JTBの業績が急回復している。JTBが2023年5月26日に発表した2022年3月期連結決算(2022年度)は、本業の儲けである営業利益が336億円(前期は49億円の赤字)と、3期ぶりに黒字転換した。売上高は前期比67.9%増の9780億円。2019年度の売上高1兆2889億円には及ばなかったが、国内旅行が回復し、BPOをはじめ旅行以外のビジネスも順調に拡大した。固定費削減も奏功し、経常利益が前期に比べ10倍の397億円、当期純利益が同5.3%増の300億円となった。
一方、2023年度の業績見通しについては、売上高でコロナ関連の受託中心に旅行外領域が減収するものの、旅行領域が増収するとして、2022年度比12.8%増の1兆1034億円の予想。さらに成長投資を加速することで販売管理費が増加し、営業利益が2022年度比6割減の134億円と、増収減益を計画している。
国内旅行がけん引、海外・訪日は回復途上
決算会見を開いた代表取締役社長の山北栄二郎氏は2022年度の業績結果について、「上期は新型コロナ第7波などの影響を大きく受けたが、下期に入り行動制限の緩和、全国旅行支援などが追い風となり、国内人流が大幅に回復。MICE、地域交流・BPOに加え、イベント、商事、出版など幅広い領域でも復調した。2020年度から実施してきた構造改革による財務基盤の改善も寄与した」と振り返った。
売上高を商品・サービス別でみると、旅行事業では国内旅行が大きくけん引。売上高から原価を差し引いた売上総利益が前期比91.6%増の910億円とコロナ前の2019年度(932億円)の水準を取り戻した。内訳は個人旅行が101.8%増、団体旅行が69.9%増で、団体は教育旅行中心に伸びた。山北氏は、全国旅行支援をはじめとした一連の支援策については、「需要回復に向けて心理的な抵抗感を取り除くきっかけになったとともに、各観光事業者がインフラを維持できた点でも大きい意味があった」と話した。
一方、海外、訪日旅行は回復途上だった。特に、海外旅行の売上総利益は114億円で、2019年度(1018億円)の1割程度にとどまった。訪日旅行は39億円で2019年度の169億円とは乖離があるが、2022年10月の水際対策緩和以降、回復基調に乗ったという。また、日本以外の第三国間における旅行事業であるグルーバル旅行は前期比3.3倍の71億円。訪日同様、2019年度の193億円には及ばないが、ヨーロッパ中心に日本より回復が早かったグローバルの需要をとらえた。
旅行以外ビジネス拡大と固定費圧縮が寄与
国内旅行とともに、業績回復のドライバーとなったのが、旅行以外ビジネスの拡大と構造改革による損益分岐点の低下だ。旅行以外ビジネスの売上総利益は2022年度比20.4%増の1420億円と、旅行事業の1125億円を上回った。内訳はMICEが243億円、地域交流・BPOが898億円、商事・広告・出版が144億円、その他が135億円。グローバルネットワークを活かし、米国でMICEを取り扱う子会社MC&Aが取扱額が過去最高を更新したほか、コロナ関連のBPO受注だけでなく、観光DX、ふるさと納税などを含む企業・地域向け課題解決型ビジネスも増加。山北氏は「個人、企業、地域のさまざまな課題、ニーズに応える商品・サービスを深化させることができた」と自信をみせた。
構造改革については、社員数の減員による人件費減少、営業所、店舗の整理などを通じて固定費を2019年度の2407億円から2022年度は1898億円と約500億円圧縮。これにより、売上総利益の損益分岐点が2800億円から2200億円に低下し、業績回復に寄与した。
また、同社が整理する事業・領域別にみても、ツーリズム事業が6750億円、ビジネスソリューション事業が1715億円、エリアソリューション事業が873億円、グローバル領域が757億円とすべてで前期比増収を果たした。
2023年度は人材に積極投資、一方でコロナ前の人員には戻さない
一方、2023年度の業績見通しは、売上高が2022年度比12.8%増(2019年度比では14.4%減)の1兆1034億円を見込むのに対し、営業利益が2022年度比60.2%減の134億円と、増収減益計画を打ち出した。売上総利益のうち、旅行事業は2022年度比42.8%増の1600億円と増加を見込むが、コロナ関連受託の減少により旅行以外の事業で2022年度比33.1%減・950億円の減収を想定している。売上総利益の合計は2022年度並みの2550億円の見通し。
また、販売管理費を2022年度比9.4%増の2416億円とする計画で、経費効率改善効果の維持とともに、成長戦略に沿った事業開発、人材に対する投資を加速する。2024年度新規採用について450名程度を計画しているほか、リスキリングをはじめ社員教育にも力を入れる。山北氏は「人材を量、質ともに強化するとはいえ、コロナ前の人数に戻すとは考えていない。教育、DXを進めることで効率性を高めていきたい。当社だけでなく、観光産業全体でデジタル化が人材不足に対するひとつの処方箋になる」との考えを示した。
2023年度の市場予測については、国内・訪日旅行はコロナ禍前までの水準まで回復するが、海外旅行は円安・世界情勢もあり、回復に時間がかかるとみている。具体的には、2019年度比で国内旅行が96%、訪日旅行が92%に回復するのに対し、海外旅行は52%と依然として半減レベルにとどまると想定した。
山北氏は海外旅行について、「新型コロナ5類への移行、インバウンド増加により心理的な抵抗感が徐々に和らいでいるとはいえ、コロナ前の水準に戻るのは2024年度後半になるのではないか」との見通しを示す一方で、CM広告、ヨーロッパのランドクルーズをはじめとした商品開発に力を入れ、復活を目指す。
急回復が見込まれる訪日インバウンドについては、観光立国推進基本計画との連動を重視し、消費額単価増、地方への誘客、持続可能の地域づくりに向けて、ガストロノミー、アドベンチャー、サステナブル、メディカルの4ツーリズムに戦略的に取り組みたいとした。