ANAは、2021年3月期(2020年4月1日~2021年3月31日)の連結決算を発表した。それによると、年度を通じて新型コロナウイルスの影響によって旅客需要が大幅に減少したことから、昨年10月時点の予想から1000億円ほど改善したものの、過去最大の4046億円の赤字(前期276億円の黒字)を計上した。
一方、ANAホールディング社長の片野坂真哉氏は決算会見で「2022年3月期は必ず黒字化を達成する」と改めて意気込みを表明。営業利益280億円、純利益35億円の見通しを明らかにした。
2021年3月期の売上高は前年度比63.1%減の7286億円。運航規模の抑制による変動費の削減に加えて、人件費を中心に固定費を削減し5900億円のコスト削減に成功したものの、営業損失4647億円、経常損失4513億円を計上した。なお、収支改善に向けた事業構造改革費用として、863億円の特別損失も計上している。
航空旅客数:国際線96%減の43万人、国内線71%減の1266万人
中核の航空事業では、国際線は世界各国で入国規制が継続されたことから、旅客数が同95.5%減の43万人に落ち込み、旅客収入は同92.7%減の447億円となった。
国内線は、第2、3四半期はGoToトラベル効果もあり、需要が回復したものの、第4四半期に入り感染が再度拡大したことから需要が減退。最終的に、旅客数は同70.5%減の1266万人、旅客収入は同70.1%減の2031億円に落ち込んだ。
LCCも同様に5月の緊急事態宣言解除以降、旅客需要は徐々に回復していたものの、感染者数の増加に伴い12月からは減少に転じ、最終的に旅客数が同71.4%減の208万人、売上高は同73.1%減の220億円に終わった。
国際線貨物が過去最高を記録
一方、国際線貨物は好調に推移。8月以降は自動車関連部品や半導体・電子機器等の需要の回復に加え、特に第4四半期において海上輸送が混雑した結果、需給の逼迫が継続。ワクチン輸送なども開始され、貨物専用機による臨時便や旅客機を使用した貨物臨時便を大幅に増やした。その結果、国際線貨物収入は同56.3%増の1605億円となり、過去最高を記録した。
需要回復のカギは迅速なワクチン接種、デジタル健康パスにも注目
片野坂氏は、今後の需要回復について、「カギはワクチンの迅速な接種。世界の例を見ても、接種が進むと航空需要は回復する」としたうえで、遅くとも年内には主要国での出入国規制が緩和が始まるとの見方を示し、国際線はビジネス需要や駐在員の往来を中心に、第2四半期から回復の兆しが現れ、年度末にはコロナ前の5割水準に戻ると予測。コロナ前の水準に回復するのは2023年度末との見方を改めて示した。
また、国内線については、今年度第2四半期から需要が回復してくると想定。今年度末には、概ねコロナ前の水準に戻るとの予測を明らかにした。
コスト削減については、固定費を中心に「あらゆる手を尽くす」と強調。しかし、今年度第1四半期にキャッシュフローベースでの黒字化を目指していたものの、第4四半期でのまん延防止等重点措置の適用や緊急事態宣言の発出などによりキャッシバーンが再び悪化してきたことから、今年7月頃にずれ込むことを明らかにした。
このほか、片野坂氏は、今後の国際航空の再開に向けて、「デジタル健康パスに注目している」と発言。ANAでは現在、コモンパスの実証を開始し、IATAトラベルパスについてもまもなく実証を開始する予定だが、「海外旅行でもインバウンドでもデジタルの仕組みを導入しなければ、日本は遅れを取ってしまう。航空業界としても、関係省庁に導入に向けた働きかけを行っていく」と考えを示した。
さらに、片野坂氏は非航空系事業の収益拡大についても説明。地方創生やマイレージなどのプラットフォーム事業を展開していき、「パンデミックが再来しても収益を確保していくために、航空の一本足から脱却していく」と改めて強調した。また、ビジネスモデルの変革のひとつとして進めている第3ブランドのLCCについて、「立ち上げに向けた体制を整えた。2、3年後の就航を目指して準備を進めていく」と説明した。ANAでは4月1日付けで、グループ経営戦略室に「第3ブランド国際線事業準備部」を新設している。