ホンダジェット飛行+ガストロノミーの高付加価値旅行、訪日富裕層向けツアーに向けた挑戦と世界観を聞いてきた

インバウンド向けに体験サービスのeチケット化を支援する「Japanticket」は、本田技研工業のビジネスジェット「HondaJet(ホンダジェット)」を活用した「プレミアムガストロノミーツアー」のトライアルを実施している。第一弾は2023年5月に羽田空港発富山でおこなった。ターゲットはインバウンド富裕層。現地での特別感のある食体験に加えて、シームレスな移動にもこだわりを見せる。高付加価値旅行者の誘客に向けて地元の期待も高い。

「食だけでなく、さまざまなプレミアム体験を加えて、来年初頭から本格的にサービスの提供を始めたい」とJapanticket事業開発兼インバウンドDX推進担当執行役員の宮崎有生氏は話す。ビジネスジェットを活用した新しい高付加価値旅行の世界観を単独インタビューした。

プレミアムガストロノミーツアーの着眼点は

Japanticketは、インバウンド向けのeチケット管理システムを展開している。体験事業者のサービスや入場券をeチケット化し、グローバルOTAを通じて販売。飲食店の予約管理システムを開発・販売するebisol(エビソル)が2021年10月に立ち上げ、2022年1月からサービスを開始した。

もう一つの事業の中心となるのがインバウンド集客支援。第2種旅行業も取得し、日本国内のツアーの企画・造成・催行をおこなっている。HondaJetとの「プレミアムガストロノミーツアー」は、この事業での新たな展開ということになる。

「ガストロノミー」については、同社や親会社エビソルの飲食店ネットワークの強みを生かした。一方、「プレミアム」については、国の観光立国推進基本計画にも盛り込まれた「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」に注目。宮崎氏は「富裕層×高付加価値旅行という世界観が描きやすかった」と明かす。

そこに、知人を通じてHondaJetを巻き込んだ。ビジネスジェットによる移動という高級感に加えて、「Hondaという世界的なブランド力はインバウンド旅行者に安心感を与えるもの」として、高付加価値旅行のステータスを上げるキーワードになりうると考えたという。

ターゲットとなる富裕層についても検討を重ねている。中東の王族など富裕層の中でもトップ層となるいわゆる「ティア0」と呼ばれるセグメントはターゲットとはせず、完全オーダーメイドではなく、パーシャルテーラーメイドを求める中富裕層を「ティア1」、OTAやクレジットカードなどのロイヤルプログラムの上位会員を「ティア2」と定義し、潜在顧客として定めた。

Japanticketの宮崎氏。

富山のトライアルでは特別感を演出

富山で実施されたトライアル第一弾では、中国の保険会社の日本支社長と不動産会社の中国総経理の2人が参加した。現地ではAsia’s 50 BestRestaurants 2023で高い評価を受けた「L'évo」、1893年に創業した富山の地酒・満寿泉を展開する「桝田酒造」、ミシュラン2つ星を獲得した日本料理「お料理ふじ居」などを訪れた。ただ食体験を楽しむだけではなく、生産者やシェフとの交流の機会を創出し、特別感も演出した。

参加者の反応も上々。まず、HondaJetの快適性と移動のスムーズさに感動し、参加者の一人はHondaJetの購入方法についても関心を示したという。また、現地では桝田酒造とドン・ペリニヨンの醸造家リシャール・ジョフロワがコラボした日本酒「IWA5」をダースで購入するなど、現地消費額の拡大にもつながった。

宮崎氏は「トライアルでは、ガストロノミー×富裕層で尖った企画にしたが、今後は食以外の魅力的な現地体験も組み入れて、ツアーを肉付けしていきたい」と話す。

トライアルは富山に続き、山口県岩国市でも実施。長野県では、信州まつもと空港までHondaJetを使い、白馬から群馬県安中のゴルフ場にハイヤーで移動するツアーを実施した。宮崎氏は「宿泊日数や行き先にもよるが、ティア1向けのツアーの価格は1人100万円から300万円が一つの基準になる」との考えを示す。

トライアル地域の選定では、HondaJetが活用できる移動距離のほか、生産性を上げて、高付加価値化を進めていこうという高いモチベーションを持っている地元事業者がいることを重視。宮崎氏は「これが極めて重要」と強調する。富山では地域創生会社「TOYAMATO」、白馬ではヤザワミートが参画する「カノリーリゾーツ Hakuba」が能動的に動いた。「観光ど真ん中というよりも、斜めから観光に入る」(宮崎氏)ことで、地元にお金が落ちる仕組みを考えているという。

