今こそ旅行の価値の「再構築」を、サステナブルのその先へ、観光地域が取り組む手法を聞いてきた(PR) 

日本が入国制限を緩和してから1年が過ぎた。各地で未来に向けた議論が活発になっているなか、これからの観光地に求められる新たな価値として「リ-ジェネレーティブであること」に注目しているのは、EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EY Japan)のストラテジック インパクト パートナー、平林知高氏だ。

「リジェネレーティブ・ツーリズム」は「再生型観光」と訳されることが多いが、平林氏は「ツーリズムの価値を再定義して、高めていく。旅の価値を再構築すること」と話す。レポート「水際緩和から1年の今考える、サステナブルのその先へ、リジェネレーティブ・ツーリズム『旅価(たびか)の改新』とは何か?」を発表した平林氏に、話を聞いた。

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マーケットの変化と、一律に「量より質」へと進むリスク

観光庁の統計によると、訪日観光客の延べ宿泊数は2023年1~6月の上半期合計で、2019年同期比74.8%まで回復した。市場別では、中距離の東南アジアや、長距離の欧米豪からの旅行者が好調。米国やカナダ、ドイツ、シンガポールなどはコロナ前の水準を上回る回復ぶりだ。

消費額も伸びている。観光庁の調査結果をもとにEY Japanが作成したインバウンド消費単価・費目構成比によると、2023年上半期は2019年同時期と比べて一人あたりの消費額は約5万円増の20万円超。平均宿泊日数も3.5泊増の11.5泊へと延びた。この変化について、平林氏は「世界的な在宅勤務の拡大によって、ワーケーション(旅先テレワーク)がしやすい環境が広がったことも要因にある」とみている。

訪日観光客が順調に回復するなか、懸念されているのがオーバーツーリズムだ。EY Japan の分析によると、上半期の延べ訪日宿泊者数がコロナ前を越えた都道府県は東京のみ。同8割以上に達しているのも、京都、栃木、福岡、石川、宮城に限られている。

この数字を見る限りでは、現時点で訪日観光客による重篤なオーツーリズムが発生している可能性があるのは東京ぐらいだが、インバウンド6000万人誘致を目指す日本にとって、今後の対応策は重要だ。世界的には、入域・入場を予約制にして入場者数を管理したり、入場料金を徴収したりする事例は、もはや珍しくない。

EYストラテジー・アンド・コンサルティングのストラテジック インパクト パートナー、平林知高氏

 その一方で「数のコントロール」策を見直す動きもある。特に、観光シーズンが限られる地域では、受け入れ人数を減らす場合、単価をどう上げるかが大きな課題になる。実際に、ビジネスに打撃を受けるケースも起きているという。

こうした現状を踏まえて、平林氏は「量から質へ」といった一律的な見直しではなく、「量も質も、配分が重要なポイントになる。地域それぞれにあったバランスのとり方を議論し、利害関係者全員の合意形成を進めていくことが重要になる」と話す。そして、関係者全員が対等な立場で声を聴き、話をすることが、リジェネレーティブ・ツーリズムに取り組むためにも「非常に重要なポイント」と考えているという。

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サステナブルの限界を突破する「リ-ジェネレーティブ」とは

すでに世界各地では、観光客の増加による自然環境や住民生活への悪影響を防ぐという観点で、サステナブル・ツーリズムを重視した取り組みが進められている。しかし、最近ではその限界が指摘され始めた。住民や観光客など、人が通常の活動を続けることによる影響はあまりにも甚大で、マイナスをゼロにするだけでは不十分という危機感が強まっているのだ。

そこで根本的に行動を見直し、新しい形につくりかえるという考え方が、「リ(改めて)ジェネレーション(つくる)」。平林氏によると、2023年の世界経済フォーラムでも、「リ-ジェネレーション」が話題の一つになっており、すでにビジネス全般で重視されている。観光では「リジェネレーティブ・ツーリズム」だが、平林氏は「リ-ジェネレーション」を表記する際には、「改めて、新しくつくること」という意味あいを伝えるためにも、「ハイフン(-)を入れたい」と強調する。

サステナビリティとリ-ジェレーションの違い(イメージ)

