日本政府観光局がインバウンド回復の動向を分析、課題は航空直行便の復活と地方誘客、3つの柱でマーケティング推進

2023年6月の訪日外国人旅行者数(推計値)は207万3300人となり、コロナ禍後、初めて単月で200万人を超えた。上半期で1000万人を突破し、順調な回復を見せている。2022年10月以降の回復のスピードをエリア別に見ると、2019年比で最も早いのが米国とオーストラリア。欧州や中東も右肩上がりで回復。東アジア(中国を除く)と東南アジアは9割近くまで回復している状況だ。日本政府観光局が実施したインバンド回復状況を説明する記者会見の内容をレポートする。

日本政府観光局(JNTO)理事の中山理映子氏は、インバウンドの回復について「東京が先んじて回復しているが、地方部への誘客が遅れている」との課題認識を示す。コロナ前に地方宿泊数が多かった東アジア市場の回復が、遅れているためだとしたうえで、「東アジアから地方空港への直行便の回復すれば、地方部への誘客も進む」と今後に期待感を示した。

6月の直行便と訪日客数の需給バランスを見ると、全体的に訪日客数の回復が直行便の回復を上回る市場が多く見られる。2023年夏期スケジュールでは、国際線はコロナ前の約6割まで回復し、東アジアを中心に増便や復便が続いているが、日本発のアウトバウンドが伸び悩むなか、コロナ前の水準への回復には至っていない。

また、2023年4~6月の訪日外国人旅行消費額は2019年同期比95.1%の1.2兆円。一人当たりの旅行支出は20.5万円と推計されている。すでに、政府が観光立国推進基本計画の中で目標としている20万円を達成しているが、中山氏は「今後、マスツーリズムが回復するにつれて、全体としては下がっていく傾向になるのではないか」との考えを示し、今後も政府目標の達成に注力していく方針を強調した。

インバウンド市場の動向を説明する中山氏3つの柱で訪日マーケティング戦略

このほか、中山氏は、JNTOが今年6月末に発表した「訪日マーケティング戦略」について説明した。観光立国推進基本計画を踏まえて、持続可能な観光、消費額拡大、地方誘客促進の実現に向けて、市場別マーケティング戦略、市場横断マーケティング戦略、MICEマーケティング戦略を進めていく。

市場別マーケティング戦略では、「よりきめ細かいプロモーションを展開していく」(中山氏)。消費額の大きさ、地方宿泊の可能性、一定程度の人数が見込めるセグメントをターゲットに、そのターゲットごとに訴求コンテンツを整理する。

例えば、米国の場合、海外旅行者推定2600万人のうち、訪日客は172万人であることから、伸び代はあるとして、人数を優先する。そのうえで、訪日経験者/未経験者、世代、世帯可処分所得別に4つのターゲットを定めて、それぞれで訴求コンテンツを設定した。

市場横断マーケティング戦略では、アドベンチャートラベル(AT)に注力。JNTOは、今年9月に北海道で開催される「アドベンチャー・トラベル・ワールド・サミット2023(ATWS2023)」で、「ジャパン・ラウンジ」を設置し、全国のATコンテンツを発信するほか、商談会でも情報発信を行う。

市場横断プロモーション部次長の門脇啓太氏は「ATでは、長期滞在も期待できるため、点ではなく面でコンテンツを揃えていく必要がある」と話したうえで、ATWSは日本をATデスティネーションとして世界にアピールする絶好の機会と位置付けた。

また、高付加価値旅行については、JNTOをDMOや宿泊施設など全国のサプライヤーからサービス内容を収集・蓄積するハブ機能として、海外への情報発信・販売の支援を強化していく。課題は、高付加価値旅行者の7割近くが東京、大阪、京都に集中していることから、観光庁が選定した「高付加価値なインバウンド観光地づくりモデル観光地」の取り組みや国内関係者とのネットワーキングイベントなどを通じて、地方への分散化も進めていく考えだ。

大阪・関西万博に向けては、中国・台湾のほか、万博開催経験のある米国、イタリア、ドイツ、中東などを誘客ターゲットとする。開幕1年前から開幕中には、訪日旅行の認知を高めるほか、「万博+地方」の取り組みも進めていく。

MICEマーケティング戦略では、国際機関や業界団体との連携を強化し、国際会議とインセンティブ旅行の誘致に注力していく。

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