沖縄の離島で旅行者の「人数制限」を始める背景と狙いとは? 住民と旅行者の満足度上げる、「持続可能な観光」への道筋を取材した

日本最南端の西表島、竹富島、鳩間島、由布島、加屋真島、小浜島、黒島、新城島、波照間島で構成される沖縄県竹富町。2021年7月には、奄美大島、徳之島、沖縄県北部(やんばる)と共に西表島が世界自然遺産に登録された。その西表島について、竹富町が申請していた「西表島エコツーリズム推進全体構想」が2022年12月に認定。今後、法的根拠をもとに適切な観光管理を進めていくことになる。

近年、観光客の増加に伴い、さまざまな課題が顕在化してきたなかで、豊かな自然資源に恵まれた離島が見据える持続可能な観光とは?竹富町の担当者に、観光管理を進める背景と今後の取り組みを聞いた。

「西表島エコツーリズム推進全体構想」とは

竹富町が本格的に地域の持続可能な観光に取り組む契機となったのは、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産登録に向けた活動にある。地域連絡協議会の中に「西表島部会」が設置され、竹富町も関連団体とともに参画。2020年1月に「持続可能な西表島のための来訪者管理基本計画」が策定された。

2021年7月に世界遺産に登録されたのち、世界遺産委員会からの観光客訪問者数に関する要請事項に対応するため、その基本計画は「西表島観光管理計画」に改定され、西表島への観光客入域抑制などの議論が進む。

2022年12月に国から認定された「西表島エコツーリズム推進全体構想」は、エコツーリズム推進法に基づくもので、「西表島観光管理計画」を法的実行力を持って進めていくための手段となるものだ。

「全体構想」では、西表島を3つの利用区分にゾーニング。原則として観光利用を行わない「保護ゾーン」、一定のルールのもとで観光利用を行う「自然体験ゾーン」、観光利用が可能な「一般利用ゾーン」に分けた。特に「自然体験ゾーン」の区分では、「特定自然観光資源」として「ヒナイ川」「西田川」「古見岳」「浦内川源流域」「テドウ山」の5カ所を指定し、総量規制のための立入制限の仕組みを設けた。

認定後、すでに自然体験型の利用ルールは2023年1月1日から施行されている。「特定自然観光資源」への1日あたりの立ち入り人数制限は、周知など準備期間が必要なことから2024年からの開始を予定しているという。竹富町自然観光課主幹兼自然環境係長の安生浩太氏は「全国でも例のない取り組み。地元、旅行会社、旅行者に十分な周知が必要になる」と話す。

エコツーリズム推進法に基づく「全体構想」は、北海道の弟子屈町でも2016年に認定され、硫黄山への立ち入り人数制限を定めているが、その主な目的は安全管理。オーバーツーリズムの回避を目的とする西表島とは考え方が異なる。

立ち入り人数制限の実施まで期間を設ける理由には、「特定自然観光資源」に入域するガイドの選定もある。竹富町では、独自政策として「竹富町観光案内人条例」を定め、事業者にガイド免許を交付しているが、5カ所の「特定自然観光資源」では、エリアごとに新たな要件を設けて、資格を取得してもらうという。

ガイド免許の条件として、救命講習の受講経験、西表島の公民館に属するなど地域振興への貢献、西表島での営業所設置などがあり、現在のところ110社ほどが免許を取得している。

インタビューはオンラインで実施。(左)仲盛氏(右前)安生氏(右奥)上池氏顕在化してきたオーバーツーリズム問題

町が観光管理を進める背景には、年々深刻度が増すオーバーツーリズム問題がある。

大きな要因のひとつが2013年の新石垣空港の開港。輸送量が増えたことで、竹富町への入域数も年々増加した。コロナ前の2019年は年間100万人を超え、そのうち人口約2400人の西表島へは約29万人が入島した。

このため、浄水能力、船や港の混雑などで島の住民生活に影響が出てきた。また、マスツーリズムから個人旅行への変化の中で、一人のガイドが少人数を引率するツアーが増え、マングローブの奥までカヌーで入り込むスタイルも好まれるようになったことから、自然環境への負荷も顕在化してきたという。

加えて、「SNSの影響も大きい。珍しいところを発信するため、そこに人が集まってしまう」(竹富町自然観光課観光振興係主任の上地朝奈氏)ことも局地的なオーバーツーリズムにつながっているようだ。

