昨年11月末に米国フェニックスで開催されたフォーカスライト・カンファレンスでは、「2023年注目スタートアップ25」を発表した。
創造とイノベーションは危機の中で生まれる――、とは使い古された言葉だが、2023年の注目スタートアップ25に選ばれた各社を見渡すと、これを実感するだろう。
25社のうち14社は、世界中で旅行がコロナ禍による緊急停止に追い込まれた2020年以降に創業したところだ。また同9社は2021年に創業したばかりだが、早くも充分な結果を出している。
選考作業は、なかなか大変だった。まず候補として120社のスタートアップを挙げ、イノベーション度の高さや潜在的な成長性について検討。創業から5年以内のところを主な対象とし、事業領域や創業者、地域などが偏らないよう配慮した。
注目スタートアップの選出は、今回で5回目となる。以下、これまでの振り返りとともに最新情報をお届けする。
過去4年間に選出された注目25社を振り返って
過去4年間に注目25社に選ばれたスタートアップ、計100社を見ると、最先端のイノベーションがどう動いてきたのかを振り返ることができる。
この100社が獲得した出資金は合計17億ドル(約2300億円)、最高額はトラベルパーク(2019年選出)の4億850万ドル(約555億5600万円)だった。出資額を年度別でみると、最も高いのは2020年、次いで2019年となり、それぞれ6億3000万ドル(約856億8000万円)と5億9000万ドル(約802億4000万円)となった。
また、全体の7割がB2B事業を中心に展開しているが、過去2年の旅行消費動向を考えれば当然かもしれない。とはいえ、獲得資金を比べると、消費者向け事業を手掛けるB2CとB2Bでほぼ同レベルで、それぞれ8億1100万ドル(約1102億9600万円)と8億9900万ドル(約1222億6400万円)だった。
地域別では、全体の57%が北米を拠点にしており、30%が欧州、7%がアジア太平洋、その他が中近東・アフリカ・南米。北米のスタートアップが減り、欧州勢が増えている。
事業領域では、全体の29%がホスピタリティ産業(このうち19%はホテル・ホステル、10%は短期レンタル物件)、18%は航空関連、10%は法人旅行、6%は特定領域に特化しており、6%はツアーや体験アクティビティ関係だった。
こうした比率は、旅行系スタートアップの全体像とほぼ重なる。ただし、旅程やインスピレーション、コンテンツ領域については、それなりに起業は多い割に、注目25社にはほとんど選ばれていない。また、過去に選出されたスタートアップ各社のうち11社がこれまでに買収されたほか、3社が撤退、1社が吸収合併(2020年選出のSetooがPattern Insuranceへ)された。同85%は、現在も事業を継続中。買収された11社のうち4社は法人旅行関連だった。
2023年組の顔ぶれは?
今回、注目スタートアップに選ばれた25社は以下の通り。それぞれの創業者に、事業内容や2023年の目標、これまでの経験から得た学びや教訓について聞いた。
Aeronology
- 本社:豪州メルボルン、CEO:Russell Carstensen氏、2019年創業、出資額:350万ドル(約4億7600万円)
- http://www.aeronology.travel/
- 事業内容:NDC流通にも対応した航空券や旅行商品のB2B予約プラットフォーム。同じ画面上で効率的に操作できるのでシンプルで使いやすく、短時間で多くの予約手配ができるため生産性が高い。法人旅行、大学や政府機関の業務渡航、トラベルアドバイザーが主な顧客層。
- 2023年の目標:追求しているビジネスモデルは、出張者や旅行者本人がセルフで操作できるユニバーサルな予約ツールを提供すること。マーケットが回復する一方、経験豊かなベテラン社員の流出に悩む今の旅行業界には不可欠だ。一つの同じ画面で、デスクトップ、タブレット、スマートフォンなど、あらゆるデバイス経由での様々な予約に対応できるプラットフォームを構築していく。
- 創業から今までに学んだこと:深刻な危機に直面した時は、迅速に方針転換できるかが重要だ。弊社の場合、当初は特定マーケットを対象にした旅行流通テクノロジーを開発していたが、コロナ禍を受けて、グローバルなモデルへと拡大した。急増するAPIやウェブサービスなどに対応するには、クラウドでもプログラミング言語でも、柔軟性の高いものを選ぶことも事業の成長に不可欠だ。
AeroPaye
