お手伝いをビジネス化して「関係人口」づくり、マッチングサービス「おてつたび」が生み出す都市から地方への人の流動、その成功の秘訣を聞いてきた

「お手伝い」と「旅」を組み合わせた「おてつたび」は、地域の困り事とそれを手伝いたい人とをマッチングするスタートアップ企業。2018年に立ち上げられ、第6回ジャパン・ツーリズム・アワードでは「学生が選ぶジャパン・ツーリズム・アワード」と「スタートアップ賞」をダブル受賞するなど、今注目を集めているサービスだ。創立者でCEOの永岡里菜氏に、同サービスの現状と目指す未来を聞いてきた。

「自分の居場所ができれば、何度も通いたくなる」

永岡氏は、おてつたびを「いわゆる季節労働や出稼ぎのリブランディングです」と説明する。

かつて季節労働は地方から都市への移動だったが、おてつたびはその逆。都市から地方への人の流れをつくりだし、”お手伝い”をビジネス化することで、持続的な関係人口の創出にもつなげている。

その発想の原点は出身地の三重県尾鷲市にあるという。「尾鷲は農業と林業の町で、有名な観光地があるわけでもなく、観光で人が来るようなところではないんです。おそらく、日本の地域のほとんどがそういうところ。知らない地域に人が行くような仕組みをつくって、将来に続く人流のインフラができないかと考えたんです」。

永岡氏は、それまで務めていた会社を辞め、地域の現実を知るために、半年間、夜行バスを乗り継いで地方をまわった。そのなかで、知り合いの農家に入り、収穫の手伝いをすることになる。「そこで、共同作業をする尊さ、旅行者というお客さんではなく、仲間になる楽しさを知りました。魅力のない地域はない。その地域に自分の居場所ができれば、何度も通いたくなるんです」。その経験から、さまざまな人が期間限定で地域に関わる仕事を紹介するサービスを思いついた。

旅行という文脈で見るとき、おてつたびのユニークさは、地域の魅力ではなく、地域の課題で人を呼ぶところにある。物見遊山の観光ではなく、課題解決がそのまま地域の体験になり、来訪のモチベーションになる。

「魅力のない地域はない」と永岡氏人の手を加えたマッチングプラットフォーム

人手不足は地域共通の課題。常時人手が足りない地域も多いが、短期的、季節的な人手不足は地域にとってより切実だ。特に、一次産業や宿泊事業ではその傾向が強い。おてつたびがサービスとして最初に紹介したのも長野県山ノ内町の宿泊施設だった。観光需要の平準化が難しいところは、雇用の平準化に課題がある。

現在、地域からの募集のうち約4割が宿泊事業者だという。残りは4割が農業などの一次産業、2割がその地。その他には、酒造、寺社、うなぎの加工場などユニークな募集があるほか、冬には雪かきの需要が高まり、12月や1月にはふるさと納税の返礼品がピークを迎えることから、小売業から人手が求められることも多いという。クチコミでおてつたびの評判が広がり、設立3年で全国45都道府県にサービスは広がった。

マッチングプラットフォームとして、地域側の登録料や掲載料は無料。マネタイズは、マッチングしたときのみ成功報酬として地域から手数料をもらう。地域からの募集では、機械的にプラットフォームに掲載するのではなく、ひと手間をかけて、おてつたびが事前に面談をする。永岡氏は「単に安い労働力だけが欲しい事業者さんにはご遠慮いただいています」と明かす。

募集期間は、募集側が決めるが、おてつたびとしては申し込みの数が増える1週間~10日を推奨しているという。

一方、参加者側も登録制。交通費は自己負担だが、宿泊場所は基本的に地域側が用意する。

現在、募集開始、数時間で一人目の応募が入り、募集枠に対して3~5倍の倍率になっているという。つまり、募集枠3人であれば、9人~15人が応募する。おもしろいのは、自動的に早い者順で参加者が決まるのではなく、募集側が参加者のプロフィールを見て、適した人材を選ぶところ。ここでも、人の手が入る。だから、手伝って欲しい側の思いと手伝いたい側の思いが濃密につながり、モチベーションの向上と持続的な関係性が生まれるという。

「日々、泥臭くやっています」と永岡氏。マッチングプラットフォームという無機質なデジタルソリューションのなかに、人の視点を加えているところに、おてつたび成功の秘訣があるのかもしれない。

おてつたびのホームページから自治体や他業種との連携で確実に増えている関係人口

おてつたびを通じた地域との関係人口は確実に増えている。たとえば、宮城県栗原市では、行政の協力のもと、定期的におてつたびの参加者を受け入れ、「地元の人たちからは『おてつたびの人ですか』と声をかけてもらうような関係性ができ、『栗原ファミリー』のような存在になっている」という。

島根県では、おてつたび終了後にそのままインターンで働く人が現れ、岡山県の宿泊施設では、おてつたびで意気投合し、PR動画の制作に関わる参加者も出た。おてつたびで地域と関係を築き、地元企業に就職し、移住につながったケースもあるという。

おてつたびのコアターゲットは、比較的自由な時間がつくれる大学生だが、コロナ禍によって、ワーケーションによる社会人の参加者も増えている。たとえば、午前中はおてつたびの仕事をして、午後は本業をテレワークで行う。永岡氏は「もともと地域や一次産業に関心があった人や、地域創生事業を始めるにあたって地域の課題を知りたい人などの申し込みが増えています」と明かす。

関係人口の創出に一役買っているおてつたびのサービスには、自治体や旅行関連事業者も注目している。岐阜県飛騨市や千葉県市原市とは、おてつたびの旅先を共同で開拓しているほか、流動データの分析や共有で関係人口創出に向けて連携を強めている。「自治体やDMOと連携することで、おてつたびに対する地域の人たちからの信頼も高まると思います」。おてつたびのサービスは地域からの募集がないと成り立たない。

また、地域創生事業に力を入れるANAとは、昨年9月から連携を開始した。ANAトラベラーズがリーズナブルな価格で航空券と宿泊をおてつたび参加者に提供。おてつたびでの利用だけではなく、その日程の前後に地域観光を楽しんでもらうという取り組みだ。第一弾は島根県の萩・石見空港を拠点に協業した。

「地域創生の課題は非常に複雑だと痛感しています。一社でできるほど単純なものではない。これからも、いろいろな企業や自治体の力を借りながら、サービスを展開していきたいと思っています」(永岡氏)。

「誰かにとっての特別な地域をつくる」

おてつたびの参加者の8~9割は、それまで全く行ったことない地域を訪れている。行きたいところを選んでいく通常の旅行とは真逆の方向性。行きたい場所ではなく、やってみたいことで目的地を選んでいるのだ。永岡氏によると、アンケート結果から、おてつたび終了後には、その地域にポジティブな感情を持つ人が多いという。

「私たちは『誰かにとっての特別な地域をつくる』というミッションを掲げています。誰もに、自分の出身地と居住地以外に特別な地域を持ってもらいたい。観光地への旅行ではなく、おてつたびを通じて知らない地域に行くことが当たり前の世界をつくりたい」。

第2、第3のふるさとの創出。ある地域にお手伝いに行くことで、そこが特別な地域になり、そして実家に帰省するように、そこで関係を持った人に会いに「帰る」。おてつたびは、人の新たな流動を生み出している。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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