竹富町自然観光課課長補佐の仲盛敦氏は「西表島は、自然環境と住民の生活が近いため、観光によるオーバーツーリズムと自然環境の保護の意識は高く、みんなが課題感を持っていた」と明かす。そのため、「全体構想」での立ち入り人数制限についても、地元や事業者との合意形成も速やかに進んだという。

「全体構想」では、1日あたりの立入上限数をヒナイ川200人、西田川100人、古見岳30人、浦内川源流域50人、テドウ山30人と定めた。

竹富島では入島税でトラスト活動

竹富町で最も入域数の多い竹富島でも、持続可能な地域づくりに取り組んでいる。

そのひとつとして、2019年9月から入島税の収受を始めた。竹富島を訪れる旅行者に対して、任意の協力金としてお願いするもの。地域の公民館が竹富島地域自然資産財団を立ち上げて始めた。その資金は、地域の土地を外部から買い戻すトラスト活動に使われている。

この取り組みには先例がある。北海道斜里町は「100平方メートル運動の森・トラスト」を展開。全国から寄付を募り、当時乱開発の危機にあった開拓跡地の買い取りを進めている。

竹富島では、1986年に「竹富町憲章」を策定。そのなかで、保全優先の基本理念のひとつとして、 「島の土地や家などを島外者に売ったり無秩序に貸したりしない」を定めており、それが入島税によるトラスト活動につながっている。

竹富島への入域観光客数は2019年で約51万人。仲盛氏によると、入島税支払いは全体の1割強。目標は3割だという。観光客からは「知っていたら払っていた」「強制的に取るべき」との声も聞かれていることから、今後は更なる周知理解も求められてきそうだ。

持続可能な観光地に向けて「訪問税」の検討も

自然保護以外にも、竹富町には観光課題がある。

竹富町全体の観光産業従事者は43.5%。竹富町にいたってはほぼ観光業が収益源となっているが、入域観光客の7割ほどが石垣島に宿泊するという。竹富町の各島に渡る船も石垣市の民間事業者。竹富町に宿泊施設が少なく日帰り客が中心で、観光業が主産業であるにもかかわらず、観光による税収は低いのが実情だ。沖縄県は宿泊税の導入を検討しているが、竹富町にとってはメリットは少ない。

そこで、竹富町としては「観光資源の維持管理のために訪問者にも一定の負担をお願いする」(安生氏)との考えから、9つの有人島に入島する場合の「竹富町訪問税条例」を検討しているという。

広島県廿日市市では、世界遺産の宮島への来島者に対して1人100円の「宮島訪問税」を2023年10月1日から開始する予定だが、それを先例として、竹富町では2024年度から審議会で条文の検討に入り、早ければ同年度に議会に上程したい考えだ。

「責任と思いやりのある行動」を訪問者に呼びかけ

また、八重山諸島は人気の観光地だけに、竹富町の取り組みや考えを旅行者に伝え、理解を求める活動も必要だ。

上地氏は「島の人たちが大事にしているものを発信し、それを観光客にも共感してもらえるようにしていきたい」と話す。訪問者にとっても地元にとっても満足度の高い観光。上地氏は、ハワイ州観光局が掲げる地域への「マラマ(思いやり)」という考え方は、同じ島の竹富町も共有できると続けた。

竹富町では、「責任と思いやりのある行動」を訪問者に事前に呼びかける取り組みとして、新たにビジュアル「またねっ!と、言いたいから。その思いが、島と人をつなぐ」を制作した。また、島滞在でのルールとマナーを周知するポータルサイトも立ち上げ、「ビーチ以外で水着や上半身裸で歩かないこと」「地域医療への負荷を防ぐための日焼けや熱中症対策」「御嶽や拝所などへ無断で立ち入らないこと」「ドローンなどでの集落撮影を控えること(要事前申請)」「ゴミの持ち帰り」「制限速度でのドライブ」「飲酒後の海水浴は控えること」「登山では入林届の提出」を「島からの8つのお願い」として発信している。

新ビジュアルで竹富町の取り組みを発信離島はそもそも生活資源が限られているため、観光による負荷は小さくない。人口329人(2022年12月末時点)の竹富島に年間約50万人が訪れる負のインパクトは想像に難くない。一方で、観光への経済的依存度が高いのも事実だ。自然や文化を守ることと収入を増やしていくことは、どちらも島を守ること。そこで観光が担う役割は大きい。

聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

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