- 本社:ナイジェリア、CEO:Mustapha Tijjani氏、創業:2019年、出資額:5万7000ドル(約775億2000万円)
- http://www.aeropaye.com/https://aeropaye.com/
- 事業内容:航空会社と旅行者向けの電子決済プラットフォーム。ブロックチェーンを使ったオンデマンドの自動リファンド機能により、フライトの遅延やキャンセル発生時の払い戻し業務をサポートする。クレーム対応やクレジットカード決済で発生するコスト削減にもなる。
- 2023年の目標:払い戻し業務とインスタントFX(外国為替)決済をフレキシブルにすることで、航空会社の将来的なイメージ悪化を防ぎ、顧客との信頼関係作りや、適正なキャッシュフローを支援すること。より多くの投資資金を獲得し、航空会社やOTA、法人旅行会社(TMC)向けの事業を拡大すること。請求から決済までをスムーズかつ低コストにするソリューションの構築。
- 創業から今までに学んだこと:膨大な数のフライトキャンセルが起き、払い戻し金は未処理のまま放置され、法的な責任を無視するところもあるのが現状だ。航空会社のキャッシュフロー管理の改善が、問題解決には欠かせない。不可能だと考えている航空会社が多かったが、同社のリファンド・インフラがこれを可能にする。
Aidaptive
- 本社:米国カリフォルニア州クパティーノ、CEO:Rakesh Yadav氏、創業:2021年、出資額:1600万ドル(約21億7600万円)
- https://aidaptive.com/
- 事業内容:機械学習のスタートアップ、JarvisML社によるホスピタリティ産業向けの自動パーソナライズ機能。ユーザーの行動や興味関心をリアルタイムで推測し、相手に合いそうなコンテンツを届けて予約確定を促す。
- 2023年の目標:商品開発では、新たにバケーションレンタル管理向けの予測パーソナライズ機能エンジンを提供する予定で、直接予約の売上増につなげる。また、サービス提供先をさらに拡大すること。これにより、クイアント企業が抱える課題についての理解をさらに深めたい。
- 創業から今までに学んだこと:バケーションレンタルにとっての最優先課題は、直接予約を増やすことと既存顧客をつなぎとめること。大手OTAが市場を寡占する状況下で容易ではないが、自社が保有するファーストパーティー・データを最大限、活用することがカギ。総合的なデータ収集・分析や予約プロセス全体を通じた支援を行っている。(プレディクティブ・ホスピタリティ責任者、Evan Dolgow氏)
AltoVita
- 本社:英国ロンドン、CEO:Vivi Cahyadi Himmel氏、創業:2018年、出資額:200万ポンド(約3億3200万円)
- https://www.altovita.com/
- 事業内容:駐在員や出張者向けのリロケーション・マッチング・プラットフォーム。賃貸物件の流通システムと企業や出張者をクラウドでつなぎ、従来は48~72時間かかっていた手続きに必要な時間を数分に短縮。世界165カ国・1553都市の100万軒の物件をカバー。ペットの可否や必要な設備、サステナビリティなどの条件検索もできる。
- 2023年の目標:同社の主な顧客層は、世界各地に従業員を抱えるフォーチュン2000企業だが、2023年は中小企業を対象にした商品をスタートする予定。現在、顧客企業は92社だが、2023年末には500社に増える見込み。既存のクライアント企業向けには、緊急時対応に関するダッシュボードなどの新機能を充実させる。南北米、アジア太平洋市場にも力を入れる。
- 創業から今までに学んだこと:パンデミックは、欧州だけでなくグローバル規模で事業展開するきっかけとなった。景気後退も、古いやり方を改め、コスト効率の良いソリューションに目を向けてもらうには、むしろ追い風だ。投資効果の低いパフォーマンスマーケティングよりSEOやPRの効果を実感している。プロダクト・マーケティングに投資し、新機能の紹介を続けることもライバルとの差別化に有効だった。
Buoy
- 本社:米シカゴ、共同創業者:Tim&Candice Speicher氏、創業:2019年、プロダクト・ローンチは2021年、出資額:37万ドル(約5032万円)
- https://www.buoy.us/
- 事業内容:バケーションレンタルに特化した自動レベニューマネジメント。データをもとにした価格設定、レポート、市場動向インサイトなどの機能をまとめたプラットフォームを提供。複数のツールを組み合わせる煩雑さがなく、簡単に操作できる。
