2020年、新型コロナウイルスによるパンデミック勃発により、ホテル業務のコンタクトレス(非接触)化を進める各種ソリューション導入は、従業員とゲストの安全を守るための急務となった。
2021年、新たな状況にだんだん利用客側が慣れてきて、顧客満足度のスコアが改善するなか、次の課題として、ゲストが持ち歩く携帯端末やそれぞれの条件に対応できるコミュニケーション手法や接客の必要性が浮かび上がった。
そして現在、ホテルにおけるゲスト対応サービスのコンタクトレス化は、「あれば嬉しい」レベルを超えて、競争力に欠かせない。コンタクトレスでのチェックインなど、デジタル接客対応をまだ導入できていなければ、ゲストをがっかりさせている可能性が高く、顧客ロイヤルティがかつてないほど重要になっている時代において、これはリスクだ。
さらに、売上拡大の機会や、コスト削減につながるオペレーション効率化による経費削減といった恩恵にあずかることもできない。
2022年を迎えた今、宿泊客対応のコンタクトレス化について、ホテルが知っておくべき10のトレンドを挙げてみよう。
1. オムニチャネル対応のチェックイン体験
ホテルのチェックイン手続きには、必ずしも従業員が介在する必要のない部分もあり、特にポスト・パンデミック期は、テクノロジーによるサポートの方がむしろ安心だと感じている人は多い。
賢明なホテル経営者であれば、宿泊客それぞれの要望や状況に応じられるよう、チェックインの選択肢を複数用意し、本当の意味でのオムニチャネル体験を実現するだろう。テクノロジー基盤を整えた上で、エンド・トゥ・エンドのモバイル・チェックインをアプリ経由で提供し、デジタル・ルームキーで客室に入れるようにする。
また、チェックイン用のキオスク端末を設置して、完全にコンタクトレス化することもできる。ホテルの従業員らは、ゲストが快適に過ごせるよう、いつでも準備万端で待機できるようになる。
ここでのポイントは、どれか一つではなく、複数のチャネルを用意しておくこと。ゲスト側は、自身の条件に合ったチェックイン体験を選ぶことができる。
2. 自動化で宿泊体験をもっと快適に
旅行業界における労働力不足が深刻な昨今、ゲストの宿泊体験レベルを保つためには、オートメーション(自動化)をうまく活用できるかが鍵になる。
新たなハードウェアやソフトウェアへの投資だけでは充分とは言えない。ビジネスの成功を維持するためには、業務を効率化できるツール導入が不可欠だ。
セルフサービス・ツール導入の際、留意したいことの一つは、ゲストがホテルに到着してすぐ目につくところ、例えばロビーの入り口近くで利用できるようにしておくこと。
移動の一日は疲れるものだ。空港での検査、マスクを着けたまま過ごす長時間のフライト、やっとホテルに到着したら、また列に並び、キーを受け取るだけのために待たされれば、ホテルの様々な努力もむなしく、ゲストに与える第一印象は芳しくない。
デジタル・チェックインは、手早く、簡単で、分かりやすいものにしよう。さらにゲストが使っているデバイスが何であろうとも、完璧に対応できるテクノロジーが理想だ。
3. 従来型のホテルロビーはもう不要?
さて、こんな疑問が浮かんでくるだろう。今までみたいなホテルロビーは、もう時代遅れなのか? 答えはイエスで、ノーでもある。
ロビーはこれからも必要だ。ホテルのリアルな第一印象を左右する場であることに変わりはない。しかし、進化するべき時でもある。変化が必要なのは、昔ながらの巨大なフロントデスクの在り方だ。
スマートフォンでチェックインし、モバイルキーを受け取ったり、最新式チェックイン・キオスクを利用するスタイルが拡がりつつあるなか、従来とは違うアプローチが必要だ。すでに指摘してきた通り、セルフサービスが利用客から受け入れられるようになり、新たな慣習として定着している。
列に並び、フロントデスク係がパソコンに何やら打ち込んでいる姿を横目に、客室キーを受け取る順番を待つ。この時間を楽しみにしている人などいない。宿泊客は、もっとスムーズな接客体験を求めているのだが、デジタル・ツールがあれば実現できる。
4. モバイル財布でチェックインがさらに簡単に
アップルがウォレット(財布)アプリにホテル・キー機能を搭載すると発表し、すでにハイアットが導入方針を示しているが、これは画期的な新展開であり、宿泊客のモバイル・チェックイン手続きは、ますます簡単になりそうだ。
これまでより、ずっと楽になるので、自分の携帯端末を使い、ホテルのデジタル・ルームキーを受け取るのを嫌がっていた人にも朗報だ。ただし、これで接客サービスのデジタル化を阻む問題がすべて解決するわけではない。
より大きな課題は、宿泊客の本人確認をどうするかだ。もしホテルが完全なコンタクトレス・チェックイン導入に本気で取り組むのであれば、ゲストがフロントデスクに来て、本人確認しなくても済むよう、さらに別のデジタル・ツールも導入する必要がある。
