沖縄県、宿泊税導入は「定率制」、上限は2000円、今後の論点と導入への期待をOCVB会長に聞いた

沖縄県が導入を目指している「宿泊税」について、第3回の検討委員会で1人1泊2%の定率制とするなど、制度設計に向けた案が決まった。今後、さらに議論を進めたうえで、2025年2月の県議会に条例案を提出、2026年度からの施行を目指す。

第3回検討委員会を前に、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)が事務局を務める沖縄ツーリズム産業団体協議会は、観光業界として論点を整理したうえで、検討委員会に臨んだ。結果について、OCVB会長の下地芳郎氏は「まだ議論の積み残しはあるが、行政側が考えている部分と産業側が考えている部分が重なってきた。大きな前進が得られた」と評価する。

観光産業は「定率制」にこだわり

これまで、県は定額制を提案してきた一方、観光産業は定率制を主張。前回の検討委員会で県は定率制に舵を切り、今回、2%という具体的な税率が決まった。県の試算によると、税率2%の場合の税収額は約78億円。県が宿泊税率を、税収額を地方交付税の算定基礎となる財政需要額の範囲内としたことから、2%に落ち着いた。

一方で、これまで沖縄ツーリズム産業団体協議会は税率3%を求めてきた。下地氏は「税収見込みは、物価上昇などで変わってきている。最新のデータに基づいて、2%あるいは3%でシミュレーションし直すことを求めていきたい」と話す。それでも、定率制での導入が具体的に決まったことから、「(宿泊税導入に向けて)やっとスタートラインに立てた」という認識だ。

全国的には定額制の宿泊税が多いなか、定率制にこだわった背景は何か。下地氏は、公平な税負担、変動する経済状況などのほかに、「高付加価値観光を展開していけば、その結果として税収も上がる」点も挙げた。世界でも、宿泊税を導入する地域では定率制を導入する事例が多い。

また、この定率制による宿泊税導入は、宿泊客から税を預かる特別徴収事業者となる宿泊事業者、特に小規模事業者のデジタル化を進めていく契機になるとの期待もあるという。徴収額の算出を含む予約管理システムの導入などでデジタル化を進めていけば、「(将来的に)そこから得られるデータの利活用で、有効な観光施策を打てるようになる」という考えだ。

上限額2000円、修学旅行は免税、県民は課税

第3回検討委員会では、宿泊税の負担上限額について、1人あたり10万円以上2000円にすることも決まった。しかし、下地氏は「上限を設けることに納得していない」と話す。上限を設けることに対する理由が定かではなく、この意見は事業者側というよりも、行政側による提案だという。沖縄ツーリズム産業団体協議会としては、「高価格帯のホテルが増えているなかで、上限設定は、逆に不公平」との考えを示している。

さらに、課税免除の対象を修学旅行生とその引率者に限定し、県民も課税対象とした。これについて、下地氏は疑問を呈す。離島から通院などで本島を訪れ宿泊する県民にも課税する方向性は正しいのか、また、県民による県内観光の促進という点でも議論の余地がまだあるとの考えだ。

市町村と県との税配分については、税を独自に導入する準備をしている石垣市、宮古島市、本部町、北谷町、恩納村の5市町村と県の割合は6対4とし、その他の自治体は折半とする方針も決めた。下地氏は、宿泊税導入を検討している自治体について「税の導入から運営、説明責任までを自ら進めていく決意を表明した」と評価する。そのうえで、「今後は残りの36市町村が宿泊税をどのように考えていくのかも焦点になってくる」との考えを示した。

宿泊税の使途は? 観光産業の持続的な経営に向けて

沖縄ツーリズム産業団体協議会では、宿泊税の使途について、観光目的税として5つの活用事業の検討を要望している。

まず、安心・安全で快適な観光の実現。このなかには、観光危機管理や災害対策の強化も含まれる。下地氏は「沖縄のような島嶼地域では、特に緊急時の観光客の帰宅支援など観光危機管理は重要な課題」との認識を示す。

2つ目が、二次、三次交通の整備やユニバーサルツーリズムの促進などを通じて、県民と観光客双方にとって満足度の高い受入体制を整備すること。

3つ目が、魅力ある付加価値の高い観光地ブランドづくり。需要の平準化、人材育成、高付加価値コンテンツの推進、MICE誘致などを盛り込んでいる。

4つ目が、県民の観光への理解促進を通じた観光地づくり。沖縄県が提唱している「エシカルトラベル」の推進や観光客のマナー対策のほか、DMOの組織強化も含む。

5つ目が、文化芸術の継承・発展とスポーツ振興。沖縄の歴史文化などの魅力を観光コンテンツとして再構築していく。これには、欧米で人気が高まっているアドベンチャートラベルの推進も含まれる。

今後、宿泊税導入に向けて制度設計が行われるが、条例には「3年後の見直し」が盛り込まれる見込みだ。下地氏は、第3回検討委員会の結果を受けて「関係者間のキャッチボールが始まった」との認識を示したうえで、宿泊税の意義として「観光産業の持続的な経営に向けた支援という側面からも、その仕組みを議論していく必要がある」と付け加えた。

さらに、県内には約4000軒の宿泊施設があることから、県に対して「(特別徴収事業者となる)宿泊事業者に対して、導入前に丁寧な説明をおこなってほしい」と要望している。

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