- 2023年の目標:これまで主なユーザーは、多種多様なポートフォリオを管理しなければならないレベニューマネジメント担当部署だったが、利用料金は一カ月当たり数千ドルと安くはない。そこで、個人や起業家向けに無料で利用できる新プロダクト「バロメーター」を提供する計画だ。収益の予測や値付けなどをサポート。米国南東部での試験運用が始まっている。
- 創業から今までに学んだこと:今回が初の創業であり、経験豊かな企業の先輩や仲間たちからの助言は非常に役立っている。グーグル・フォー・スタートアップやテックスターズを通じて出会ったメンター諸氏のおかげで、事業アイディアの説明がうまく進んだ。また獲得資金の半分ほどは、経営に関与しない非希薄化株式なので、経営方針をぶれずに維持できた。
Chooose
- 本社:ノルウェー・オスロ、CEO:Andreas Slettvoll氏、創業:2018年、出資額:1250万ドル(約17億円)
- https://www.chooose.today/
- 事業内容:移動や宿泊に伴う排出ガスを自動計算する機能などを提供するテック企業。パートナー企業と共に、あらゆる人が気候変動問題の解決につながる選択肢を選べるようにすることを目指し、排出ガス削減に向けて、今すぐできることから最新ソリューションまでを提供する。
- 2023年の目標:持続可能な航空燃料(SAF)の利用普及を目指し、法人旅行から観光、B2CとB2B、旅客と貨物など、あらゆる分野を対象に取り組みをさらに加速する。目標は、年間10億人以上の旅行者がカーボン・フットプリントの削減に取り組むこと。経営面では、2022年の4倍の売上を目指す。
- 創業から今までに学んだこと:予想以上に時間がかかることはめずらしくないが、パンデミック下の旅行・観光産業ではなおさらだった。それでも忍耐強く取り組んできたことで、旅行事業への大胆な先行投資が成果を出している。同時に、どんなに素晴らしいアイディアでも、それを実行できる有能なチームに恵まれなければその真価は発揮できないと実感し、感謝している。
Fairlyne
- 本社:フランス・パリ、CEO::Andreas Slettvoll氏、創業:2021年、出資額:プレ・シード段階で100万ユーロ(約1億4500万円)
- https://fairlyne.com/
- 事業内容:予約したチケットの再販など、旅行関連のREコマース事業を自社ブランドで展開するためのSaaSを提供。自社サイトを訪れるユーザーや顧客を対象に、直接、リセールもできるようになる。
- 2023年の目標:自分用に購入したものの、その後、不要になったものを再販するREコマースは、流通業界では大ブームで、事前予約が発生する旅行業でも同じ需要はある。予約したチケットが無駄にならないように、再販取引を支援するテクノロジーを提供し、顧客満足度と売上アップにつなげる。2023年は、鉄道、航空券、ホスピタリティ産業への事業拡大を目指す。
- 創業から今までに学んだこと:自分の予約分をリセールしたい消費者の多さには驚かされた。需要があることは分かっていたが、想像以上だ。REコマース事業について検討を始めている旅行ブランドが少なくないことにも驚く。「必要だと分かっているが、具体的にどうしたらよいのか分からない」といつも言われる。だからこそ、この事業を立ち上げた。
Fetcherr
- 本社:イスラエル、CEO:Roy Cohen氏、創業:2019年、出資額:2000万ドル(約27億2000万円)
- https://www.fetcherr.io/
- 事業内容:ディープラーニングやアルゴ・トレーディング、eコマースの専門家らが創業したテック企業。人工知能による価格計算や在庫管理エンジンを提供し、正確かつ緻密に需要を予測。航空会社のきめ細かい価格戦略を支援する。
- 2023年の目標:旅行業ではなくテクノロジー畑出身なので、違う角度からの問題解決を提案している。2022年はブラジルのアズール航空向けに弊社のソリューションを提供開始したが、2023年は大手航空会社や超格安航空向けソリューションも提供し、新たに大手5社との契約が目標。アンシラリーや座席別の価格算出も可能になる。
