USEN-NEXTグループの観光研究機関「USEN-NEXT Tourism Design Lab.」が先ごろ、「インバウンド再始動に向けた地域観光イノベーション」セミナーを開催し、地元食材を中心にすえた地域の魅力向上に取り組む事例を紹介した。
同社は2022年度、全国5地域で自治体などと協力しながら地域の観光の磨き上げに取り組んできた。セミナーではこのうち2例を紹介。いずれも観光庁の看板商品創出事業(地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業)に採択されている。
福井、新幹線開業控え、食のウェルネスで勝負へ
まず、福井県の取り組み「世界的な健康ツーリズムのハブへ~自然・食・文化資源を生かしたご褒美旅~」は、福井県北部の2市1町(坂井市、あわら市、永平寺町)が広域プロジェクトとして取り組んでいるもの。同地域の観光事業者、DMO、飲食事業者、農業関係者、漁業関係者らで構成し、福井県広域ウェルネス推進協議会が事業主体になって進めている。
背景には、1年後の北陸新幹線の福井県内開業への期待がある。ウェルネスをテーマとしたプロジェクトを立ち上げた背景について、DMOさかい専務理事の江川誠一氏は、「新たなチャンスを迎えるうえで、沿線の独自コンテンツ開発が十分でない課題認識があった。県北部では越前ガニ、永平寺、あわら温泉といった魅力的な素材があり、これに横串を刺してつなげれば独自コンテンツを開発できる。魅力ある食と特別な体験を組み合わせことで実現するウェルネスをテーマにしたいと考えた」と語る。
協議会では2021年11月にシンポジウムを開催し、モニターツアーの実証を踏まえて問題点を抽出。「北陸地域の中で石川、富山と比較して福井の存在感がどうなのか、越前ガニ以外の食の魅力である甘エビや果物類の打ち出し方に改善の余地がないのか、あわら温泉の生かし方は十分なのか、海から山までの豊かな自然の広がりをコンテンツとしてストーリーに生かしていくべきではないか、認知度向上が課題で観光資源の磨き上げと共に情報発信が重要だなどの指摘が参加者から投げかけられた」(江川氏)。
こうした課題認識のもと、現在はウェルネスツーリズムのブラッシュアップを進めている。たとえば食の魅力のブラッシュアップに関しては、DMOさかいが取り組む「美食の里」プロジェクトで地元にあるビブグルマンの評価を獲得したレストランのシェフの力を借り、ウェルネスツーリズムに対応した甘エビの新レシピ開発などに取り組んでおり、「今後はより多くの料理人やヨガインストラクターなど専門家の協力者を新たに発掘し、ウエルネスツーリズムとしての観光資源開発や磨き上げを進めていきたい」(江川氏)という。
今後はインバウンドの復活を見据え、訪日外国人富裕層の取り込みも意識。販売価格が100万円を超えるような高付加価値型のテーラーメードツアーの開発に力を入れる一方で、仕事に忙しい国内の有職女性向けに癒しを提供する「ご褒美旅」の開発も進めていく。江川氏は「日本のウェルネスと言えば福井と連想される姿を目指したい」と抱負を述べた。
三重、ハイカラツーリズムで食べ歩き提案
2つ目の事例は、三重県「幕末明治にリアルタイムスリップ『令和のハイカラツーリズム』事業」。東海道五十三次の42番目の宿場町として栄えてきた桑名市の食と観光の魅力を、幕末明治にタイムスリップしたようなレトロ感ある「ハイカラ」をテーマに、観光コンテンツとしてまとめた。桑名市、桑名商工会議所、桑名観光協会などで構成する桑名ハイカラツーリズム協議会が事業主体となっている。
最初に桑名市の観光の魅力について説明した桑名商工会議所専務理事の森下充英氏は、「東海道五十三次の41番目の宿場である名古屋・宮宿から42番目の桑名へは7里の海路を船で渡ることになり、桑名は城下町、宿場町というだけでなく『七里の渡し』の港町としても発展し、荒天時に滞留する旅行者のための娯楽も発展してきた。また伊勢の国への入り口を象徴する大鳥居や、鹿鳴館などを手掛けた建築家のジョサイア・コンドルが設計した六華苑、春日神社の祭りとして江戸初期から続き『日本一やかましい祭り』とされる石取祭など観光素材も多い。さらに有名なハマグリや餅などの食の魅力があるうえに名古屋から鉄道で25分というアクセスの良さにも恵まれている」と桑名市の観光のポテンシャルの大きさに自信を示した。
一方で、同氏は「東京ディズニーランドやユニバーサルスタジオジャパンと並ぶ日本3大テーマパークのナガシマリゾートや伊勢志摩観光への途上に位置するため桑名が通過地点となってしまいがち」との地域が抱える問題点を指摘。ハイカラツーリズムの開発による魅力増大が必要になった背景を説明した。
ハイカラツーリズムの商品化に当たっては、まずレトロ感あふれる六華苑、寺町商店街、春日神社、七里の渡しなどをつなぐ2キロにわたる観光ルート「ハイカラルート」を設定し、ルート上で食べ歩きを楽しめるコンテンツ作りを行った。食べ歩きの中心に据えたのがスイーツで、地元の人たちが愛する餅にちなんだ餡子と、地元で昔から飲まれているソーダ水を使った、桑名ならではのスイーツ作りに取り組んだ。
森下氏によると、「商品開発に当たっては食の専門家やインフルエンサーの協力を得て、地元の飲食店11店と個別に打ち合わせを重ね、スイーツの味わいだけでなくSNS映えの良さや店の雰囲気作りを含めた全体の魅力向上についてアドバイスを受けた」。またメニュー構成も単品販売中心でなくセット販売を取り入れることで単価向上を図った。
2023年1月にはモニターツアーを実施して市場の反応を確認。その内容について森下専務理事は、「着付け体験やランチがかなりの高評価で、町の雰囲気や六華苑、七里の渡しも高評価を受けた。参加者アンケートでは『ツアー化の可能性』についても尋ねたが、全員が『可能性を感じる』と回答。期待が感じられる結果となった」と報告した。
今後の展開については「長島温泉やアウトレットの存在も生かしながら、特別な場所で高付加価値かつラグジュアリーな体験を提供できる商品作りを目指していきたい」(森下専務理事)としている。