 かみ砕いて説明すると、サステナブルの語源は「維持する(サステイン)」で、例えばオーバーツーリズムにつながるダメージをゼロにし、その状態を保つこと。これに対し、リ-ジェネレーティブであるとは、「ゼロからプラス1以上になるように、ポジティブな影響を与えられること」と平林氏は解説する。

つまり、リジェネレーティブ・ツーリズムとは、地域がより良くなるようなインパクトをつくること。旅行者が成長でき、同時に地域経済も成長できる。旅を取り巻くすべてのステークホルダーとの関係において、より高い価値を提供できる観光を目指すことだ。

「これを実現するためには、従来の考え方や行動、ビジネスの手法とはまったく異なる新しいやり方に改める必要がある。これはむしろ、一種のイノベーション」と平林氏。リジェネレーティブ・ツーリズムとは、旅の価値を一新することであり、「旅価(たびか)の改新」だと説く。日本史上の大改革、「大化の改新」のニュアンスを重ねあわせた、平林氏の意訳だ。

そして、地域が「旅価の改新」を進めるうえでは、観光客を把握することが欠かせない。平林氏は、観光客の意識も変化していると指摘する。そのポイントは大きく3つ。

まず1つ目は、観光に対して、楽しい=満足ではなく、ウェルビーイングなど、自分の内面を高めたい、という意識があること。2つ目に、自らが所属するコミュニティや訪問先をはじめ、自分が関わる様々な関係性をどのように高めていくか、というベクトルだ。平林氏はこの変化を「リアルなコミュニケーションが難しかったコロナ禍を経て、他者との関係構築に対する考察が深まった」と推測する。

そして3つ目は、自然環境やサステナビリティへの関心の高まりだ。その背景について、平林氏は「個人にとって地球環境や社会を良くする目標は、あまりにも大きい。そこで、自分ができる身近なこととして、旅行先など、自分と関わりのできた場所で良い影響を与えられる行動をしたいと考えるようになった」と話す。

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旅価の改新、どう取り組むか

「旅価の改新」は世界各地ですでに始まっている。観光地は、住民や事業者、観光客など、ステークホルダーとの関係調整にフォーカスするようになり、マーケティングからマネジメントへの転換期を迎えている。観光産業を支える3つの構成要素「観光客」「観光地」「自然環境・文化」の改新はどのように進んでいくべきなのか。

平林氏は「まず、この3つが有機的に一体となるような関係性を作り上げることが、リジェネレーティブ・ツーリズムに取り組む上で不可欠になる」と話す。そして、各ステークホルダーが、実際に行動に移すことも重要だという。

リジェネレーティブ・ツーリズムに欠かせない関係性

具体的な事例の一つとして、平林氏はハワイの取り組みをあげた。ハワイ州観光局では、地元の人々の考え、感情を知るために、幹部が州内各地に出向き、地域コミュニティとの意見交換をしている。「お互いが対等な立場でコミュニケーションできる機会を、観光局が積極的に設けているところが、非常に重要なポイント」と平林氏は話す。

また、ハワイではコロナ禍で離職を余儀なくされた人たちが、ハワイアン・キルトなどの工芸品を作り始めた。これをきっかけに、「メイド・イン・ハワイ」製品の販売で地域にお金が落ちる仕組みづくりに真剣に取り組んでいることも、「旅価の改新」だと指摘する。

日本でも、「地産地消」など同様の考えはある。それを成果に結び付けるためには、「地域のステークホルダーはもちろん、地域外の関係者にも目指す方向性を理解してもらい、仲間になってくれるように巻き込む。異質なもの同士のコラボレーションの方が、より大きな化学反応を起こしやすくなる」と、地域の課題とその先にあるチャンスを話す。

このほか、日本の観光産業に突き付けられているテクノロジーの活用とデジタル化も、“旅価の改新”の、重要な要素となる。「技術革新によって効率化できる部分と、人が取り組むべき部分とを、うまく組みあわせて価値を生み出していくことも、“改新”のエッセンスの一つ」という。

平林氏は、2023年8月に開催されたハワイのリジェネレーティブ・ツーリズム会議で、地元の住民から地域内外の事業者まで、全員が一緒に現場目線の議論する姿がとても印象的だったという。「観光客と観光地の双方が取り組める仕組みを再構築し、旅の価値を改めて定義し、変革していくことが求められている」と平林氏は提言する。

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記事:トラベルボイス企画部

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