- 創業から今までに学んだこと:過去3年間は、航空業界の膨大なデータを使って精度を上げると同時に、航空・旅行産業について理解を深めた。ディープラーニングの最新テクノロジーを活用するので、まずプロダクトを動かし、検証すること。投資家や顧客企業と話すのはそれからだ。クライアントには具体的なプロダクトや、数値化した効果を示す必要がある。不可解なテクノロジーへの警戒心を払拭し、信頼を得るための段階的アプローチや透明性も不可欠だ。
Flycoin
- 本社:米ロサンゼルス、CEO:Lenny Moon氏、創業:2021年、出資額:3320万ドル(約45億1520万円)
- https://flycoin.org/
- 事業内容:クリプトやブロックチェーンを活用した次世代型のロイヤルティプログラム運用ソリューションを提供する。旅行・ホスピタリティ産業に加え、金融サービスなど幅広い領域に対応したソリューションを提案している。
- 2023年の目標:パートナー企業をさらに増やし、弊社のエコシステムを拡大すること。世界中のユーザーがこれまで以上に手軽にポイントを貯めたり、使ったり、交換しやすいくすること。
- 創業から今までに学んだこと:旅行業やWeb3.0産業にとって、過去2年半は混乱が続いたが、この間、重要な問題への関心が高まった部分もある。当局の規制が厳しくなるなかで、旅行テックやクリプト関連事業を展開するスタートアップが成長するためには、機敏で柔軟であることが重要。必要でないことや重要ではないことと、絶対に追求すべきビジョンを見極めることを学んできた。
Fora
- 本社:米ニューヨーク、共同CEO:Henley Vazquez氏、Evan Frank氏、創業:2021年、出資額:1850万ドル(約25億1600万円)
- https://www.foratravel.com/
- 事業内容:旅行業に情熱を持っている人が、柔軟に仕事し、収入を得られる仕組みを提供する次世代型の旅行会社。専門的な研修、予約・マーケティングツール、テクノロジー・プラットフォームなどを提供する。旅行代理店というビジネスモデルの再定義に挑む。
- 2023年の目標:現在、トラベルアドバイザーは600人ほど抱えているが、さらに3万5000人以上がウェイティングリストにある。2023年は、新しいアドバイザーを大幅に増やす予定で、研修も拡大する。コミュニティ・ファーストの団体研修プログラムも新しくスタートした。引き続き、世界トップレベルのカリキュラムを拡充し、プロの旅行アドバイザー育成に必要なサポートを強化する。
- 創業から今までに学んだこと:トラベルアドバイザーは最高の職業だというのが我々の信念。旅行業に縁のなかった人からの高い関心を実感している。弊社アドバイザーの97%は、これまで旅行を扱った経験がない人たちだが、今ではプロだ。旅行産業を揺るがす新しい勢力の軸となる。
GauVendi
- 本社:ドイツ・フランクフルト、CEO::Markus Mueller氏、創業:2020年、出資額:75万ユーロ(約1億875万円)
- https://www.gauvendi.com/
- 事業内容:ホスピタリティ事業者向けの販売・売上管理システム。客室タイプではなく、様々な特徴ごとに在庫を管理し、変化するデータに対応した動的マネジメントを行う。どんなカテゴリーの宿泊施設でも、まったく新しい手法で販売や収益管理、マーケティングが可能になる。
- 2023年の目標:予約ソリューションと客室マーケティング法を、中小規模のホテルチェーンにも利用してもらうこと、またケーススタディを通じて、ブランド価値の上昇を数値化すること。フォーカスする3つの分野は、プロパティ・マネジメントシステムと販売サイト向けのインターフェース拡充、フラウンホーファー研究所などと協力しながら行動科学の知見を取り入れ、販促コンテンツを開発すること、そして提携先の拡大。
- 創業から今までに学んだこと:最初に外部からの投資がなかったことが結果的には幸いし、当初から目指していたプロダクト作りに集中。旅行流通全般に活用できる汎用性の高いソフトウェア・ソリューション開発につながった。もう一つの教訓は、最初から完璧なチームが揃うわけではないこと。創業直後は、特にソフトウェア・エンジニアの人材探しに苦労した。
Gopass Global
- 本社:シンガポール、CEO:Mark Radford氏、創業:2020年、出資額:80万ドル(約1億880万円)
- https://gopassglobal.com/
- 事業内容:出張や旅行中に発生するリスク対策に特化したリアルタイムでのデータ分析事業。病害、社会、地政学などの観点から予測されるリスクや、悪天候などに対応。ISO31030の基準に沿った出張者ケアを効率的に提供できるよう、法人や旅行会社をサポートする。
