これからの観光戦略はデータが不可欠、「観光DMP」活用で推進する観光DXと、「稼げる地域」への打ち手を聞いてきた

全国各地でデータに基づく観光戦略として、DMPやBIツールを活用した観光DXの具現化が進んでいる。日本観光振興協会(日観振)の「日本観光振興デジタルプラットフォーム」も国の公益事業として2024年10月1日に認可され、47都道府県が同じ土俵に立ってデジタルデータを有効利用しながら観光戦略を立てられる土壌が整った。

こうした動きを受け、9月に都内で開催された「ツーリズムEXPOジャパン(TEJ)2024」国内旅行シンポジウムでは、「地域の観光DX戦略を考える」を議題に取り上げ、有識者らが観光DXの現状と今後の展望を探った。

魔法の杖ではない、活用が重要 ―東京都立大学・清水氏

まず、基調講演に登壇したのは、東京都立大学都市環境学部観光科学科教授の清水哲夫氏。清水氏は観光DMP(デジタル・マーケティング・プラットフォーム)について「データ、地域づくり活動、交通の3つを掛け合わせた、接点にあるもの」と説明。「政府や自治体が収集する統計データ、民間企業が販売するビッグデータ、地域独自で調査する意識調査やウェブのアクセス解析といった各種データを格納し、それらデータを理解・分析・活用することで、観光戦略づくりやプロモーション、組織の効率化などに役立てられるツール」と紹介した。

組織が観光DMPを導入する目的としては、「他地域との比較を通じた、立ち位置の確認」「客観的情報に基づいた施策の決定」「KPI指標のモニタリング、情報提供」「施策の効果検証」「組織の業務支援」などがあると指摘。意味あるツールにしていくため4つのポイントとして、「各データの取り方や特徴、信頼性を把握し、組織の目的に合うデータを知ること」「何のために観光DMPを使うのか」「データを使って達成すべきミッションを事前に策定すること」「観光DMPの基本設計・改修、使い方に対するコンサルティング、教育体系の構築」をあげた。

「観光DMPは魔法の杖ではない。導入して終わりではなく活用することが大事。まずは理系・文系を問わず、組織の中核人材、幹部人材が観光DMPを触ってみていただきたい」と呼びかけた。

観光DXで「稼げる地域」へ変革を ―観光庁・秋本氏

観光庁参事官(産業競争力強化)付専門官の秋本純一氏は、国が取り組む観光分野におけるDX推進の全体像と、観光庁の実証事業を紹介。「観光DXを推進する目的は、旅行者の消費の拡大と周遊の促進。そして観光産業の収益、生産性の向上を図り、観光地全体、地域全体が稼げる地域に変革していくことにある」と話した。

観光DX推進のポイントとしては、事業者間や地域間でのデータの連携を強化し、広域で収益の最大化を図っていくことで、地域の活性化、持続可能な経済社会が実現できると提唱。具体的には、ウェブサイトやOTAなどによる情報発信の徹底、宿泊、交通、体験等の予約・決済が可能な地域サイトを構築することで、旅行者の利便性向上や周遊の促進が可能となる。それとともに、観光産業にとっては顧客予約管理システムの導入により、情報管理の高度化、経営資源の適正な再配分、在庫管理を通じたレベニューマネジメントによる収益向上が見込めることを挙げた。

観光地経営の高度化にむけては、地域でDXに係る方針を盛り込んだ観光地経営の戦略を立て、データを用いたマーケティングをおこなうことで再来訪の促進や消費拡大につなげられると指摘。そのためのデジタル人材の育成・活用として、リカレント教育の推進、観光デジタル人材の育成・活用支援などをおこなっていきたいとした。2024年度、観光庁では観光DXに関する実証事業を全国6地域で実施しており、2025年3月の成果報告会では、各地の成果や課題が発表される予定だ。

先予約の共有が生産性向上に貢献 ―俱知安町・沼田氏

訪日客に人気の北海道ニセコ地域では、2021年度、2023年度に観光庁の観光DXに関するモデル事業に参画し、観光DXの推進に取り組んできた。ニセコエリアスマートリゾート推進コンソーシアムで倶知安町観光商工課主幹の沼田尚也氏は、DMOと域内事業者がデジタルプラットフォームを通じてデータを共有、活用している事例を挙げた。

直近の訪日客と日本人旅行者の流入状況を示すグラフを見て、それぞれの動向に合わせた対策が講じられるだけでなく、繁閑差の大きさなど、観光地としての課題抽出にも役立っていると話す。

