「3密回避」で楽しむ旅体験とは? コロナ時代の「観光×デジタル」への取り組み、DMOからホテルまで聞いてきた

withコロナ時代、人々の中に新たな価値観や生活習慣が広がり、日常の様々な場面で急速にデジタル化が進んでいる。こうした変化は、観光分野にどのような影響を及ぼしているのか。地域や観光事業者はこの変化にどう対応し、デジタル化に取り組んでいけるのか。

地域情報・買い物情報サービスを手がけるロコガイドが実施したオンラインセミナー「3密回避・これからの観光×デジタルを考える」では、計4つのセッションにわたり、DMOや自治体、観光テック企業などが、withコロナ時代のデジタル化や取り組み事例を共有した。

コロナで加速する観光の変化

基調セッションでは、トラベルボイス代表取締役社長CEOの鶴本浩司が、コロナ発生後の観光様式「観光ニューノーマル」として、特に6つの分野(おもてなし、旅行予約の変更・取消、旅行商品、旅行スタイル、観光衛生マネジメント、観光誘致)で起こっている事象や今後のトレンドを提示。その実現に「非接触」「リモート」「追跡アプリ」など、デジタルを使った技術が活用されていることを説明した。

鶴本は、こうした「観光×デジタル」はコロナ以前からあったものであるが、コロナによる人々の概念や価値観の変化に対応しながら社会に浸透していることも指摘。「誤解を恐れずに言えば、感染拡大防止の一環で一気に進んだ。これはまだ始まったばかりで、観光関係者にもチャンスがある」と強調した。

これを受け、ロコガイド取締役COOの片桐優氏は今後の観光のあるべき姿について、「ハードとアナログ志向のおもてなしで付加価値を創出していたビジネス構造から、ハードの上にソフトの資産を作り、デジタル志向でビジネスを回す。これによって耐久性の高いビジネスモデルが作れる」との考えを提示。片桐氏がCMOを務める静岡県中部地域の地域連携DMO「するが企画観光局」の事例を紹介した。

同DMOが担う県中部の5市2町は、定住人口当たりの観光交流人口(県外からの宿泊客)は伊豆地域の3分の1に満たず、「観光目的地としてのブランドが弱い」(片桐氏)という課題があった。そのため、同DMOの活動は「新規コンテンツの開発と情報流通に注力しているのが特徴」(片桐氏)だという。その取り組みの一つが、事例として取り上げた「茶畑の中のティーテラス・茶の間」だ。

(右)ロコガイド兼するが企画観光局の片桐氏、(左)トラベルボイスの鶴本

「開放感×プライベート」の威力

この取り組みは、一大産地として知られる茶畑を観光コンテンツとし、生産農家と共同経営するもの。山間部の斜面や丘陵地帯に多い茶畑の見晴らしの良い場所にウッドデッキを設置し、そこの農家が、自らが生産したお茶と茶菓子付きで貸し出す。茶畑と周辺地域を見渡せる場所を独占し、自由に過ごせる贅沢な空間と時間の提供が、この商品のキモであり、利用者が体験できる付加価値だ。

1組90分の予約制で、料金は1人3000円。持ち込みも可能とした。これを日本平や牧之原など、エリア内6か所で実施した。すると、コロナ禍の今年3月~9月の約半年間で、予約受付停止や県内限定受付にした期間があったにも関わらず、予約数は4090人となり、そのうち55%を県外からの利用者が占めた。

成功要因は、取り組みの特徴とコロナ禍で人々が求める要素が合致したこと。コロナ禍で旅行先選びを従来以上に吟味する中、このテラスのプライベート利用は、コロナ対策で推奨される「3密回避」で楽しめる体験となる。メディアでも「新しい旅」として多く取り上げられ、片桐氏は「利用者もSNSで写真投稿し、オーガニック(自然検索)で情報が拡散されたので広告費が下げられた」という効果もアピール。

さらに片桐氏はこの取り組みが、茶葉の需要減と高齢化で廃業が増加傾向にある静岡のお茶農家を支援し、観光資産でもある茶畑を守るものであることも説明。各農家は小規模ながら、それぞれが生産する茶葉は特徴的で味が異なるため「産地を巡るワインツーリズムに近いような形ができないか」と、ソフトとして活用することを考えた。

そして情報発信はほぼすべてデジタルに注力。既存の手法の考えが残るスタッフには「紙の配布物は来た人に案内するもの。発地にいる未来の旅行者にリーチするにはデジタルが必要」と説得した。