- 2023年の目標:コロナ禍や、これに伴う様々な規制への対応力が高く評価されてきた。2023年は、リアルタイムでの危機対応サポートをさらに拡充し、総合的なリスク対応プロダクトへ。企業の出張承認プロセスなどにも活用できる仕様にする。
- 創業から今までに学んだこと:自社のコンセプトや市場価値について、常に確認しながら進むことは、どのスタートアップにとっても非常に大切だ。もともと旅行産業は、事業者どうしの協力関係やテクノロジーの連携が活発なので、より大きな価値があり、既存のものを上回るのだと証明してみせる必要がある。柔軟なテクノロジーと革新性は、変化と成功をもたらす。
Grapevine
- 本社:英国ロンドン、CEO:Jack Dow氏、創業:2019年、出資額:75万ポンド(約1億2450万円)
- https://www.grapevine.travel/
- 事業内容:人工知能を使い、販売機会を逃したケースを予約データの中から特定し、パーソナライズした販促メールを「適宜、最適な流通チャネル経由で」送るマーケティング支援ツール。喩えるなら旅行に特化したKlaviyo や Ometria。法人旅行では、企業が指定するプラットフォーム以外で840億ドルの予約が発生しており、まずこの分野が主なターゲット。
- 2023年の目標:目標は3つ。まず、英国と米国のクライアント企業を中心にユーザーを拡大すること。次に、プロダクトや機械学習の精度をアップし、売上や利益率を高めること。そして法人や出張者、法人旅行会社向けの新しいプレミアム・プロダクトのローンチ。
- 創業から今までに学んだこと:信頼関係、忍耐、あきらめないこと、この3つが重要。信頼関係作りでは、直接、顔を合わせて会う以上の方法はない。旅行産業では人間関係の影響力が大きいので、GBTA、BTNイノベート、BTSヨーロッパなどのイベントに参加している。また、何事もこれまで長く続いたやり方がある業界なので、一夜にしてイノベーションが起こると期待してはいけない。
Holibob
- 本社:英国ロンドン、CEO:Craig Everett氏、創業:2019年、出資額:1500万ドル(約20億4000万円)
- https://www.holibob.tech/
- 事業内容:アクティビティや体験に特化したeコマース・エンジン。自社の主力商品の他に、アンシラリー商品を揃えたり、顧客生涯価値を上げたい旅行会社やDMO向けのB2B事業。即、使える形で納品するので、クライアント企業は本業に集中できる。
- 2023年の目標:旅行会社、DMO、ツアー催行会社とのパートナーシップを拡大すること。また、これまでの経験をもとに開発してきた機能を実用化し、クライアント企業の予約高や顧客生涯価値の向上につなげる。マーケティング・プラットフォーム、eコマース・エンジン、供給商品などの最適化に取り組み続けること。
- 創業から今までに学んだこと:たくさんあるが2つに絞ると、知識や情報をどんどん吸収するスポンジになること。自社商品への信念は必要だが、自分が知らないこともある。謙虚な姿勢は、多くの学びをもたらし、事業の成長にも役立つ。また、自分より優秀な人材を獲得すること。創業者がすべて分かっている必要はない。得意な分野以外は、すべて優秀な人材に任せるべきだ。
Hotelverse
- 本社:スペイン・マヨルカ、CEO:Fermín Carmona氏、創業:2020年、出資額:200万ユーロ(約2億9000万円)
- https://www.hotelverse.tech/es
- 事業内容:ホテルを探しているユーザー向けに、没入感あるバーチャル体験を提供し、よりリアルかつ効率的に客室を選べるようにする。超写実的な3Dモデル「デジタル・ツイン」を使い、実際にホテル内にいるような感覚を実現している。
- 2023年の目標:順調な成長に満足している。6か月以内に社員は40人になったが、年末までにさらに倍増する勢いだ。現在、カリブ海地域には進出済みだが、米国、ギリシャも近く加える。来年はアジアにも進出する計画だ。
- 創業から今までに学んだこと:テクノロジー支援にも色々あり、ネガティブなイメージを持つ人もいる。その理由は、時間や労働力、リソースの犠牲が伴うからだ。弊社では、革新的でありながらも導入が簡単で、スマートかつシンプルな技術であることが絶対条件だと考えている。