こうした全ての手続きに対応できるモバイル・アプリや、ロビー設置型のキオスクも登場している。
5. ロビー設置型キオスクが再び注目される理由
パンデミック以前、ロビー内にキオスク端末を設置するホテルは少数派だったが、今ではセルフサービスが支持されるようになり、多くのホテルがキオスクを設置して様子を見ている。
消費者は、セルフサービス・キオスクに以前よりも慣れてきて、空港でのチェックインから食料品店での清算まで、あらゆる業種で利用は拡大。ホテル業界でも、再び導入の機運が高まっている。
パンデミックが終息した後も、ロビーに設置されたキオスクは、引き続き、重要な役割を担うことになるのではないか。
6. フロントデスクの役割も進化
モバイル・チェックインが可能になっても、これまでフロントデスクが担ってきた仕事をすべて任せられるわけではない。とはいえ、一般業務を自動化することで、スタッフが各々の仕事にもっと力を入れたり、ゲストの滞在をよりよいものにする余力が生まれる。
もちろん、丁寧なサービスは、引き続き必要だ。例えば、自動チェックイン手続き中に困っていたり、館内施設やアメニティ、地元の観光情報など、追加で質問したいことがあるゲストには、レセプション係が対応するべきだ。
フロントデスク係に余裕が生まれることで、客室アップグレードや料飲サービスの注文伺いなど、追加で必要なもののアップセル(追加販売)に活かせる場面も出てくる。
7. コンタクトレス化で生まれる売上拡大のチャンスを活かす
コンタクトレスのデジタル接客サービスができるようになると、追加販売のチャンスにも目が届くようになり、宿泊に付随して発生する様々な需要をもっと取り込めるようになる。ゲストは指を動かしてクリック注文するだけなので、手間もかからない。
例えば、レイト・チェックアウトにしたいと思ったら、受話器を取り上げてフロントに電話するかわりに、アプリで希望するチェックアウト時刻を入力すれば、追加料金がすぐ確認できる。
自動化できる業務に追われて、電話オペレーターが忙殺されるのを回避できる上、サービスを利用するゲスト側にとっても、よりスムーズな体験となる。
8. 労働力不足をテクノロジーで解決
何度も繰り返しになるが、これはとても重要なポイントだ。米国ホテル宿泊協会(AHLA)推計によると、ホテル業における雇用数は、2021年末時点で50万件減。一方、人件費はかつてないほど上昇しており、ホテルオーナーや運営会社にとって厳しい経営環境となっている。
だからこそ、テクノロジーを活用した自動化が、問題解決の鍵になる。適切なテクノロジーを選べば、これまで従業員が担当していたオペレーションを効率化できるようになり、限られた人材を、より付加価値の高い仕事に投入することができる。
結局、テクノロジーを活用した方が、組織全体のレジリエンスを高められるのだ。
9. パーソナライゼーションで差別化アップ
ホテルを予約・宿泊してくれる顧客層を深く理解することは、時代を問わず、大切なことだ。
だが長引くパンデミック下では、全く新しいタイプの旅行者層も出現しており、顧客やターゲット・セグメントを知ることが、いっそう重要になっている。
ひとことで言うと、ホテル利用客を360度、全方位から知ることが、シームレスなオムニチャネルでのゲスト対応には欠かせない。デジタルを介した利用客とホテルの様々な接点、さらにホテル内でのゲスト対応も含むすべてが対象になる。そこまで徹底できれば、顧客からの信頼とロイヤルティを獲得できる。
デジタルのコミュニケーション・ツールを使えば、顧客データをさらに増やすことができて、ゲストが「すごい」と感じる瞬間を作り出す上でも大いに役立つ。
10. 需要はデジタルにあり
2022年の前途は、引き続き視界不良なままで、イノベーションに取り組む企業と、予算重視の企業の間で、ますます差は広がっているように思う。
こうした違いは、やがて決定的な影響を及ぼしてくるだろう。需要回復の先頭を走るのか、それとも厳しい状況から抜け出せないままなのか。
需要回復が本格化するのに伴い、デジタル導入を積極的に推し進めた企業が、勝ち組として頭角を現すことになるだろう。
顧客の方は、すっかり新しい時代に適応している。そして、自分が利用するホテルについても、同じように進化し、以前より快適な体験を提供してくれるようになったのかを見ている。
ホテルが利用できるツールはすでにあり、そのメリットも、導入を急ぐべき理由も明らかだ。コンタクトレスのデジタル接客サービス導入で、宿泊客には快適な体験を届けられる。またホテルにとっては、売上拡大と従業員の業務効率化につながる。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:TEN TRENDS SHAPING CONTACTLESS TECH IN TRAVEL
著者:ナダブ・コーンバーグ氏 Virdee共同創業者