観光庁・観光資源課に、観光産業再生のカギを聞いてきた、未来に不可欠な「コンテンツ磨き上げ」と「観光DX」 ―観光庁・課長インタビューシリーズ

観光産業が長いコロナ禍のトンネルを抜け出した。再生に向けて最重視されているのが「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」だ。政府は2023年3月31日に新たな「観光立国推進基本計画」を閣議決定。観光庁はこれらのキーワードをもとに、「持続可能な観光地域づくり」、「インバウンド回復」、「国内交流拡大」を戦略的に推進しようとしている。

トラベルボイスの「観光庁の未来を、観光庁の課長に聞く」インタビューシリーズ。今回は、観光立国の実現に関する施策について、先進モデル事業の創出をはじめ、最前線で取り組む観光地域振興部・観光資源課課長の富田建蔵氏に聞いてきた。観光資源課は、観光庁にある6つの課のうち、観光資源の磨き上げ、新コンテンツ造成、観光DXなどを総括。インバウンド、国内旅行ともに急回復が見込まれるなか、アフターコロナ期の観光コンテンツ造成には何が求められるのか。どんな進化が起きているのか?

一刻も早く真剣に取り組め

新型コロナウイルスの水際対策が緩和されたことで日本を訪れる外国人が徐々に増え、ゴールデンウイークのにぎわいも全国でほぼコロナ禍前に戻った。日本政府観光局(JNTO)によると、2023年4月の訪日外国人客数は194万9100人で、コロナ前の2019年同月(292万6685人)の約3割減の水準まで回復している。コロナ禍を経て、あらためて成長戦略の柱、地域活性化の切り札として注目が集まる観光。地域・産業に対し、「もはや、再び日本に絶好のチャンスが訪れようとしているなどと言っている段階ではないと思います。インバウンドは急速に回復しつつありますし、人口減少が進んで地方創生も待ったなし、世界にアピールできる地域づくり、観光コンテンツ化に一刻も早く真剣に取り組まなければ、という危機感を持っています」と、力強く発破をかけるのが観光資源課長の富田氏だ。

観光資源課はその名称のとおり、誘客のコアとなる観光資源の磨き上げ、管理を主管する部署である。その範囲は歴史的資源を活用したまちづくり、古民家再生、地域資源のサステナブルな活用、環境省、文化庁などと連携した国立公園、文化・歴史資源の環境整備、多言語解説整備支援などと多岐にわたる。「観光資源課は、地域の経済・社会・環境の持続可能性や価値をさらに高める観光資源のコンテンツ化に向け、さまざまなモデル事業を実施し、先進事例を創出して全国に横展開を図っています」(富田氏)。まさに観光庁の旗振り役である。

課員は約30名。事業実施を通じてコンテンツ磨き上げの実働を担う数多くの地域、DMOと深く関わることもあって、自治体、企業からの出向者が多いのが特徴だ。富田氏は「観光資源課の仕事は、サッカーのポジションに例えると、最前線でチームの攻撃の起点となるフォワード。課内では、観光立国の実現に向け、先陣を切って戦ってほしいと常に話しています。さまざまな知見を持つ出向者は大歓迎で、自治体などはどんどん手を挙げてほしい」と力を込める。

インタビューに応じる富田建蔵氏

次々生まれる新ツーリズムとは?

観光資源課は、前述の観光コンテンツ管理はもちろん、観光庁がインバウンド本格回復を図るために推し進めている「観光再始動事業」にも、国際観光課はじめ庁内各課とともに取り組んでいる。自治体、DMOなどによる観光回復の起爆剤となる特別な体験やイベントなどをさまざまな分野で創出し、全世界に発信する取り組みを支援する事業であり、2023年1月31日付でおこなった第1次公募では、139件が採択された。

「1000件以上の応募が寄せられ、全国各地の強い意気込みを感じました。内容も、国宝や国立公園、世界遺産などのユニークベニューを活かした体験コンテンツ、現代アート、スポーツツーリズムなど、これまでになかったアイデアが多い。その土地の自然や文化・歴史を深く掘り下げて解説し、楽しみ方を指南するインタープリターの人材不足や、体験コンテンツ商品の流通促進をはじめ課題は尽きませんが、既に付き合いのある観光産業の枠を超えて観光資源に幅広くコンテンツ造成を呼びかけ、実際に動き出していくという意味で、観光再始動事業はうまく機能していると思います。また、インバウンド本格回復に向けて取り組もうというアナウンスメント効果が大きいと感じています」と、富田氏は期待感を示す。

日本が世界に誇るコンテンツのひとつとして、ガストロノミーツーリズムにも着目している。ガストロノミーツーリズムとは、その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化にふれることを目的としたツーリズムで、欧米中心に広く一般化しつつある。観光資源課は、2023年度「地域一体型ガストロノミーツーリズムの推進事業」を実施。「観光における日本の食のポテンシャルは、旅行者誘致に加え、生産者への還元、職人との関わり、サステナブルにつながる地産地消でも大きく広がる可能性を秘めています。まだファーストステップの段階ですが、『食』をキーワードに付加価値の高いメニュー・コンテンツ、食体験の本格的な造成は、将来的に地方誘客の大きな武器になると思います。地域の関係者が協力し、一体となって取り組むことを期待しています」(富田氏)。

さらに、観光資源課はインバウンド回復戦略にとどまらず、国内交流拡大でも重要な役割を担う。コロナの影響もあって人々の行動・生活・労働様式が多様化するなか、新たな関係人口創出として顕在化した、継続した来訪を促す「第2のふるさとづくり」、企業と地域を結ぶ「ワーケーション」に関わる事業も同課が担当している。新たな旅のスタイルとしてワーケーション・ブレジャーが注目を集めるなか、今年2月には、一層の普及・定着を図るために総務省、観光庁を中心に官民が連携する「テレワーク・ワーケーション官民推進協議会」の設立にこぎつけた。富田氏は「これまで光が当たっていなかった旅行スタイルがどんどん生まれています。関係省庁と連携しながら、行政としても最大限支援できる体制を整えていきます」と力を込める。

未来に不可欠な観光DX

観光産業にはコロナ禍の打撃と学びを経て、デジタル化の波など以前と異なる大きな変化も押し寄せている。観光庁が取り組むさまざまな施策のなかで、観光資源課は、観光産業課とともに観光DXも管掌している。世界的にデジタルを活用した変革サービスが従来型ビジネスモデルに風穴を開け、日本でもDX推進によって旅という非日常の体験の魅力をさらに高めようという取り組みだ。

富田氏は観光DXにおいて期待される要素として、「旅行者の利便性向上」「観光産業の生産性向上」「観光地経営の改善」「観光人材の育成」の4点を挙げる。「事業者側の生産性向上、人手解消の手段としてはもちろん、未来のツーリズムにおいて、旅行者目線でタビマエ、タビナカ、タビアトの満足感、利便性を実現するためには、デジタルの力が不可欠です。データの利活用、地域内・地域外における異業種連携などを進めながら、観光立国実現に向けて尽力していく考えです」(富田氏)。


深いコロナ禍を経て戻ってきた日本の観光産業。再成長に向け、日々新しいツーリズムを模索しながら開拓しようとしている、富田氏をはじめとした行政の取り組みを注視したい。

観光庁観光資源課長・富田建蔵氏

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