JTB山北社長が語ったグループ戦略と未来、サステナビリティ経営から進化するAIへの対応まで聞いてきた

JTB代表取締役社長執行役員の山北栄二郎氏が「ポストコロナ、ChatGPT時代のインバウンド集客戦略とレベニューマネジメント」をテーマにした情報交換会で講演をおこなった。山北氏はマーケット変容を受けた戦略、サステナビリティ経営、進化する人工知能(AI)への対応など広く言及。ポストコロナのJTBグループの戦略を語った。イベントは、JTBとグッドフェローズ、グッドフェローズJTBが共催したもの。

観光の力でSDGs課題を解決

山北氏の講演のテーマは「ツーリズム産業の持続的成長に向けて~訪日インバウンドマーケットへの取り組みとサステナビリティ経営の重要性」。

まず、ポストコロナのマーケット変容を受けたJTBグループの戦略について、「デジタルがすべての前提だが、本質的な深いつながりを生み出すことはヒトにしかできない。旅行者、地域、企業をつなぐことで新しい交流時代を切り拓く企業グループになる」と強調。「カスタマー・エクスペリエンス(CX)を向上させるための手段としてAI、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を活用しながら、地域での交流・人との触れ合いを通じ、コンテンツの高付加価値化、課題解決を図る」と説明した。

急伸する訪日インバウンドについては、日本が国際競争に勝ち抜くために求められている消費者単価増、地方への誘客、持続可能な地域づくりを推進するために、JTBグループとして「食」「自然・文化」「環境」「医療」の4つのツーリズムを強化する方針をあらためて示した。

具体的な取り組みの一例として、サステナブルとアドベンチャー・トラベル(AT)を掛け合わせた商品造成を積極化することで人流を創出、オーバーツーリズム解消の両面からもアプローチする。ATについては、インバウンドのみならず国内客向けにも販売を強化。2023年度下期は国内観光地活性化を目的としたキャンペーン“日本の旬”のテーマをATに設定しており、さまざまな地域の協業を促しなら魅力を掘り起こすとした。

さらに、今後の企業においてはサステナビリティ経営が非常に重要になるとの見解を改めて示した。

山北氏は「ツーリズム産業は、環境リスク深刻化で観光資源が消失する“被害者”としてだけでなく、“加害者”としての側面にも注目されている」と指摘。JTBグループとして脱炭素、廃棄物、生物多様性、水資源の4つの課題に優先的に取り組む。一例として世界中の観光地で旅行者と一緒にゴミ拾いするといった、観光の力が貢献できる力を経営の中心にすえることで、「交流人口が増加するほど、観光地やグローバルでのSDGs課題が解決、むしろ発展を促すようなツーリズムのあり方への変革をリードしていく」と語った。

講演するJTBの山北氏

JTBグループら3者で、万博入場券の販売を受託

従来のツーリズム事業とともに、JTBが注力するエリアソリューション事業。成長戦略として交流を支えるための地域での仕組みづくりについて山北氏は、「これまでの旅行業界は『送客』中心に成長してきたが、これから目指すのは地域目線の『誘客』だ」と明言。さらに、「持続的なデスティネーションの発展を目指し、継続的な交流を生む仕組みづくりには、デジタル支援が重要になる」との考えを示した。

こうしたデジタルを最大限活用したビジネスモデルのひとつとして山北氏が講演で紹介したのが、入場チケット事業者向けの流通プラットフォームだ。

JTBは国内集客施設向けにチケッティングサービスを展開するグッドフェローズと2020年に合弁会社グッドフェローズJTBを設立。観光事業者と販売事業者を結ぶ電子チケットプラットフォーマーとして、これまで販売事業者ごとにバラバラだったチケットをQR付コードに共通化する事業を展開している。さらにチケットHUBとして、オペレーションをQRコードの読み取りに集約したほか、販売実績や精算入金管理を一元化。これにより、共通券企画造成による売り上げ拡大はもとより、バックヤード業務の効率化、事前予約機能を活用した混雑回避などに取り組んでいる。

大きな転換期を迎えるのが2025年大阪・関西万博。グッドフェローズ、JTBグループのJTBコミュニケーションデザイン、興行系チケット販売大手のぴあは2022年、3社の共同事業体として万博の「入場券販売関連サービス」を受託した。

国内外で来場者数2800万人以上が想定されている大阪・関西万博の入場チケットは電子チケットで、スマホやパソコンからの購入が主流になる。チケットは開幕500日前となる2023年11月30日から前売り販売が開始されるが、並ばなくて良い万博を目指すため、入場予約・パビリオン予約、それぞれを紐づけることも必須となっている。JTBグループが関係者との協業でデジタルの力を活かしてどのような販売体制を構築していくかも注目されるところだ。

AI活用で商品造成、顧客サービスをさらに強化

「ポストコロナ、ChatGPT時代のインバウンド集客戦略とレベニューマネジメント」をテーマにおこなわれた今回の情報交換会では、飛躍的な進化を遂げるAIを研究する北海道大学教授の川村秀憲氏による講演、観光事業者、販売事業者などによるインバウンド集客やプライシング戦略に関するパネルディスカッションもおこなわれた。

北海道大学の川村氏は、「経済合理性が働き、世界で汎用的に広く必要とされる能力ついては、AIが人を大きく超えていくのは目前」と指摘。最新モデルであるGPT4は月額20ドルと安価にもかかわらず、アメリカ司法試験で上位10%の好成績を収めた具体事例なども紹介したうえで、「世界中で自分しか考えていないこと、多様な価値観はAI化されずに大きなバリューを持つ。技術が急速に進化することで人間の生活が決定的に変化するシンギュラリティも視野に入れつつ、人と人工知能がともに大きな社会システムの構成員として調和する新しいシステム観、倫理観を考えることが必要だ」と語った。

また、JTBの山北氏は、進化する生成AIやChatGPTについて、「JTBにおいてもフロントエンド、バックエンドともにAIで処理できる余地はかなりある」と言及。「これまでもさまざまなデータマーケティングを手がけてきたが、たとえば商品造成において膨大な顧客の履歴、声をもとにAIを介在させることで、よりパーソナライズ化した旅の開発が可能になるのではないか」と語った。さらに店頭、コールセンター、ウェブでの顧客接点、旅館など取引先の人手不足を解消する点でもAIの力が重要になってくるとの見方を示した。

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