いま、観光地域やDMOに求められているのは、自ら稼いで自走する組織となり、観光地として持続可能な経営をおこなうこと。その実現には、マーケットのニーズに沿った受入体制の整備と、旅行者を引き付ける地域の商品開発、誘客、販売が不可欠だ。そのためにデータが重要であることは、多くの地域が理解する時代になっている。
では、どのようなデータを収集し、どう活用すれば、地域への消費を増やすことができるのか。先ごろ開催したトラベルボイスLIVE(オンライン版)では、世界有数のクラウドサービス提供企業セールスフォース・ドットコムが観光地域に必要なデータの考え方とその活用方法を示した。
誰もがデータを理解・活用できるように
コロナ禍で非対面・非接触のデジタル整備が急速に進むなか、取り扱うデータ量は激増している。セールスフォースで分析ツール「タブロー(Tableau)」を担当する徳政由美子氏(Tableau 公共営業本部アカウントエグゼクティブ)は、「地域がデータを根拠に行動する場合、データは組織内の専門家だけが扱えればよいという話ではない」と指摘。役職に関係なく、全員がアクセスできる仕組みを作り、具体的な行動を考えて収益を上げる。「この環境に適応できないと、デジタルで複雑化が進む世界のなかで競争に勝てない」と話した。
では、具体的には、どうしたらよいのか。徳政氏は「目標達成のためのデータにすぐ到達し、すぐ判断が下せる環境にあること」が重要で、複雑で大量のデータを、目的に応じて誰でも素早く人に伝えられるレベルで見える化できる分析ツールが必要だとする。
分析ツールを利用する他業界の例でいうと、某企業の商品企画部門では、今売れている商品のトレンドやシーズン、カテゴリごとの売上、商品が売れている日時や場所の日次トレンドなどをデータで見える化。リアルタイムに状況を把握し、スピーディに次の行動を判断している。
別の企業では販売計画で、天候に応じた需要予測を実施。最高気温や湿度、不快指数などとの相関関係をデータで示し、需要予測の精度を高めている。このほか、顧客のアフターフォローでは、曜日や時間帯別の問い合わせをコール数や通話量などの一元管理のほか、テキスト分析機能で顧客の声をダッシュボードのように示すことなどがあげられるという。
徳政氏はこうした考え方は、観光地でも取り入れられると説明。例えば、イベント開催時の人流と売上の相関関係を例にあげ、「賑わっていないと売上はないが、混雑しすぎると機会損失の可能性が高い。その分岐点をデータで見える化できれば、観光客に回避ルートを促すタイミングがわかり、機会損失を最小限に抑えることができる」と示した。
さらに観光地は、経営主体が1つではなく各スポットの共同体であることが多い。各事業者はそれぞれのデータを集められるが、観光客はエリアで観光地全体を見る。だからこそ、地域や事業者間のデータの共有が重要だ。徳政氏は「観光客の各接点のデータを有効活用してほしい。許諾ルールを整備し、各事業者のデータをエリア内で再利用する。それで売上が上がったデータがあれば、それを事業者から還元してもらうことで、地域の売上向上に貢献できる」と話した。
大切なのは目的。必要なデータを利活用する
続いて、セールスフォースの井口統律子氏(エンタープライズ金融&地域DX営業統括本部金融&地域DX営業本部統括部長)が、同社の売上を上げる仕組み(=地域にお金が落ちる仕組み)を観光地経営の視点で整理した「地域観光版 THE MODEL」を説明。これをもとに、井口氏、徳政氏、トラベルボイス代表取締役社長CEOの鶴本浩司とのクロストークをおこなった。
井口氏は、観光地経営をテーマにしたとき、売上を上げる考え方は、「新規観光客の獲得と既存顧客のメンテナンス、大きく分けてこの2系統しかない」と説明。タビマエの見込み客の獲得から、タビナカでのサポート、タビアトのアト消費とファン化までの地域側のマーケティングや営業領域のプロセス、その時々の観光客の視点を図で示し、どこで新規客の獲得で効果的にアプローチできるのか、売上(顧客体験)の最大化の機会はどこにあるかなど、地域と観光客が繋がる接点を表した。
その上で井口氏は「事業者は一気通貫で顧客とつながる接点を持っているが、観光地の場合、お金を落とす仕組みでは地域への宿泊予約の確定からタビナカでのサポート、アト消費あたりでどのような接点を持っているかが重要。自分たちの地域に向いている打ち手、データの利活用がある」と説明した。また、地域が持てる観光客と接点の例として、無料Wi-Fiを提供している地域の場合は、「利用時にTELやメールアドレスの登録で、地域からもプッシュ通知ができ、つながれるようになる」とアドバイスした。
トラベルボイス鶴本は井口氏の説明を取りまとめながら、「全部のデータをとる必要はない。地域によって違うので、それぞれが必要なデータとることに意味がある」など、重要なポイントを指摘。地域の来訪者に「魅力を聞くことが新しいデータになる」ことも取り上げ、「活用すれば、来訪者のリピート・ファン化はもちろん、その魅力を生かすことで新規顧客の誘客にも生かせる」と、データをリサイクルして活用する考え方の重要性を示した。
視聴者からは、観光地経営の立場からの具体的な質問が多かった。例えばDMOのマーケターという視聴者からは「狭域の観光課題を連携させて広域の観光地経営策としていくプログラムの有無」が質問された。井口氏は難しい質問とした上で、「まずは具体的なゴール設定を決めることが重要。例えば、各狭域の地域への再訪増加を目指すなら、地域ごとに誘客する仕組みに変え、それに必要なデータが重要になる」と回答した。