、「雲仙地獄や三つの異なる泉質を持つ温泉はマグマからの贈り物である」といったさまざまなストーリーを明確化し、そのためのおすすめの場所や体験を詳しく紹介している。

雲仙観光局はインタープリテーション全体計画作成の目的を「美しい自然景観や気持ちのよい温泉は、誰もが楽しめるものだが、それらの背後にあるストーリーは見ただけでは知ることができない。資源と来訪者を結び付けることで観光の活性化を図る」とし、地域関係者には「インタープリテーションに自分らしさ、売り・得意なことをかけ算して表現いただくことで、より地域の魅力・価値を立体的に表現してほしい」と訴えている。

また、環境省の国立公園利用推進室はエコツーリズムを主管している。地域のエコツーリズム推進のための基本的な計画「エコツーリズム推進全体構想」は、現在のところ全国22地域を認定。環境省として、これらの地域を継続的に支援している。岡野氏は、これらの認定地域においても「地域の自然や文化に対する知識や経験を案内するために、インタープリテーション計画や人材育成が重要」と話す。


2024年に誕生から90周年を迎える国立公園。その始まりは、昭和金融恐慌、不況を打破するための国際的観光の振興で、まさにインバウンド誘致のはしりだったともいえる。

「国立公園が目指すのは、トランスフォーメーションを促すような、物語性のある『感動』と『学び』。上質なツーリズムによる経済効果で、自然環境と地域社会・文化を大きくすることができれば、感動はさらに大きくなっていく。長期的な視野を持って取り組んでいきたい」とあらためて強調する岡野氏。その取り組みには、日本のサステナブル・ツーリズムの未来へのヒントが詰まっていた。

環境省 国立公園利用推進室長の岡野隆宏氏

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事:野間麻衣子

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