Trip.com国際市場担当者に聞いてきた、日本発の海外旅行を伸ばすカギから、成熟するアジア市場への戦略まで

日本のインバウンドの成長に大きく寄与している、アジアの国際旅行市場。中間層の増加で世界的にも注目される市場だが、旅行スタイルに変化が起きている。日本は勢いづくアジアの中で、世界から注目の集まる旅先として独特の存在となった。こうした中、オンライン旅行大手のトリップ・ドットコム(Trip.com)グループは、引き続き日本を最重要市場と位置づけ、注力している。目的地としてのコンテンツの拡充はもちろん、ソースマーケットとして日本人の海外旅行の取り扱いも伸ばしているという。

2024年5月に来日した、Trip.comグループのアジア太平洋地域(APAC)国際旅行市場を担当するルー・イー氏(アジアパシフィックリージョン インターナショナルマーケット アシスタントバイスプレジデント)に、アジアの国際旅行と日本発海外旅行、訪日インバウンドの3つのトピックで、トレンドの変化や需要獲得の取り組みなど聞いた。

アジア国際旅行:滞在長期化、宿泊施設そのものを楽しむ志向も

アジア太平洋地域(APAC)のなかでも、アジアの国際旅行はコロナによって抑えられていた需要の反動と中間層の増加によって強い伸びが見られる。イー氏は、目的地としては韓国や台湾、タイ、ベトナムの人気が高く、文化や歴史遺産的な建造物、食などの魅力に加え、相対的に割安な宿泊施設があることも人気の理由だと見ている。

これに加え、イー氏はさらに2つのトレンドの変化を指摘。1つはアジア域内でも、東南アジア、東アジアでそれぞれの域内での旅行の需要が増えていること。もう1つは、よりサステナブルな旅行や環境を意識した旅行への関心が高まっていることだ。

特にコロナ後に顕著になった変化として「1つの滞在先の日数が約0.2泊増と長期化し、その分、滞在地域を深掘りした体験を好むようになった」(イー氏)。「以前はタッチ&ゴー的にあちこち回り、ホテルは寝るだけという旅行が多かったが、今は宿泊施設での滞在自体やその周辺の地元の体験を望む需要が増えた」と話す。

成熟化へと向かうアジアの国際旅行市場。その背景には「SNSによって、様々な情報へのアクセスが容易にできるようになったことがある」と指摘。トリップ・ドットコムでも、「トリップ・ベスト」や「トリップ・モーメント」など、様々な形で各国地域の旅行者が好むローカル情報の発信を強めている。「以前は地元の人しか知らないような情報でも、域外の人々が容易に得られるようになっている。それが、急速な成熟度を支えているのではないか」と考えている。

日本人の海外旅行:行く理由の具体化がカギ

トリップ・ドットコムは引き続き、日本を最重要市場として位置づけている。イー氏は日本を「人気1位のデスティネーションであり、人口の多い供給市場でもある独特の市場」とし、「最重要市場は日本以外、考えられない。最も注力している」と言い切る。

同社が日本発の海外旅行を重視するなか、その需要は2019年の6割程度。一方で、トリップ・ドットコムでは「プラス成長しており、堅調」(イー氏)だという。人気の方面は韓国や台湾、タイといったアジア域内。客層はシニア層とZ世代を中心とした若年層中心で、シニア層はウェルネス目的の滞在体験をはじめ、よりラグジュアリー志向が高まっている。そして若年層は「アドベンチャー志向で、アクティビティや祭りなどのイベントへの参加意欲が高い」。その一例として、タイの水かけ祭り(ソンクラーン)の時期は、同社の予約が急増したことを紹介した。

日本人の海外旅行が全体的に回復が遅れるなか、なぜトリップ・ドットコムはコロナ前よりも需要を取り込めたのか?

イー氏は、日本人の海外旅行の動向として、円安や物価高のなかで「以前はハワイに1週間の旅行をしていた消費者が、近場での短期間の旅行にシフトしている可能性がある」と指摘。新規ユーザーによる予約も増えており、その理由として(1)デジタル広告などによるブランディングの強化、(2)アプリの徹底的なローカライゼーション、(3)カスタマーサポート、の3点をあげて「海外旅行でも認知が高まっている」と説明した。

特にカスタマーサポートについては、コロナ禍でもサービスを継続。「24時間、日本語でフライトに関するカスタマーサービスを提供するのは当社だけ。そこも強い支持を得られている理由だと思う」と自信を示した。

少子高齢化で人口減が必至の日本。海外旅行の回復も鈍いなか、日本のアウトバウンド市場をどうみているか。イー氏は「今後も伸びていく」とポジティブだ。その理由は、海外旅行に関する検索数自体は「そんなに悪くない」ことや、中長距離から短距離方面への需要のシフトを示し、「海外旅行に行きたい意欲は引き続き堅調といえる。旅行以外にも魅力的な体験は様々あるが、自分の知らない言葉や文化、食事といった非日常体験ができる海外旅行のニーズは、あり続けると思う」と力強く述べた。

ただし、潜在的な海外旅行需要を顕在化させるには、アプローチを工夫する必要性を指摘。例えば、同社がSNSで実施した韓国のアイドルのコンサートチケットに関するプロモーションでは、強い引き合いがあった。「仮説になるが、情報が手に入りやすくなった今の世の中では、(各消費者の)海外旅行に行く理由がもう少し具体化されると、為替など外部環境に関わらず、需要が戻ってくるのではないか」と考えている。

訪日インバウンド:より地方へ、観光での貢献を重視

訪日インバウンドについては、コロナ前との違いは「東京や大阪、京都などの大都市はもちろん、北海道や九州など、より地方への関心が向いている」。温泉やスキーなど、提案できる素材が多様な点も日本のデスティネーションとしての特徴だが、訪日客の国や地域によって、好みが違うという。

また、宿泊施設では引き続き、特に家族旅行など全員でゆったり滞在できる民泊が宿泊施設として人気。純和風旅館も、温泉のある宿があったり、夕食付きにすれば和食が一式楽しめるとして、人気が高まっている。トリップ・ドットコムでは、地方の宿泊施設との契約はもちろん、地方で宿泊する需要につながるようなコンテンツの掲出も増やしている。

「ビジネスを成長させることは重要だが、どちらかというと、隠れた日本の魅力を提案し、需要を作ることに注力している。すでに人気を得て多くの観光客が訪れている都市よりも、例えば新幹線がつながった福井など、まだ観光客を増やせる地方の魅力を知り、訪れてもらうことに注力したい」(イー氏)と力を込めた。

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…