2023年以降は宿泊施設の先の予約データも域内事業者で共有しており、「旅行者の国籍ごとに3ヵ月先まで予約状況がわかるため、繁忙期と閑散期の境目が一目瞭然。こうした情報は、繁閑差を埋めるためMICE誘致の営業にも使われている。地域の宿泊施設、飲食店などでは、従業員のシフト管理や食材の仕入れ調整、また地域内の循環バスのダイヤ作成にも役立てられている」と話した。

ニセコでは、域内事業者のニーズが多様化していることを受け、共有のプラットフォームを整備することで、観光客のカスタマージャーニーを追う取り組みや、同様のシステムを使ったローカル向けのサービス展開も始まっている。「新規参入事業者にもメリットが大きく、地域課題の解決につなげていきたい」(沼田氏)。

北米はDMPを地域連携のツールに ―日観振・大須賀氏

日観振観光地域づくり・人材育成部門 観光地域マネジメント部長の大須賀信氏は、北米のDMOがどのようにデータを活用しているかを紹介。一例として、北米のDMOは「イベント・インパクト・カリキュレーター(EIC)」と呼ばれるシステムを使い、キャンペーン活動や域内のイベント一つひとつの経済効果を測っていることを挙げた。

「アメリカのDMOは、共同体で共有する価値観を非常に重視しており、DMOがどのように運営しているかの透明性も問われる。そのため、EICでイベントやキャンペーンのセクターごとの売上額、雇用、税収、投資利益率などを逐一出して、DMOの理事会やステークホルダーへの説明材料としてデータを活用している」と説明。背景には、北米のDMOが最重要顧客を旅行者ではなく地域住民、地域社会に定め、「訪ねる」「住む」「投資する」「働く」の4項目を「地域経済を活性化させる車輪」と捉えていることがある。

そのため地域社会のコミットメント、地域連携の強化に向けたCMSにも注力しており、人口100人に対して事業者1の高い比率で、事業者から詳細なデータを集めているという。

大須賀氏は「日本においては、まず自治体やDMOが、DMPを整備していくことが重要だが、将来的には観光戦略策定、業務効率化など組織内部のためだけでなく、地域連携のためのツールでもあるという意識を持ち、地域の意思疎通、雇用や投資の促進のためにも活用していただきたい」と呼びかけた。

高度な観光地経営に役立つDMPの拡張機能 ―オープントーン・畑中氏

また、「日本観光振興デジタルプラットフォーム」の開発に携わったオープントーン取締役の畑中貴之氏は、同DMPの基本機能、拡張機能の特徴について、「データが搭載された状態で、すぐに安価で利用ができること」「観光情報や観光マーケティングなど観光政策を検討する上で必要なデータを搭載していること」「日本全国のデータが常に最新化されていること」の3点を挙げ、拡張機能を使った実証事業として事例を紹介した。

具体的には、あるA県は人流データに基づいた広告配信を活用し、地域の滞在時間、消費額の増加につなげる取り組みをおこなった。さらに同じダッシュボード上で、広告配信を実施した際の効果測定もおこなわれている。

また、別のB県は各拠点で取られたアンケート結果が自動で取り込まれ、集計結果がダッシュボードで確認できるだけでなく、モバイルデータと連携させることで、定量的なデータと定性的なデータの両面から見ることも可能となったという。畑中氏は「イベントや期間、政策ごとに経済波及効果を算出できるような仕組みづくりにも取り組んでいる。最終的には観光の重要性を地域内で認知してもらえるような形にしていきたい」と話した。

観光地経営の高度化につなげるために

さらに、観光DXの今後の展望として、秋本氏は「観光地経営の高度化には、地域で使われるDMPに、旅行者の利便性向上と観光産業の生産性向上という2つの指標が紐づけられていることが重要。各地で予約や収益のデータをいかに蓄積していくかもポイントとなる。自分たちでデータを抱えこまず共有することで、幅広い業種の方々の有効利用につながる」とコメント。畑中氏はDMPを開発する側の視点から、「各地の実証事業で高い効果が得られた機能はDMPに実装されるため、新しくDMPを利用される組織にとっても、どんどん使いやすくなっていく」とDMPの機能が活用により進化していくことを示唆した。

シンポジウムのファシリテーターを務めたトラベルボイス代表の鶴本浩司は、「20世紀と比べると、現代は観光をデータに基づいて推進する環境が整い、観光を科学として捉えられるようになったと言える。DMPは導入して終わりではなく、それをいかに活用していくかが大事。日観振では観光DX検定も計画しており、こうした取り組みがデータの使い手のレベルやスキルを上げていくことに貢献すると思われる」とまとめた。

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