日本航空(JAL)がWeb販売部1to1マーケティンググループを発足したのは、十数年以上も前のこと。これまでも、メールマガジンやLINE公式アカウントなどで登録会員向けに情報を配信してきたが、近年は「必要な人に、必要な情報を届ける」ことを、特に重視している。この方針のもと、LINEヤフーによる新たなデータ分析の結果を踏まえて実施した顧客とのコミュニケーションでは、確かな手ごたえを感じているという。
より個人に最適化したコミュニケーションをサポートするLINEヤフーのサービスを利用し、JALが作り上げたい世界とは? LINEヤフーによるデータ分析の内容と、それを活用したJALのLINE公式アカウントを軸とする新しい取り組み、今後の展開について、両社の担当者に話を聞いた。
レスポンスの瞬発力はLINEに勝るものはない
JALのWeb販売部のミッションは、航空券やダイナミックパッケージのウェブ販売の売上拡大。同グループでは認知向上、潜在顧客の獲得からロイヤル顧客の育成まで、各ステップでのマーケティング施策をおこなってきた。それらの施策の実行に欠かせないのがLINEヤフーの広告プロダクトだ。Yahoo!広告・LINE広告、LINE公式アカウントを活用することで収益の最大化を図っているといい、2013年に開始したJALのLINE公式アカウントは友だち数がまもなく1000万人を超えるという。
JALでは、3000万人超を誇る「JALマイレージクラブ(JMB)」の会員向けメールマガジンを定期的に配信しているが、認知・獲得を主な目的としてLINE公式アカウントも活用している。LINE公式アカウントで情報発信をするメリットは「レスポンスの瞬発力」であると、JAL Web販売部1to1マーケティンググループ主任の小島史也氏は話す。LINEはメールよりも早く開封される傾向があるため「『明日からセール』というような情報は特に有効。瞬発力においてLINE公式アカウントに勝るものはない」(小島氏)。
また、同アシスタントマネジャーの中切友太氏は「メールは登録会員に限定されるが、LINE公式アカウントは(メールアドレスなどの登録のステップを踏むことなく)容易に友だち追加ができるため、JMB会員以外にもリーチできる」と続ける。実際、LINE公式アカウントのメッセージを経由した販売が伸びており、同社のキャンペーンやセール時の“マストアイテム”になっているという。
一方で、LINE公式アカウントの運用では課題も認識していた。「一定の成果は出ていたものの、(部署名に)“1to1”を掲げながら、基本的に友だち全員に同じ情報を配信し、開封者のみのターゲティングとなっていた。もう少し1to1に近い形でコミュニケーションを工夫したいと考えていた」と小島氏。
メッセージの配信にはコストがかかる上、友だちに「この情報は必要ではない」と判断されるとブロックされてしまう。「1人1人に最適化するのは難しいと思うが、必要な人に必要な情報を届けたい」(中切氏)。そのためには、約1000万人の友だちの生活者像を深堀って理解することや、よりきめ細かい顧客セグメント設定が必要になる。こういったJALの課題に対し、LINEヤフーが提案したのが、LINEのデータとYahoo! JAPANのデータを掛けあわせておこなう分析(統合分析)だった。
1to1マーケティングの新たな武器に
統合分析について、LINEヤフーの仮屋崎亨氏は、「LINEとYahoo! JAPANのアカウントが紐づいているユーザー群を対象に、LINEとYahoo! JAPANの各サービスを横断しておこなう分析。見込み度が高い顧客の属性を発掘したり、LINE公式アカウントの友だちや、LINE広告およびYahoo!広告を見たユーザーの、広告接触による影響を可視化したりすることができる」と説明する。
この取り組みで、JALのLINE公式アカウントの友だちにおける、国内旅行と海外旅行の関心層を抽出した。
まず、Yahoo! JAPAN のユーザー群を検索データ、サイト流出、興味関心などのデータで分析し、(1)国内旅行関心層、(2)海外旅行関心層、(3)国内旅行関心層かつ海外旅行関心層、という3つのセグメントを作成して、それぞれのボリュームを確認。(1)国内旅行関心層は約1200万UU、(2)海外旅行関心層は約450万UU、(3)国内旅行関心層かつ海外旅行関心層が約260万UUだった(計測期間:2023年11月、LINEヤフー調べ)。
このデータをもとに、これらのセグメントに属するユーザー群が、JALのLINE公式アカウントの友だちの中にどれくらいいるかを分析。国内旅行の関心層は友だち全体の15%、海外旅行の関心層は6%であることが分かった。中切氏は「国内、海外という大きな切り口だけでも、ここまで対象が絞られるのは意外な結果だった」と振り返る。
では、この結果をメッセージ配信にどういかしていくのか。Yahoo!広告やYahoo! JAPANでのオーディエンスの行動データをもとに作成したセグメントは、ビジネスマネージャーに連携することで、LINE公式アカウントやLINE広告でも活用することが可能となる。そこでJALは、LINE公式アカウントの友だちのうち、海外旅行に興味のあるセグメントを作成し、そのセグメントに国際線のタイムセール情報を配信した。すると、一斉配信の場合と比較して、クリック率は177%、コンバージョン(CV)率は117%に向上した。
小島氏は「配信先を関心のある人に絞った結果、しっかりと成果を上げることができた」と評価し、「今後はさまざまなセグメントを試したい」と意欲を示す。テーマパークやスポーツの関心層をセグメント化し、ダイナミックパッケージツアーを案内するといった取り組みも動き始めているという。
さらに中切氏は、もう1つのメリットとして「必要な人に必要な情報だけを届けるという点では、費用対効果も高い」と、コストパフォーマンスの良さをあげた。
