ニュージーランドで注目のアクティビティを現地取材した、先住民文化ツアーから高付加価値のヘリツアーまで

世界中の観光分野で再生型観光への移行が問われるなか、「ハイクオリティ・ビジター」の誘致に力を入れているのがニュージーランドだ。ニュージーランド政府観光局は、地元の自然や文化を尊重し、ローカルな体験に関心が高く、異なる季節にリピートで訪れる旅行者を「ハイクオリティ・ビジター」と位置づけ、2022年8月よりグローバルキャンペーン「If You Seek(好奇心を解放しよう)」を開始。現地の観光事業者は、コロナ禍を経て旺盛な旅行者の好奇心を満たす様々なアトラクションを用意している。

南島の代表的な観光地・サザンアルプスへのゲートウェイであり、2011年以降の震災復興のなかで新たな魅力を築き上げてきたクライストチャーチを拠点に、これから注目すべきアクティビティを体験取材してきた。

「好奇心を解放する」アクティビティ

クライストチャーチはニュージーランド南島の経済の中心地であり、数多くの航空便や鉄道、長距離バスが乗り入れる、南島観光の入り口となる都市だ。一方で、街のいたるところに緑豊かな公園があり、自然を身近に感じながら暮らすことのできるガーデンシティとしても知られる。さらに、2011年のカンタベリー地震からの復興の中で盛んになったストリートアートや新たに開発された商業エリアなど、新たな注目スポットも多い。

この街で文化&食をテーマにツアーをおこなうAmiki Tours(アミキ・ツアーズ)の街歩きツアーに参加した。このツアーはガイドの「ストーリーテリング」を軸に展開し、単に名所を見て回るだけでなく、地元ガイドの語りを通してこの街の「生きた文化」に触れられることが特徴だ。この日は先住民マオリにルーツをもつリワイ氏が、多文化な住民たちとともに発展してきたこの街の歴史を生き生きと語りながら、街を案内してくれた。

ツアーでは、近年開発されたおしゃれな商業エリアから、先住民マオリ文化にゆかりのあるスポット、人々が憩う公園、地元で愛されるアイスクリームショップなどを訪問。途中、地元の人々で賑わうカジュアルなレストランに立ち寄り、ツアーの参加者同士で会話に花を咲かせながらニュージーランドのワインやグルメを堪能した。

もちろん、ひとり歩きも十分に楽しい街だが、他の旅行者と時間をともにしながらローカルなストーリーに触れることで、旅の味わいが何倍にも膨らむ。

文化&食をテーマにした街歩きツアー(Amiki Tours)。ガイドのリワイ氏が、街のストーリーを語り聞かせながら地元で人気のスポットに案内してくれた

クライストチャーチの街を歩いていると、あちこちで目に入ってくるのが、巨大なストリートアートだ。

2011年のカンタベリー地震のあと、むき出しになった建物の壁をアートで飾るプロジェクトが実施されたことが始まりだという。この街のストリートアート・マップの作成を手掛け、ウォーキングツアーもおこなう地元団体「Watch This Space」のルーベン・ウッズ氏が、街中のストリートアートを案内してくれた。大学院でこの街のストリートアートを研究していたという彼の熱のこもった解説を聞きながら、作品ひとつひとつに向かい合っているうちに、この街と住民たちの歩みが見えてくる気がする。

街のあちこちで目にするストリートアートも、クライストチャーチの新たなアイデンティティのひとつ

また、今も英国文化の面影が残るクライストチャーチでは、街中を流れるエイボン川で小舟に乗るパンティングは定番アクティビティのひとつだ。今回はそのエイボン川で、英国風のパント舟ではなく、マオリの伝統的なボートである「ワカ」の舟漕ぎを体験した。伝わるところによると、マオリの人々は今から1000年ほど前から「ワカ」で海を渡りニュージーランド各地に到着したという。その後、「ワカ」はクライストチャーチでの重要な輸送手段として、エイボン川での貿易や移動に利用されてきた。

ワカ乗り体験では、1台のワカに参加者12人ほどで乗り込み、マオリの伝統的な掛け声に合わせてテンポよくパドルをこぐ。全員で息を合わせて数回パドルをこぐとかなりの勢いで進みはじめ、少し動作が遅れると腕を取られそうになる。はるばる海を渡ってきたマオリの人々は、相当の体力とチームワークが必要だったことだろう。このワカ乗り体験は、チームビルディングの一環としてもよく利用されている。

ワカ乗り体験。マオリの伝統的な掛け声に合わせてパドルをこぐ

大自然を間近に感じる鉄道旅

ニュージーランド最高峰のアオラキ・マウントクックをはじめ、雄大な景観で多くの旅行者を魅了してきたサザンアルプス山脈。クライストチャーチはそのサザンアルプスを目指す旅行者のゲートウェイであり、大自然を間近に感じられるアクティビティがこの街を拠点に数多く存在する。そのひとつが、クライストチャーチからサザンアルプス連峰を横断し、西海岸のグレイマウスまでをつなぐ観光鉄道「トランツ・アルパイン号」での鉄道旅だ。このトランツ・アルパイン号に乗って、サザンアルプス北部に位置するアーサーズ・パス国立公園を訪れた。

