プリンセス・クルーズが対峙したコロナ禍と、その後の進化、日本の国際クルーズ再開への期待を聞いてきた

“未知のウイルス”であった新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年2月。航行中のクルーズ客船「ダイヤモンド・プリンセス」から同1月25日に香港で下船した乗船客1人にコロナ陽性が判明し、終着港の横浜で乗客・乗員約3700人を乗せた同船が停め置かれた。当時の事態は、コロナ禍の始まりとして記憶する人が多いだろう。

日本の水際措置の緩和で、海外旅行である外国客船の日本発着国際クルーズの再開も、日本国際クルーズ協議会(JICC)によるガイドラインの策定を待つばかりとなったいま、プリンセス・クルーズの日本代表であるカーニバル・ジャパン代表取締役社長の堀川悟氏に、コロナ禍の振り返りとその後の安全対策、進化について聞いてきた。

どの国、どの乗り物でも起こりうる事例

プリンセス・クルーズが遭遇した2020年2月の事態は、どの国のどの乗り物にでも起こり得るもの。その世界最初の例となってしまったのが、ダイヤモンド・プリンセスの日本発着東南アジアクルーズだった。

堀川氏は、「当時、新型コロナウイルスに関する情報が限られており、短時間で乗客を受け入れるための4000室弱を用意できる陸上の施設は見当たらなかった。ホテルなども、新型コロナウイルスへの対応が何もわからない状況で、乗客・乗員の受け入れ先を確保するのは大変厳しかった」と説明する。

横浜での対応に、米国本社からは100人ものスタッフが来日。日本の政府機関、各省庁とチームを組んで、陽性者の入院から陰性者の船内隔離、それに至る日々の乗船者の生活支援に24時間の緊急対応をした。

乗客の国籍比率は、日本人と外国人がほぼ半々。外国人の多くは米国や豪州からの旅行者だ。何か問題のある対応があれば訴訟に発展するのが世の常だが、ダイヤモンド・プリンセスの一連の対応に関して、国内で一件も訴訟になることはなかったという。対応を目の当たりにしていた乗船者から、そういう動きがないことについて堀川氏は、「(日本の関係省庁が)当時の状況でできることを完璧にしてくださった証拠だと思う」と振り返る。

なお、コロナ禍の間、米国や豪州でも、クルーズ中の陽性者発生は複数あった。その際は、軍の基地にある隔離室などに乗客を移送し、陸上隔離したという。

スマートデバイスが安全対策に

日本では止まっていた外国客船の国際クルーズだが、欧米豪では運航を再開し、その間、各客船は進化を遂げた。安全対策として船内の医務室を陸上の病院と同レベルの陰圧室とし、PCR検査や抗原検査ができる機器を搭載。客室の一定数を空気が公共エリアに循環されない隔離室に改修し、陽性が判明した乗客は隔離室に移して、最終の港まで安全に連れていくというものだ。

これに加え、プリンセス・クルーズの場合、船内体験の向上を目的に導入した「メダリオン」による非接触型のサービスが、再開後のクルーズの安全性を補完する効果があるという。

メダリオンは、メダル型のウェアラブルデバイス。客室の開錠から船内施設での支払いとアカウントの確認、同行者の船内の居場所の確認、メッセージのやり取りなど、スマートな船内体験が可能になる。これを応用すれば、船内施設の混雑状況をリアルタイムで確認できるため、密を避けた行動をとることができる。食事や飲み物の注文から受け取りまで船内のどこからでも可能だ。

同サービスは2017年のサービス開始以降、各船に順次、導入していたが、このコロナ禍の間に全船で使用可能となった。同時に船内Wi-Fiのクオリティも向上させ、現在では全船で、いつでも陸上と同じレベルの高速インターネットが使用できるようになっている。

この進化は、コロナ対策だけでなく、新たな旅行者のニーズにも合致する。堀川氏は、船上のネット環境の向上で「旅先テレワーク(いわゆるワーケーション)」でも「運航再開後は、日本でも需要が増えると思う」と期待を示す。

プリンセス・クルーズの日本代表(カーニバル・ジャパン代表取締役社長)の堀川悟氏

地域に国際交流の機会を

日本で、クルーズ客船を受け入れることができる港は、大小あわせて100を超える。プリンセス・クルーズが2013年の日本発着国際クルーズの開始以降、7年間で寄港地を50港に広げてきた。堀川氏は、「飛行機では容易に行けないような地方にも、国内外のお客様を案内し、地域に経済活性と国際交流の機会を提供してきた」と、同社と地方の観光振興との関係性をアピールする。

プリンセス・クルーズでは、港から1時間半で行けるエリアを陸上観光ツアーが可能な場所ととらえ、寄港地を選定。山梨県や岐阜県のような、クルーズとは縁遠く感じられる内陸県にも、国内外の旅行者を案内してきた。また、地方の港町にとっては、訪日外国人を乗せた大型クルーズ客船が来航する機会は特別で、市民による送迎イベントやガイドがおこなわれている地域もある。

その1つ、函館港では市内の遺愛女子中学高等学校が、生徒の語学力向上を目的に乗船客向けのボランティアガイドを実施。ガイドをした乗客との交流が、その後の文通やホームステイに発展する例もあった。学校側もコミュニケーションを含むクルーズの学習効果に注目。プリンセス・クルーズと連携し、同社の豪州発着クルーズで英語学習だけでなく、生徒が日本や函館を紹介するプレゼンを船内のイベントとして披露する海外研修旅行を企画し、実施したという。

堀川氏によると、今後も同社は魅力的な寄港地を探し、増やしていく方針だ。客船は時代に即して進化し、再開の準備を整えている。寄港地も、地域に活性をもたらす外国客船と観光客の来航を待ちわびている。堀川氏は「クルーズは、旅行者も迎え入れる地域も交流ができ、感性を磨く機会になる。クルーズの良さを多くの日本国民に、ぜひ知っていただきたい。そのためにも、プリンセス・クルーズは日本で運航し続ける」と力を込めた。

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