Iomob
- 本社:スペイン・バルセロナ、CEO:Boyd Cohen氏、創業:2018年、出資額:400万ユーロ(約5億8000万円)
- https://www.iomob.net/
- 事業内容:様々な交通サービスを扱う分散型のIoM(モビリティのインターネット)ネットワーク。ブロックチェーンを基盤に、公共交通やシェアライドなど様々な交通サービスと、その利用者を抱えるOTA、鉄道会社、航空会社などのパートナー企業をつなぐ。環境にやさしい移動手段を選ぶとポイントがたまるNFTベースのアプリ「WheelCoin」も展開。
- 2023年の目標:IoMとガバナンス・トークン(トークンが関わるプロジェクト運営に対し、議決権を持ったトークン)を正式にローンチする重要な年になる。地域社会が主体となるネットワーク構築を目指す。WheelCoinはテスト運用を終了し、公開へ。来年末には、WheelCoin限定のIoMも開始予定で、電気自動車や電気タクシーなどがポイント対象に加わる。
- 創業から今までに学んだこと:創業者3人のうち2人は起業や売却を経験しているが、学びは尽きない。特に粘り強さ、根気はとても重要だ。創業当時、IoMネットワークは時期尚早で、誰も準備ができていなかった。グローバル企業との取引は時間がかかる。弊社の場合、大手の情報通信企業と連携する形が多い。WheelCoinのような回転の速い事業を同時に並走させることも必要だ。
Jyrney
- 本社:英国チェスター、CEO:Daniel Price氏、創業:2020年、出資額:15万ポンド(約2490万円)
- http://www.jyrney.com/
- 事業内容:自宅/空港間や出張先での交通サービス手配を効率化するワンストップ・ソリューションを法人旅行会社(TMC)向けに提供。また、予測が難しい車での移動時間を、過去の出張データをもとに割り出し、地上交通手配でトラブルが起きやすい乗客のピックアップもスムーズにする。
- 2023年の目標:現在、TMCの取扱いに占める地上交通は3%以下に過ぎない。フライト一回ごとに地上交通を最低2回利用するはずなのになぜか?事業のミッションは、地上交通の予約手配や管理を効率化すること。ローカルおよびグローバル交通サービス各社を扱う弊社のサプライチェーンをさらに洗練し、フライトや鉄道、ホテル予約を扱う旅行テック企業とも協働する。
- 創業から今までに学んだこと:出張やイノベーションを止めることは、パンデミックでさえ不可能だった。だが業務渡航に対する考え方は変化しており、TMCによるきめ細かいサービスへの評価は高まった。自宅勤務が増えたことで、地上交通手配の重要性は強くなっている。フライトや鉄道、ホテル、レンタカーの予約業務は効率化されてきたが、最後に残っているのが地上交通だ。
Mount
- 本社:米国ニューヨーク、CEO:Madison Rifkin氏、創業:2020年、出資額:200万ドル(約2億7200万円)
- https://www.rentmount.com/
- 事業内容:スポーツ用品からポッドキャスト・スタジオ、プライベート・シェフまで、短期レンタル物件利用者とホストをつなぐ様々なアメニティやサービスのマーケットプレイス。誰でも参加できて、何でもレンタルできるシェアリングエコノミーが活発になれば、もっと身軽な旅行が楽しめるようになる。
- 2023年の目標:コロナ禍を経験し、旅行が転換期にある今、Z世代はどこに滞在するかだけでなく、何を体験するかを重視しており、そこに弊社への需要がある。2023年は、ブランド強化、ダイナミック・プライシングや各種機能の拡充、顧客対応や営業マーケティング・チームの拡大に取り組む。ノマド・ライフを世界中で可能にするプラットフォームが目標。
- 創業から今までに学んだこと:決してあきらめないこと。創業以来、8回ぐらい方針転換した。弊社の商品とマーケットが合致するまで、顧客の声を聴きながら、試行錯誤した。エアビーアンドビーが圧倒的な世界だが、物件オーナーやマネジャー、旅行者が求めていることはあり、それに応えるのが我々だ。
Nectar
- 本社:米国アトランタ、CEO:Derrick Barker氏、創業:2021年、出資金:株式275万ドル(約3億7400万円)と借入金2700万ドル(約36億7200万円)
- https://www.usenectar.com/