朝8時過ぎに列車に乗り込み、クライストチャーチ駅を出発。しばらくの間、のどかな牧草地のなかを走り抜ける。車内のカフェでは軽食や飲み物を購入でき、座席の大きな窓からの景観を楽しみながら朝食を頬張る人の姿も多い。

トランツ・アルパイン号では、大きな車窓からニュージーランドの雄大な景観を満喫できる

内陸部にさしかかったところで、絶景の渓谷が窓の外に広がってくる。鉄道には窓ガラスのない展望車両もあり、渓谷を通り過ぎるポイントではカメラを構えた旅行者が展望車両に集まってきた。渓谷を抜けたところで、今度は視界の開けた湿地帯がしばらく続き、出発から2時間半ほどでアーサーズ・パス駅に到着。大地を走り抜ける鉄道の大きな車窓から、移りゆくニュージーランドの大自然の様々な表情が堪能できる。

アーサーズ・パス駅で下車後、アーサーズ・パス国立公園内で小一時間のハイキングを楽しんだ。車窓からの絶景で存分に目を楽しませたあとに、静かな森林のなかに踏み入り、風に揺れる木々の葉の音を聞きながら新鮮な空気を胸いっぱい吸う。大自然の雄大さと身近さを一度に感じられる贅沢な体験だ。

窓ガラスのない展望車両

上空から鳥のように見下ろすサザンアルプス

サザンアルプスの大自然を、上空から眺めるという大胆で贅沢な選択肢もある。

クライストチャーチを拠点に、ニュージーランドとその周辺の島々で観光ヘリコプターツアーを運営するGarden City Helicopters(ガーデンシティ・ヘリコプターズ)の「サザンアルプス探検ツアー」。 同社はニュージーランドヘリコプター協会が定める最高水準の安全評価を受け、同国のヘリコプターツアーを提供する私企業の中で唯一、富裕層向け旅行代理店ネットワークである「バーチュオーソ」のサプライヤーとなった事業者だ。

屋内でひととおりの説明を受けたあと、乗客3名とパイロットで1台のヘリコプターに乗り込み、指示にしたがってシートベルトと飛行中の会話のためのヘッドセットを装着。パイロットの綿密な安全確認後、プロペラが勢いよく周りはじめ、いよいよ離陸だ。

「サザンアルプス探検ツアー」 に参加。飛行場でヘリコプターに乗り込む

飛行場を飛び立ち、上空からまず目下に広がるのはカンタベリー大平原。混合農業が盛んにおこなわれるこの地域は、空から見下ろすと、農業と牧畜業が織りなすパッチワークのような景観が見渡す限り広がる。そのカンタベリー平原を横切って、サザンアルプス山脈に端を発するワイマカリリ川が流れる。遠く先に見えるサザンアルプスを目指し、ワイマカリリ川に沿って進んでいく。

内陸部にさしかかると、穏やかな平原から、険しい山々の景色に変わってきた。迫力満点の渓谷の間をしばらくぐねぐねと飛行しながら、映画「ナルニア国物語」のロケ地にもなった大きな石灰岩が無数に広がるキャッスル・ヒルを通過し、さらに上流にのぼったところで、川沿いに一時着陸。

上空から見る、組み紐のように流れるワイマカリリ川とサザンアルプスの山々

ヘリコプターを降りると、周りは360度自然に囲まれ、迫力満点の飛行中の感覚とは打って変わって、あたり一面の静けさのなかに川のせせらぎが聞こえてくる。目をとじて大きく空気を吸い込むと、自然のなかに溶け込んでしまったような感覚だ。川の水はとても冷たく、口にふくむと一気に目が覚める。鳥のように空からの雄大な景色を楽しんだあと大自然のなかにぽんと降り立ち、今度はそれを存分に五感で味わう。ヘリコプターツアーでしかできない体験だ。

クライストチャーチから足を伸ばし、穏やかな港町を訪れる

クライストチャーチからバスで1時間半ほど南東に向かうと、東海岸のバンクス半島に位置する港町アカロアに到着する。

ここではサザンアルプスの大自然とはまた違った穏やかで美しい港町の雰囲気と、新鮮なシーフードを使ったグルメを楽しむことができる。ニュージーランドで唯一、フランス移民が入植した場所で、フランス風のコロニアル様式の建築も見どころだ。

ハイライトは、アカロア湾にしか生息しない世界最小のイルカ「ヘクターズ・ドルフィン」を見学できるハーバークルーズ。ニュージーランド沿岸域には9種類のイルカが生息するが、こういったツアーの多くでは料金の一部がイルカの保護に充てられており、旅行者はツアーに参加することで自然環境保護に貢献することができる。

穏やかな港町の雰囲気を楽しめるアカロア

観光を国の重要産業と位置づけ、観光をとおして地域や人々のウェルビーイングに貢献することを目指すニュージーランド。現地の自然や人々とのつながりのなかにかけがえのない体験を求める、好奇心旺盛な旅行者の心を満たしてくれるのが、ニュージーランドかもしれない。

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