デスティネーションズ・インターナショナル(DI:Destinations International)は2024年、110周年を迎える世界最大の地域観光組織の協会。世界規模での様々な活動しているほか、DMO(観光地域づくり法人)活動に役立つツール開発から資格認定まで、幅広い活動を展開している。9月下旬、関東運輸局のDMOフォーラムで「米国におけるDMO事情」について講演するために来日したデスティネーションズ・インターナショナルのグローバル開発担当副社長、ガブリエル・シダー氏に、世界の地域観光組織、DMOの最新動向を聞いた。
DIが米国で発足した当初の主なメンバーは、州や地域で国際会議誘致にあたるコンベンションビューロー(CVB)が多かったが、現在は世界23カ国・約700地域のDMOや地域観光局に拡大。日本からは日本観光振興協会(JTTA)が2023年に正式加盟している。
「会員の形態はDMOに限らず様々だが、共通しているのは地域の観光プロモーションやマーケティング、マネジメントを担う組織であること。DIでは、加盟するメンバーの観光による地域活性化をサポートするために、各種調査の実施、経済効果などを把握するツールの開発、デスティネーション組織を対象とした認証制度や専門人材育成プログラム、年次総会・テーマ別サミット開催などをおこなっている」とシダー氏は説明する。
幅広い活動を支える財源は、主に加盟メンバーおよびパートナー企業・団体からの会費で、連邦政府からの予算はない。フルタイムで従事する専任スタッフは30人ほど。加盟する地域の規模は様々だが、年間予算200万ドル(約2億9000万円)以下のところが半分以上を占めており、会費は規模に応じたスライド制としている。
もっとも「各地域が直面している課題には、規模に関係なく、共通点が多い」(シダー氏)という。
世界のDMOはマネジメントにシフト、KPIは「住民の気持ち」を重視
DIがコンサルティング会社MMGYネクストファクターと共同で実施し、今夏にまとめた「デスティネーションネクスト未来調査2023」から分かる地域観光組織の最新動向として、シダー氏は「マーケティングから地域マネジメントへのシフトがさらに進んでいること」を挙げる。同調査は2年毎に実施しており、今回は世界62カ国・837地域が回答。日本からも約40の地域観光組織が回答を寄せた。
もちろんマーケティングはこれからもDMOの重要な役割だが、「これまでのように、訪問客の人数アップなど、需要創出に向けたマーケティングだけに集中するのではなく、訪問客の体験向上や、観光以外の経済活性化など、供給サイドにもっと目を向けるべきだという認識が広がっている。効果測定においても、人数だけでなく、地域が目指す客層にアピールできているかが、ますます強く意識されている」と同氏は話す。
同調査の回答者が「大きなインパクトがあるトレンド」に選んだ項目のトップは「AIの急速な普及」だったが、前回調査の30位から3位に急浮上したのは「地域コミュニティは、地元住民や観光客のためのデスティネーション・商品・体験開発に、より積極的に関わろうとしている」。2位は前回調査と同じく「訪問者がますます本物かつユニークな体験を求めるようになっている」だった。
そのほか、「居住者がどう感じているかが、より重要な指標になっている」(38位→6位)、「地域におけるサステナビリティ実現への取り組みが、経済、社会、環境全般へと拡大している」(32位→4位)、「地元住民と観光客の双方に利益をもたらす地域づくりに、より一層力が注がれている」(28位→8位)などの項目も、大きく順位を上げた。
「DMOの最も重要な役割は?」との質問では、「現在」も「将来」も、トップは引き続き「デスティネーション・マーケティング」(1位)だったが、「将来」の2位には「データ調査&ビジネスインテリジェンス」が浮上している。
同様に、重視しているKPIについての「現在」と「将来」の比較では、1位はどちらも「観光の経済インパクト」だったが、将来のKPIでは「訪問客の満足度」(6位→2位)、「居住者の気持ち」(13位→7位)などの重要度が高くなっている。
なお、特に米国において顕著な潮流として、シダー氏は「多様性や公平性、包摂性が大きな社会課題になるなか、地域観光においても、これまでにない新しい取り組みが登場している」と話す。
その一例がアリゾナ州メサの事例。自閉症などの発達障害を持つ旅行者が楽しめるデスティネーションとして米国内初の認定を受けた。自治体や医療機関、観光事業者が連携して受け入れ環境を整え、スタッフのトレーニングを実施。博物館では、音や光による刺激を抑制し、自閉症の人が安心して利用できる時間帯を設けている。
DMOに求められる説明責任と、住民らとの合意形成
DMOなどの地域観光組織にとって、ますます重要になっている地域マネジメント成功のカギとはなにか?
地域が目指す未来の姿について、住民を含むあらゆる関係者の合意形成(アドボカシー)ができているかだ、とシダー氏は考えている。
「政策や公共サービスの立案者と民間事業者、そして地域住民が求める方向性が一致し、お互いの役割を理解していないと、DMOへの支持が得られず、結局、うまくいかない。だからDMO活動の大半は、地域住民とのコミュニケーションに費やされることになる。その上で地域が目指すロードマップを作り、その途上で効果測定と検証を繰り返しながら進んでいくべきだ。会員地域からは、こうした各ステップで役立つツールや、事例紹介などのコンテンツへの要望が多い」。
デスティネーション・マーケティングや地域マネジメントは、「地域が発展するために欠かせない公共サービス」だと同氏は考えており、「当然、地域に対する説明責任がある」とも指摘する。米国の場合、日本のように国としてのDMO認定制度はない。誰からのお墨付きもない分、市民の税金や宿泊税を財源としているDMOやCVBが、受け取った資金に見合う活動をしていると市民から認められ、賛同と支持を得られるかは、存在意義にかかわる死活問題になっている。