- 事業内容:短期レンタル物件や商業用不動産の管理・所有者、投資家を対象に、事業キャッシュフローに基づく財務ソリューションを提供。将来性の高い事業が成長するために必要な資金を、迅速かつフレキシブルにサポートする。
- 2023年の目標:米国内トップクラスの短期レンタル物件事業を手掛けるオーナーやマネジャーを財務支援する。キャッシュフローは順調だが、投資資金が足りない事業者のために、クライアントの取引先とも連携しながら、事業の拡大・改善を目指す。2023年の目標は、特定の地域に偏ることなく、トップ事業者を対象に、計7500万ドル(約102億円)規模を支援すること。
- 創業から今までに学んだこと:不動産事業者がパパママ経営からプロフェッショナルへと成長する過程を見てきたが、個人資金では投資に限界が出てくる一方、市場からの資金調達も効率が良くない状況がある。こうした壁にぶつかった将来有望な事業者をサポートし、大きな価値創出につなげる。
NeoKe
- 本社:ドイツ・ベルリン、CEO:Vikas Bhola氏、創業:2022年、出資金:第1ラウンドを終了した段階
- http://neoke.tech/
- 事業内容:デジタルID認証インフラを提供し、ストレスなく世界中を移動できるようにする。スマートかつ高度なセキュリティ保護下での情報のやり取りで、これを実現する。
- 2023年の目標:NeoKeは、旅行用のウォレット。空港やホテル、レンタカーやOTA利用時など、様々な場面での本人確認をリモートで行うデジタルIDを提供し、安全かつスムーズな移動を可能にし、パーソナライズやダイナミック・コンテンツ提供にも役立つ。すでに宿泊施設での利用が始まっている。2023年はグローバルOTAとの試験運用をスタート。航空会社とそのハブ空港とも連携し、旅客の事前チェックを行うことで混雑緩和を目指す。
- 創業から今までに学んだこと:旅行各社はデータを活用し、顧客体験を改善しようとかんばっているが、企業ごとに分断された取り組みでは限界がある。ユーザーが望むのは、様々なタッチポイント(旅の計画から予約、移動、体験、旅行後まで)が連携し、よりパーソナライズされたサービス。実現するには、データ所有者の権利は担保しつつ、安心安全に情報をやり取りできる機能が不可欠だ。
Selfbook
- 本社:米国ニューヨークシティ、CEO:Khalid Meniri氏、創業:2020年、出資額:5000万ドル(約81億5000万円)
- https://selfbook.com/
- 事業内容:ホスピタリティ産業向けフィンテック。世界中で、急速に変化する決済手段への対応を支援。ホテルの既存システムを活かしつつ、チェックアウトの効率化、アップルペイ、グーグルペイなどのデジタルウォレット対応を支援し、成約率や売上アップにつなげる。
- 2023年の目標:既存のテクノロジーをさらに改善し、消費者が日常、使い慣れている決済手段で、手軽にホテル予約や支払いができるフィンテック導入を計画しており、現在、試験運用中。複数のシステムが迷路のように絡み合うホテルの予約・決済システムをシンプルに使いやすくし、宿泊客だけでなく、ホテル従業員の労力も軽減。セキュリティも強化する。
- 創業から今までに学んだこと:まず社員、次にプロダクト、そして利益という優先順位。チーム全員が、自分は大切にされていると感じることが、それぞれが真価を発揮し、業界を変えるイノベーション開発につながった。福利厚生やヘルスケア、完全リモートワークに必要なモバイルやインターネット費、6か月間の有給育児休暇など。精神的、肉体的な安定は、仕事に集中する上で重要だ。
StatusMatch
- 本社:シンガポール、CEO:Mark Ross-Smith氏、創業:2020年、出資額:なし、自己資金のみ
- https://www.statusmatch.com/
- 事業内容:航空会社やホテルブランドが、会員プログラムの上位ステータスに該当する新規顧客を獲得するのを支援するマッチング・プラットフォーム。申し込みのあった利用者とのやり取りや内容確認などをアウトソースし、数週間かかっていた手続きを数分で処理できる。
- 2023年の目標:テクノロジー開発とマーケティングの強化。ロイヤルティプログラムを展開している航空会社、ホテル、クルーズ会社の参画を増やすこと。パンデミック中、会員のエリート・ステータスを延長した航空会社やホテルも、2022年は通常通りに戻しているので、弊社プラットフォームへの需要は増加中。クライアント企業にとっては、競合他社の顧客を獲得するチャンスだ。