仮屋崎氏は、統合分析について「メディアであるYahoo! JAPANと、1to1のコミュニケーションアプリであるLINEのそれぞれのユーザー像はかなり違う。これを一緒に可視化できるようになった意義は非常に大きい」と、タイプの異なる2つのメディアを横断して分析する効果を強調する。
中切氏は「LINEヤフーのデータだけでなく、JALが持つマイレージカード会員情報なども組み合わせながら、お客様が一番欲しい情報を届けるのが理想」と意欲を見せる。
LINEの活用範囲が拡大、広告出稿もよりロジカルに
JALは、LINE公式アカウントの友だちの増加と利便性の向上を目的として、2024年9月からJMBの会員IDとLINEのIDとの連携を開始。JMB会員がJALのホームページやアプリにログインする際、LINEのIDでログインすることができるようになった。LINEのIDでログインする場合はJALのLINE公式アカウントの友だち追加が必須となるため、連携開始後は、LINEログインを経由した友だちも増加した。
仮屋崎氏は、ID連携をすることで「企業側としては、より個別にパーソナライズされたメッセージ配信が可能になる」と説明。例えばJALの場合、LINE公式アカウントでJMBの会員情報をもとにマイル有効期限のリマインド、誕生日クーポンやJMBステータス上位の会員に向けた限定クーポンなどの配信が可能になる。JALサイト内での行動に応じて、空席検索時のトリガー配信やカゴ落ち配信、価格アラート配信なども可能だ。
また、広告については2つのポイントが見えてきたという。1つ目のポイントは、JALはYahoo!広告、LINE広告のどちらも活用しているが、双方の重複リーチを分析したところ、わずか1.2%だったこと。この結果について仮屋崎氏は「LINEのユーザーは若い世代が多く、Yahoo! JAPANは若い方だけでなく中高年の方にまで使っていただいているため、お互いを補うことができるし、重なる部分はより濃くなる」と説明。小島氏は「(重複リーチが)非常に少ないことに驚いた。幅広くインクリメンタルリーチが取れる」と話した。
そして、CV観点でデータを見ると、重複リーチユーザーのCV率が非常に高かったのが、2つ目のポイントだ。
JALの場合、広告非接触者の7倍、Yahoo!広告単独接触者の4.6倍になった。また、JALのLINE公式アカウントの友だちと友だち以外のユーザーの検索率やCV率も分析。広告非接触の友だちの場合、友だち以外のユーザーと比べて検索率が約4倍、購入率は約8倍と大差がついた。Yahoo!広告とLINE広告に重複して接触した友だちの場合、友だちでない人と比べて検索率が約3.2倍、購入率は約1.3倍となった。
中切氏は「広告出稿ボリュームを増やすときは、手探りで次のターゲティングを検討しなければならないことが多かったが、分析してロジカルに出稿設計ができるようになるのは非常に心強い」とLINEヤフーの統合分析に今後も期待を込める。
旅マエから旅アトまでカバーする1to1マーケティングを
JALは今後もLINEヤフーのサービスを活用して、旅マエから旅ナカ、旅アトまで、一貫して便利で快適な旅行体験を提供したい考えだ。
例えば、旅マエでは、特定の興味関心層に向けてLINE公式アカウントからパーソナライズされた情報を、広告を含めて配信する。旅ナカでは、LINE通知メッセージで予約便にかかわるリマインドメッセージを送るほか、将来的には搭乗券の表示も視野に入れる。旅アトでは、リピートにつながるメッセージを配信していく、といった形だ。
すでに旅ナカでのコミュニケーションでは、航空業界として初めて、搭乗時の「LINE通知メッセージ」を導入。JAL便利用者に対して、個々の予約内容に基づいた案内を提供している。前日には搭乗便の運航状況や搭乗手続きのお知らせ、搭乗当日の空港ではチェックインや保安検査場通過の締切の案内などだ。
この取り組みはWeb販売部が運用するメインのLINE公式アカウントとは別のアカウントでおこなっているが、LINE通知メッセージの導入後、同アカウントの友だち数は3倍に増加した。LINEは開封率が高いこともあって、事前案内がよく読まれている印象があるとのことで、オンラインチェックイン率も向上。搭乗客にとってはカウンターに並ぶ手間がなくなり、JALにとってもカウンター業務の負担軽減を期待している。
顧客の旅行体験のさまざまな役割を担うJALのLINE公式アカウントについて、小島氏は「広告媒体というよりも、LINEの本来の機能であるお客様とのコミュニケーションツールとしての役割が大きくなっていく」と捉えている。LINE公式アカウントの活用がユーザーの行動をここまで変えたことを踏まえ、JALは今後も顧客体験の創造に期待している。
そして、そのシームレスなカスタマージャーニーの実現に向けては統合分析の活用が必要不可欠となる。LINEヤフーとしても、今後もJALによる最適な旅行体験の提供を支援していく構えだ。
「一口に旅マエ、旅ナカといっても、ユーザー属性や興味関心によって行動は異なる。それぞれのシーンにあわせた、JAL様ならではのセグメントの作成を今後も提案することでサポートしていきたい」(仮屋崎氏)。
※ LINEヤフーによる統合分析および各種分析レポートのご提供には利用条件があります。詳しくはLINEヤフーの担当営業までお問い合わせください。
※ Yahoo! JAPANのデータを活用したLINEへのオーディエンス連携は、現在一部の企業様に先行提供中のβ版機能となります。
※本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです。また、本記事内の数値はLINEヤフーとJALの調査によるものです。
広告:LINEヤフー
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記事:トラベルボイス企画部