2023年3月30日に北海道北広島市に開業した「北海道ボールパークFビレッジ」。北海道日本ハムファイターズの本拠地となる「エスコンフィールド」を核としつつも、多様なパートナーと共に「共同創造空間」を創り出している。プロ野球観戦だけでなく、交流の場を生み出す観光にも注力。北海道の新たな集客コンテンツとして、あるいは北海道観光のハブとして、さまざまな仕掛けを実施・企画している。ただの箱物にとどまらない、その観光戦略を取材した。
年間来場者数300万人を想定、旭山動物園を大きく上回るか
3月12日のプレオープンから、3月30日のプロ野球開幕を経て、5月14日までの63日間、Fビレッジには約90万人が訪れた。1日平均約1万4300人。試合がない日の来場者数は平日で約5000人、休日で約1万人。総来場者数のうち38%が野球観戦以外の来場者になっている。
Fビレッジには、さまざまなアトラクション、レストラン、ショップなどがあり、エスコンフィールドでは試合がない日にもスタジアムツアーを実施するなど、集客力は高い。担当者は「当初想定していた以上の来場者でびっくりしてる」と驚きを隠さない。
来場者の居住エリアを見ると、当然ながら道内が約8割と大部分を占めるが、道外も昨年までの札幌ドームと比較すると1割から2割に拡大した。
また、札幌ドーム時代と比べると年代別では20代の来場者が増加。飲食や温泉サウナなど野球観戦以外の目的での来場者が目立つという。野球観戦しながら温泉サウナが楽しめるユニークさがSNSなどで話題にもなったことから、温泉サウナの利用者のうち20代・30代は約半数を占めるという。
さらに、札幌ドーム時代と比較して、団体来場者が増加しているのも特徴だ。修学旅行や企業研修での来場が増加。2023年は2019年比4倍強の13.6万人を見込む。
ファイターズスポーツ&エンターテイメントでは、2023年の来場者数の目標を300万人と設定。これは、北海道のキラーコンテンツである旭山動物園の約140万人(2019年度)、登別温泉の約100万人(2019年度)を大きく上回る。ファイターズのホームゲームは年間70日。野球観戦が目的の来場者を約200万人、それ以外の目的の来場者を100万人と想定しているという。
多彩なコンテンツが揃う「ボールパーク」
「ボールパーク」とうたっている通り、Fビレッジにはエスコンフィールド周辺にさまざまなアクティビティが揃う。いずれもパートナー企業との協業施設だ。
長野県のEXコミュニケーションズとは、「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE アドベンチャーパーク」、ユニ・チャームとはドッグラン「DOG PARK」、大正製薬とは「リポビタンキッズ PLAYLOT by BørneLund」。6月30日にはクボタが「KUBOTA AGRI FRONT(クボタ・アグリ・フロント)」をオープンした。
また、世界的な自転車ブランド「スペシャライズド」は、日本初となるエクスペリエンスセンターをオープン。レンタル事業を通じて、コロナ禍を経て再評価されているサイクルツーリズムの楽しさを伝えている。
エスコンフィールド内には、クラフトビールの醸造所兼レストラン「そらとしば by よなよなエール」、多彩な食を集めた「七つ星横丁」などが入る。球場内ながら試合のない日でも開放し、球場イコール観戦だけではない自由な楽しみ方を提案している。
野球というコンテンツを活かしたアトラクションとしては、「きつねダンス」で一躍全国区となったファイターズガールが案内する「スタジアムツアー」も人気を集めている。プレミアムツアーでは、ロッカールームやプルペンも見学することが可能だ。
ユニークな3カ所の宿泊施設、球場直結のホテルは完売
Fビレッジ開業にあたって、大きな話題を集めたのが、球場内の複合施設「TOWER 11(タワーイレブン)」。泊まりながら野球観戦ができるホテル「tower eleven hotel(タワーイレブンホテル)」は、ホテル運営のデジタルサービスを提供する「スクイーズ(SQUEEZE)」が運営する。客室は12室。フィールドに面していない客室でも、ルーフトップにアクセスすることで、試合観戦が可能になっている。2ヶ月先の予約を受け付けているが、今シーズンの試合日は、ほぼ完売しているという。
TOWER 11には温泉サウナも併設。宿泊者はここからも観戦することが可能だ。宿泊者に加えて、日帰り温泉としても開放している。
このほか、Fビレッジには、藤井ビルが運営する全9棟のプライベートヴィラ「ヴィラ・ブラマーレ」、パワーステーションが運営するグランピング「ボールパーク タキビ テラス オルパ」がある。
Fビレッジは、スポーツの価値と北海道の魅力を発信するパートナーとの事業を複合的に組み合わせて、地域社会の活性化につながる空間の創造を目指している。開業1年目で、そのコンセプトは形になりつつある。
観光戦略ではプレミアム周遊ツアーのアイデアも
Fビレッジへの集客戦略に加えて、北海道観光の訴求も意識している。組織内には、団体客の受け入れを担う部署も新設。JTBともパートナーシップを結ぶなど、観光事業を戦略的に進めている。
Fビレッジの観光戦略は主に二つ。一つはショーケース機能だ。さまざまな北海道の魅力を発信することで、Fビレッジを道内観光への玄関口にしていこうというもの。新千歳空港と札幌との中間地点という立地もその機能にとって最適という考えだ。空港から札幌に向かう途中、あるいは空港へ向かう途中で、スーツケースを引きながら訪れる旅行者も見かける。
もう一つは観光のハブ機能。Fビレッジからプレミアムパスを活用した道内周遊ツアーとして、野球観戦、Fビレッジ内での宿泊、翌日にはワイナリーへのツアーなどのパッケージ商品のアイデアが練られているという。
このほか、観光戦略ではインバウンド市場へのアプローチも強めていく方針だ。野球が盛んな台湾や韓国ではエスコンフィールドを含めたコンテンツを打ち出し、一方で野球が文化として定着していないシンガポールやタイなどでは、総合エンターテイメントとしてのFビレッジをアピールしていくという。
エスコンフィールドの回遊型コンコースには、ファイターズ出身のダルビッシュ有投手や大谷翔平選手の巨大な壁画もあり、その前では写真撮影の人で溢れていた。二人も陰ながら集客に一役買っている。Fビレッジの観光戦略を含めた持続可能な集客施策は今後も続けられる。
取材、記事:トラベルボイス編集長 山岡薫 / トラベルジャーナリスト 山田友樹