多言語同時翻訳チャットツールを提供する「Kotozna(コトツナ)」とJTBが、宿泊施設向けに開発した多言語コミュニケーションツール「Kotozna In-room」。宿泊客が自身のスマートフォンを使い、自国の言語で館内・周辺情報の閲覧や、スタッフとのチャットができるサービスだ。2020年の販売開始以来、導入する施設は全国で増えている。福井県芦原(あわら)温泉の高級旅館「グランディア芳泉」もそのひとつ。Kotozna In-roomを導入したことで、何が変わったのか。その活用法と効果を深掘りしてみた。
Kotozna In-room導入の背景とは
グランディア芳泉は、全111室の大型旅館。客室は6つのコンセプトに分かれており、庭園付き露天風呂の別邸から家族向けまで、幅広いタイプの客室を展開している。また、JALファーストクラスの機内食を監修する総料理長が提供するこだわりの料理は、多くの宿泊客から高評価を得る。グランディア芳泉常務取締役の山口高澄氏は「料理、空間作り、サービスとも、総合的にグレードを高めている」と自信を示す。
山口氏によると、新型コロナが5類に移行し行動制限がなくなった現在、グランディア芳泉の客室稼働率は78%から80%で推移。コロナ前は団体利用の割合が高かったが、コロナ後は高品質な滞在を求める個人客が増え、「お客様個人の希望が鮮明になっているのを感じている」と最近の傾向を明かす。
インバウンド客については、福井県まで足を伸ばす旅行者がまだ多くないこともあり、宿泊者全体の1割未満。それでも、高付加価値な旅を求めて連泊する旅行者が多く、消費単価は高いという。
2024年3月には北陸新幹線が金沢から敦賀に延伸。芦原温泉駅にも停車することから、観光需要の拡大への期待は大きい。山口氏は「グレードの高い旅行者に満足していただける準備はしてきた。北陸新幹線の延伸を見据え、私たちのモチベーションも高まっている」と話す。
そのグランディア芳泉は、今後の市場の変化に対応するため、デジタル化によるサービスの高品質化と生産性向上を目的に「Kotozna In-room」を導入。トライアル期間を経て、2023年春から本格的な運用を始めた。
Kotozna In-roomでできること
Kotozna In-roomの機能は主に3つ。まず1つ目は、宿泊者のスマートフォン上での情報の提供だ。宿泊者は、部屋に設置されたQRコードを読み込むことで、使いなれた自身のスマートフォン上で、自国の言語で館内や周辺サービスなどの各種案内を閲覧することができる。これにより、顧客サービスを向上させると同時に、施設にとっては、紙媒体の案内資料をデジタル化することで、部屋置き資料の差し替え作業・印刷コスト・翻訳作業の軽減が可能になる。
2つ目が、宿泊者とスタッフとのチャット機能。宿泊者は自身のスマートフォンで、スタッフは使い慣れた端末でコミュニケーションがとれる。QRコードは客室単位で設定されているため、スタッフは問い合わせがきた時点で、どの部屋の顧客かを把握することが可能だ。この機能には、ルームサービスやアメニティの注文機能も搭載しているため、宿泊料金以外の追加オーダーの機会も広がり、客単価向上・館内消費UPも可能だ。
これらの情報提供とチャット機能で強みとなるのが、現在109の言語に対応したリアルタイムの自動翻訳機能だ。チャット機能では、例えば、韓国人の宿泊者が韓国語で打ち込むと、スタッフの端末には翻訳された日本語で表示。スタッフが日本語で返信すると、韓国語に翻訳されて宿泊者に情報を提供する。
サービス業における多言語翻訳では、翻訳の質も重要なポイントとなる。JTB Kotozna In-room事務局の田中修一郎氏は、「5つ翻訳エンジンを入れており、言語に合わせて最適な翻訳エンジンをその都度選んで翻訳にかけている。利用者からは、翻訳の質が高いと評価いただいている」と強調する。
また、翻訳の精度をさらに担保するために、施設側で管理できる「辞書登録機能」も搭載。例えば、提供される和食の名称など施設特有の固有名詞をあらかじめ登録しておけば、自動翻訳による誤訳を防ぐことができるという。
グランディア芳泉では現在、インバウンド客自体が少ないため、この機能の出番は少ないが、山口氏は「今後に向けて、期待できる機能」と評価した。
さらに、特徴的な機能の3つ目が、顧客行動データを可視化するダッシュボード機能だ。蓄積された顧客行動データはマーケティングにも利用できることから、活用への期待も大きい。JTB田中氏は「ダッシュボードを活用し、サービスの向上や業務の効率化を提案していきたい」と話し、JTBとして導入後のサポートを継続していくことで、導入効果を高めたい考えを示す。
Kotozna In-room導入の決め手は
