JTBの2021年度3月期通期連結決算は、当期純利益が285億円となり、2期ぶりの黒字になった。ただし、売上高は前期比では56.5%増の5823億円となったものの、営業損益は49億円の赤字。本社ビルや株式の売却益などによる特別利益443億円の計上が、最終益の黒字化に大きく寄与した。
また、営業損益は前期の976億円の赤字から大きく改善しており、これには構造改革による販売管理費の削減が貢献した。
決算会見で代表取締役社長の山北栄二郎氏は、「この2年間、社員に負担をかけながら構造改革を断行したことが非常に大きい。厳しい環境の中でも社員が顧客に寄り添って営業に邁進し、新事業に取り組んだことが成果に繋がった。社員と事業パートナー、業界全体で困難な状況を理解し、乗り切ったことに感謝をしたい」と振り返った。
売上高を商品・サービス別でみると、旅行事業(2109億円)は2019年度の2割に留まり、旅行以外の事業(3714億円)が上回った。旅行以外の事業は、前期からほぼ倍増、2019年度比でも73%増で、コロナ以前よりも大幅に増加した。
旅行以外の事業の84%を占めたのが、MICE及び企業・行政向けのBPO案件。MICEはコロナ禍でもオンライン開催やリアルとのハイブリット開催などで需要があった。
また、BPO案件は約8割が、ワクチン接種会場運営や予約管理、療養者の宿泊手配などのコロナ関連によるもの。コロナ収束に伴い、これらの業務自体は減少するが、山北氏は「(コロナ禍に)企業や行政の様々な課題に踏み込んできたなかで、今後は課題解決ソリューション型のコンテンツ開発や観光地整備などがBPO案件として出てくる」との考えを示した。
国内旅行はコロナ以前の水準、訪日旅行は2023年頭にも本格回復の兆し
2022年度の業績見通しは、売上高が1兆150億円(2021年度比74.3%増)、営業利益は63億円と黒字化し、最終益も黒字を見込む。売上高の内訳は、旅行事業が1465億円(2021年度比163%増)、旅行以外の事業が935億円(2021年度比20.7%減)で、需要の回復傾向を受けた旅行事業の盛り返しを図る。
業績見通しの前提は、2022年度の国内旅行はある程度の感染症抑制状況を条件に、2019年度比90%~100%の回復を想定。県民割・ブロック割のような施策の継続を見込む。海外旅行と訪日旅行は秋以降の渡航・入国制限の解除を前提に、2019年度比20~30%までの回復を想定する。
このうち訪日旅行は、政府の訪日観光客の受入再開表明や円安の追い風を受け、2023年頭には本格回復に向けたある程度の回復が見られると予想。米国・欧州・豪州のマーケットはコロナ以前の水準に戻ると見込む。本格回復は2023年秋を想定する。
一方、海外旅行は「非常に強い需要は感じている」(山北氏)とするものの、円安や燃料価格、欧州迂回などによる価格上昇もあり、本格回復は訪日旅行より遅くなると見ている。
訪日再開へ、着地の受け入れ整備に意欲
JTBでは現在、訪日旅行の実証ツアーに参加しているが、山北氏は今後の水際対策の緩和を踏まえ、「できる限りの実証ツアーに参画したい」と意欲を見せた。コロナ以前、オーバーツーリズムなど訪日拡大による課題が生じたことを受け、コロナ後の受け入れには着地における環境整備が重要と認識。地域とともに実証ツアーで訪日客を受け入れながら、訪日個人客の再開に向け、着地の受け入れ整備をしたい考えだ。
具体的には、タビナカ商品のスマホ販売で周遊を促すデジタルプラットフォームの整備や、地域コンテンツ、アドベンチャーツーリズムの開発、2次交通の整備など。訪問地の分散につながる仕組みやコンテンツを提供する方針で、これらをエリアソリューション事業で進めているという。
給与削減は終了し、新規採用も再開
山北氏は、経費抑制と利益回復を目的とした2020年度からの構造改革について、すべての項目で当初計画を上回ったと発表。2022年4月からは給与の3割削減をやめ、賞与も2022年4月と6月に2021年度の業績成果配分として支給することを説明した。今年の冬の賞与は未定だが予算化しており、業績に応じて支給する方針だ。
新規採用も2023年4月から再開。グループ全体で300名程度を想定する。山北氏はコロナ禍を経て、観光産業全体として人材の課題が大きくなっているとの認識を示し、中途採用を含めて積極的に人材確保・人材育成に取り組む考えを示した。