米トランプ大統領は2020年3月12日、欧州26カ国からの訪米を制限すると発表した。新型コロナウイルスのパンデミック対策の一環で、感染拡大による米経済への打撃や市民生活の混乱に対処するためとしている。
欧州から米国への渡航制限は、3月13日金曜の午後11時59分から発効とし、対象期間は30日間。
AP通信によれば、トランプ大統領はこれまで新型コロナウイルス感染拡大に対し、楽観的な見方を示してきたが、今回の声明では、欧州における対応の遅れを非難。欧州からの旅行者が「種を持ち込んだ」ことで、米国内に複数のクラスターが発生したとしている。
「中国には早い段階から対処し、これが防疫に役立った。今度は、欧州が同じ状況になっている」とトランプ大統領。ただし英国は対象外。そのほか、「適切なスクリーニング検査を受けた米国人」(同大統領)や貨物も対象から外した。状況が改善すれば、予定を切り上げて、渡航制限を解除する可能性もあるとしている。
米国土安全保障省が明らかにした詳細によると、今回の渡航制限の対象となるのは、訪米前の14日間に「シェンゲン協定」対象地域を訪れた外国籍の旅行者で、イタリア、ドイツ、ギリシャ、オーストリア、ベルギーなどが含まれる。米国の永住権を持つ居住者、米国市民の近親者、または「今回の声明で言及している条件の該当者」は含まれない。
これまでの楽観ムードから一転、米政権が新型コロナウイルスに対する強い危機感を表明したことで、比較的穏やかだった米国内の様相も一変した。各地でイベントがキャンセルとなり、大学では対面での授業は休講となった。学校に通う子供を持つ家庭も、対応に追われている。現在、米国内での感染者数は1000人以上。WHO(世界保健機関)はパンデミックを宣言している。
一方、米議会では3月11日、数十億ドル規模の予算を組んだ救済策を打ち出したところで、早ければ12日中にも採決が行われる。議会の調査委員会で、今後の見通しについて意見を述べたアメリカ国立アレルギー・感染症研究所のディレクター、アンソニー・ファウチ博士は「今後、感染者はさらに増えて、状況は悪化する」との見方を示し、「新型ウイルスによる致死リスクは、季節性インフルエンザの10倍にのぼる」指摘した。
トランプ大統領の発表後、米国防省でも関係者に向けて複数の指示を通達。CDCが新型コロナウイルス感染の高リスク地域に指定している中国、イラン、韓国、イタリアの4カ国からの往来について、軍関係者とその家族などを対象に、60日間、あらゆる渡航を制限する方針を決めた。
だが、今回の大統領による対策は、旅行による感染拡大を主に意識した内容となっていることについて、効果を疑問視する声もある。米国内ではすでに「コミュニティ内での感染拡大」が始まっており、渡航歴や旅行者との接触が見当たらない感染ケースが出ているからだ。一方で、検査体制が不十分なため、正確な感染状況が把握できないのではという市民からの不安払しょくについての言及はなかった。病院に十分な感染者の収容力があるのか、それとも飽和状態になりかねないのか、といった問題も懸念されている。
ジョージタウン大学の公共衛生専門家、ローレンス・ゴスティン氏は、大統領の声明後、「欧州のほとんどの地域は、米国と同じぐらい安全だ。それにCOVID-19はすでに米国に入り込んでいる。細菌に国境は関係ない」とツイッターに投稿した。
首都ワシントンでは、現在も訪れる観光客の姿があるが、匿名希望の関係者によると、こうしたツアーも間もなく受け入れ中止になる模様だ。