「Kotozna In-room」は、JTBとKotozna社の共同開発で生まれたサービスだ。Kotozna社がシステムの開発、JTBが宿泊施設への導入のサポートを担い、JTBが宿泊施設から拾い上げたニーズをもとに、Kotozna社が機能改善をおこなっている。宿泊施設の課題は、インバウンド対応、デジタル化によるコストや業務量の削減など、施設によって異なる。JTBは導入したそれぞれの施設の特性に合わせ、寄り添いながら、きめ細かく対応している。
グランディア芳泉がKotozna In-roomの導入を決めた理由の一つが、そのJTBのサポート力だ。山口氏は「長い付き合いがあるJTBからの提案というのが大きかった。JTBだからこそ、我々の旅館の気持ちがわかってもらえる」と明かす。
また、初期費用の安さとQRコードによるシンプルな操作性も決め手となったという。山口氏は「こうしたソリューションは導入に手間がかかるイメージだったが、QRコードのKotozna In-roomはとてもシンプル。お客様への説明も特に必要のないところに惹かれた」と続ける。
加えて、機能面では、精算面の利便性を挙げた。Kotozna In-roomでは、部屋番号と予約時に登録された電話番号で認証を行うことで、チェックアウト時にオンライン上で精算することを可能にしている。山口氏は「旅館はチェックイン後の追加料金が発生する場合が多く、QRコードで簡単に精算ができることで業務負担が大きく軽減できた」と手応えを示した。
今後に向けては、山口氏は精算面での機能拡大に期待をかける。「QRコード決済の範囲が広がれば、さらに業務効率が上がる」(山口氏)。
JTBとしては、今後、現在のQRコードの管理を客室単位から予約単位に進化させていきたい考えだ。田中氏は「お客様に届けるべき情報は、プラン内容によって異なってくる。よりきめ細かいおもてなしをデジタルで実現できるように改善していきたい」とサービスをさらに進化させていく考えを示した。
2社の共創を通じ、地域の観光DXを推進
JTBの大阪第一事業部 営業開発プロデューサー玉崎元啓氏は、「インバウンドが勢い付いてきた2016年頃から、地域消費を伸ばすためには、言葉の壁を取り除きより地域の魅力を伝えていく必要性を感じていた。その思いを共有できたのがKotozna社」と共同開発に至った経緯を振り返る。JTBのもつ宿泊施設とのネットワーク、Kotozna社のシステム開発力という2社の強みを活かして、まずは地域観光の拠点となる宿泊施設に向けたサービスを開発することで合意したという。
コロナ禍を経て再びインバウンドが勢いを増すなか、現在はサービスを宿泊施設のみならず、地域まで広げる開発を進めている。その一つが、観光案内の多言語生成系AIチャットボット「Kotozna laMondo(コトツナ ラモンド)」だ。
この新サービスは、大阪観光局の観光情報ウェブサイト「OSAKA-INFO(オオサカ インフォ)」に、2023年10月16日に業界初導入。人手不足が深刻化するなか、2025年大阪・関西万博を契機にさらなる国内外の人流増加が見込まれる大阪では、人手に頼らず多言語案内を強化するという課題があった。チャットGPT技術を活用した「Kotozna laMondo」の導入により、現在は国内外の旅行者からの相談に対し、信頼性の高い情報をチャットボットが20カ国以上の言語で、24時間365日案内している。
玉崎氏は、「Kotozna laMondoは、地域の観光を知るJTBと、生成系AIに地域情報を学習させる独自技術をもつKotozna社との共創型ソリューション。今後、全国の観光案内所、観光施設、宿泊施設などのお客様へDXソリューションとして提案していきたい」と意欲を示す。
さらにJTBでは、2022年11月から宿泊施設のデジタル化支援システム「JTBデータコネクトHUB」の提供を開始。チェックイン・チェックアウトやレベニューマネジメント、レストランの予約注文など、複数のマイクロサービスと宿泊施設のPMSをつなぐシステムだ。APIを共通化することでPMS連携に伴うコスト削減や時間短縮を実現し、導入施設の成果につながるソリューションとして提供している。
JTBでは、今後も様々なソリューションを通して、インバウンドで地域全体が潤う仕組みづくりに取り組み、地域のサステナブルな発展に寄与していく方針だ。
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対象サービス:Kotozna In-room
お問い合わせ:
- JTB Kotozna In-room事務局(大阪第一事業部内)
- 電話:06-6260-0106
- メールアドレス:kotozna@jtb.com
- 営業時間 平日9:30~17:30(土日祝休業)
記事:トラベルボイス企画部