- 創業から今までに学んだこと:大手航空会社やホテルは(意思決定などの)動きが緩慢だが、特にスタートアップの場合、こうしたペースに合わせることは必ずしも得策ではない。大規模な組織内にも、すぐに理解して行動する人は存在し、利益につなげている。先見の明があり、将来について考えている相手を探し出せるかは重要だ。
Swayed
- 本社:米国ロサンゼルス、CEO:Arjun Shokeen氏、創業:2020年、出資金:42万ドル(約5712万円)
- https://www.swayed.ai/
- 事業内容:宿泊客が持ち歩くデバイスの位置情報、行動やトランザクション・データをもとに、その人の時間とお金の使い方をリアルタイムで分析し、相手に合わせたコンテンツを自動的に送信するゲストサービス。ソフトウェアなので、ホテルに新しい機器を設置する必要がなく、ゲスト側もアプリのダウンロードは不要。
- 2023年の目標:技術面では、ゲストの位置やカスタマージャーニー把握の精度アップに投資する。機会学習を使い、ゲストのセグメンテーションや送信タイミングをより適正化する。また事業対象をホテルだけでなく空港や航空会社にも拡げ、収集データ量を大幅に増やすこと。クライアント企業向けのベンチマーキング提供など新しいプロダクトも開発できるようになる。
- 創業から今までに学んだこと:Z世代、ミレニアルズ、ベビーブーマー、X世代では、それぞれ特有の空間やアメニティの使い方があること。顧客生涯価値を高めるために、追加販売やクロス販売、クーポン券に頼る必要はないこと。パンデミックで以前からあった傾向がさらに強くなったが、新しい傾向が出てきた訳ではない。
TravelX
- 本社:米国マイアミ、CEO:Juan Pablo Lafosse氏、創業:2021年、出資金:1100万ドル(約14億9600万円)
- https://travelx.io/
- 事業内容:旅行分野での起業経験が豊富なCEOと、同じく起業経験を持ち、VR、メタバース、Web3.0に精通したFacundo Díaz氏による新事業。航空券をトークン化し、ブロックチェーン経由で在庫管理や販売を行う。
- 2023年の目標:旅行業初のブロックチェーン経由での流通・販売インフラをさらに拡大していく。航空会社は、座席をトークン化した「NFTチケット」を販売できるようになり、これが新しい航空券の形として普及するだろう。現在、50社以上の航空会社と協議中で、IATA(国際航空運送協会)、航空調査会社のCAPAなどともパートナー関係にある。こうした連携をさらに拡大する。
- 創業から今までに学んだこと:旅行業に30年従事し、複数の事業を立ち上げてきたが、浮き沈みは必ずある。この業界は常に進化し、拡大している。消費者が今、必要なものだけでなく、将来的に何が必要になるのか先を読み、ライバルより前に出ることを目指す努力が重要だ。
Zytlyn
- 本社:スイス・ジュネーブ、CEO:Houman Gourdarzi、創業:2021年、出資額:360万ドル(約4億8960万円)
- http://www.zytlyn.com/
- 事業内容:航空・旅行関連企業向けに、利用客の行動や要望を予測し、購買につなげるためのソリューションを提供。営業計画作りやオペレーション改善にも役立てる。
- 2023年の目標:予測ソリューションの精度アップに力を入れる。これまでの開発をベースにプロダクトを拡充し、クライアント企業の問題解決に役立つ機能を加えていく。主要航空会社、旅行会社、空港、デスティネーション、ホテル、レンタカー、小売業者、ラグジュアリーブランドなどに、予測ソリューション活用の利点を広く知ってもらうこと。チームを拡大し、この領域での世界トップになる。
- 創業から今までに学んだこと:創業当初は、先を急ぎたくなるものだが、しっかりと基盤を固めること。自社プロダクトがマーケットの需要に合うよう、きめ細かいチューニングを迅速に進めることを心がけている。クライアント企業との信頼関係も大切だ。顧客の目標は、我々の目標でもある。相手のニーズを完全に理解した上で、課題解決につながるプロダクト開発を行う。
※円換算は、1ドル136円、1ユーロ145円、1ポンド166円でトラベルボイス編集部が算出しました。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:PRESENTING THE HOT 25 TRAVEL STARTUPS FOR 2023