当日の運営もお茶農家が担当。最初にお茶等を提供するだけなので手離れが良いのもメリットという

事例発表の後、トラベルボイスの鶴本は「キーワードの『開放感×プライベート使用』が面白い。今の時代、この文字列を見ただけで安心するし、行ってみたいと思う。コロナ禍の人の心にすっと入ったと思う」とコメント。また、6か所それぞれで景色が異なるという点も「それ自体が観光素材になる」と評価した。

片桐氏は、「開放感」の言葉を使用したことについて、「『密にならない』など、「無いことを示すのではなく、有るものを伝える方がいい」と説明。さらに少ない在庫の単価を上げるため、プレミアム性の高い体験であることを打ち出すべく「プライベート」にもこだわったとし、「この商品設計が良かった」と振り返った。そして、このような取り組みはどの地域でもできる可能性があると述べ、「他とは違う地域の特徴を探し、選ばれる理由を作ることが大切」とアドバイスした。

各所で進む「観光×デジタル」、そのポイント

続くセッションでは、自治体や観光事業者の「観光×デジタル」ソリューションの事例とともに、デジタル化のポイントが話された。

「混雑を見える化する情報発信のデジタル革新」のセッションでは、店舗や施設の混雑状況を可視化して即時発信する「混雑ランプ」を提供するロコガイド地域情報事業責任者部長の小野寺康崇氏と、同サービスの実証実験を行なった浜松市シティプロモーション課課長の北嶋秀明氏が出演。小野寺氏はデジタル化のカギは、「従来のハードに対する投資視点から脱却し、低コストで即座に行なうこと」と説明した。

浜松市の北嶋氏も、「コロナは1、2週間で状況が変わるので、以前のような対応では間にあわない。月曜日に企画して、水曜日に決裁、金曜日にスタートという感覚」と、事業のスピード感を話した。実証実験では市内各所のほか、ロコガイドが混雑情報をオープンデータで提供することも活用し、市内有志がマスク販売箇所などを発信する市民サイトとも連携。「浜松市では市民と行政が一体になって安全情報を提供している。オープンデータでシビックテックにも導入できたことは大きい」と話した。

(左)浜松市の北嶋氏、(右)ロコガイドの小野寺氏

また、「デジタルを活用した地域観光の最前線」のセッションでは、デジタル地図「プラチナマップ」を提供するボールドライト代表取締役社長の宮本章弘氏と、全国の祭りを支援するオマツリジャパン共同代表取締役の山本陽平氏が出演。ボールドライトの宮本氏は、刻々と変わる消費者ニーズを正しく把握するためにも「データが必要」と強調した上で、「そのデータからインサイトを得ることが重要」と述べた。

オマツリジャパンの山本氏は、コロナによって多くの祭りが開催中止となった際、「デジタルの優先度が増し、表現方法の代替手段となった」と、オンライン開催が増えた状況を説明。今後、祭り開催が再開される見込みのなか、「デジタルとオンラインのハイブリッドが主流になる」とし、「開催当日だけではない、新しい祭りの楽しみ方をデジタルで行なう」と、伝統文化である祭りにもデジタル化が進んでいる状況を説明した。

(上)オマツリジャパンの山本氏、(下)ボールドライト宮本氏

最後の「withコロナにおけるテクノロジーを活用した宿泊体験」には、スマートホテル運営やプラットフォーム事業を展開するSQUEEZEのCEO館林真一氏と、旅行比較「LINEトラベルjp」を運営し、世界のオンライントラベル業界に精通するベンチャーリパブリックグループ共同創業者兼代表取締役CEOの柴田啓氏が出演。

柴田氏は、宿泊業界のデジタル化での課題として、「エンジニアを有する事業者が少ない」と指摘。その理由として、「テクノロジーは導入後、絶え間なく改善を続ける必要があり、外部ソリューションで取り入れても内部に理解できる人がいないと続かない」と説明した。舘林氏は「当社は人員の4分の1がテックチーム」と明かした上で、「外部に発注後、ブラックボックス化しているケースが多々見られる」と、多くの事業者の課題であることを説明。すべてを社内で揃えなくても、ITのリテラシーがあったり、プロジェクトマネージャーができる人材を抱える必要性を述べた。

また、柴田氏はデジタル化を進めるポイントとして「カスタマージャーニーマップをしっかり作ること」とアドバイス。その上で「ドラスティックに変えられる部分を見定めること。そして利便性だけでなく、ユーザーにワクワクする楽しみを与えられるようなエンタメ性を持たせることも必要」と話した。

(左)ベンチャーリパブリックグループの柴田氏、(右)SQUEEZEの舘林氏

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