富山モニターツアーの参加者はHondaJetの快適さに感動したという(報道資料より)。製造業のホンダが富裕層旅行に携わる理由とは

HondaJetも、その「斜め」から観光に入った。製造業であるホンダが観光への入口とするのはMaaSの視点だ。

「メーカーによるMaaSとして、IT領域でのシームレスな移動ではなく、物理的なシームレス移動を考えた」と同社コーポレート事業開発統括部新規事業開発部MaaS事業ドメインプロジェクトリーダーの井上大輔氏は明かす。

規制の厳しい羽田空港では、チャーターフライトや空港ハンドリングサービスを手掛けるノエビアアビエーションの協力で、制限区域内に駐機するHondaJetまで送迎。富山空港では、ハイヤー会社との協業でアルファードをHondaJetに横付け。「国家元首のようなVIPな対応を可能にした」(宮崎氏)。シームレスな移動は地方の二次交通の課題解決にもつながるとの考えだ。

今回のトライアルの前提として、ホンダではHondaJetで地方と地方を結ぶ「ホンダジェット・シェア・サービス(仮)」の可能性を探っているという。空港スロットの使用を含めた各種申請、地上交通の手配などを一気通貫でおこない、「メーカーとして、パートナーとともにモビリティサービスを構築していきたい」(井上氏)という。

また、本田航空が運航するHondaJetは、大分空港をベースとしていることから、井上氏は「大分空港からツアーの出発空港までの区間でビジネスジェットのエントリー体験ツアーもありえるだろう」との構想も明かした。

そこには、ビジネスジェットが一般的でない日本の市場で、HondaJetに触れる機会を増やし、「ビジネスジェットの民主化を進めていきたい」(井上氏)思いもある。井上氏は「ホンダジェットで得られる体験が大事になってくる。販売していく環境を作ることもメーカーの責務」と続けた。

本田技研工業の井上氏。継続的なサービス提供に向けた課題は

Japanticketは今後、数回のトライアルを経て、2024年初頭にも事業化を実現したい考えだ。ただ課題もある。その一つとして、宮崎氏は「特別な体験のスケーラビリティをどのようにしていくか」だと話す。ビジネスとしての持続的な収益性を考える場合、特別な体験を拡張し、それを発展させていく必要がある。商品のコモディティ化は必然的に特別感の喪失に繋がり、リピーターも生まれない。

また、ティア1向けとティア2向けのコンテンツの差別化も今後の検討課題だという。ティア1はティア2と同じ体験は求めない。ただ、日本全国には世界の富裕層が求めるコンテンツは多いことから、宮崎氏は「プライベート企画などアイデア次第で広がりは出る」と自信を示す。

一方、HondaJetでは、ビジネスジェットの運航規制が課題となってくる。小松、茨城、三沢など自衛隊との「共用空港」では、ビジネスジェットの運用ができないところもある。さらに、ビジネスジェットは、大型の旅客機よりもその時の天候に左右されることが多いことから、リスク回避のための代替案も必要になるという。

高付加価値体験サービスをIT化

Japanticketは、富裕層向けのツアー造成と合わせて、そのツアーを裏側で支える新しいプロダクトの開発にも乗り出している。これも、シームレスな移動を目指すものだ。宮崎氏は「事業者がそれぞれ分断されているので、それをワンチームにまとめる仕組みを構築していきたい」と話し、それをツアーの「管制塔機能」と呼んだ。

「たとえば、HondaJetの到着が15分遅れるようであれば、それを引き継ぐハイヤーの事業者にタイムリーに伝える。レストランへの到着時間を事前に伝える。すべての行程を裏側で支える新幹線の総合指令所のような機能を作りたい」。

そこに、参加者のリアルタイムのリクエストに応えるコンシェルジュ機能も加え、パーソナライズされたサービスも提供していく。宮崎氏は「事業者への連絡もコンシェルジュ的な役割も、現在は引率するガイドがおこなっているが、それを裏側で引き受け、ガイドにはガイドに集中してもらう」と話す。

また、言語対応などでインバウンドの受け入れに消極的な事業者にリアルタイムのサポートを提供することで、「安心して本業でのおもてなしに専念してもらいたい」という考えもある。

まだ構想段階としながらも、宮崎氏は「今年の冬あたりには実証を始めたい」と意欲を示した。

Japanticketが、HondaJetを使って描く高付加価値旅行の世界観。本格的な販売に向けて、さらに磨き上げられ、その具体的な姿が見え始めてきている。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…