世界大手決済「Adyen(アディエン)」が日本の観光産業に熱視線、オンライン決済での本人認証など、その強みを聞いてきた

欧州拠点の決済プラットフォーム「Adyen(アディエン)」は、日本の観光市場での取り組みを強化している。国内ではキャッシュレス支払いが普及し、クレジットカード支払いの多いインバウンド旅行者も増加。さらに、春からはオンライン決済における3Dセキュア(本人認証サービス)の導入がすべての事業者に義務付けられるなど、日本の観光事業者も取り巻く決済環境が変化するなか対応が迫られている。

その日本を重要市場と位置付けるAdyenの強み、日本の観光・旅行事業者にとってのメリットを聞いてきた。 Adyen日本カントリーマネージャーを務めるのは、元ブッキング・ドットコム日本・中華圏・韓国・オセアニア地域ディレクターのアダム・ブラウンステイン氏だ。

クレジットカード決済の仕組みは

まず、クレジットカード決済の基本的な仕組みを押さえておく。仕組みの中には、ビザやマスタカードなどの国際ブランド、そのカードを発行し、カード利用者の募集をおこなう「イシュア」、国際ブランドとアライアンス契約し、加盟店の募集と審査/管理をおこなう「アクワイアラ」、複数の国際ブランド/決済方法をつなぎ、アクワイアラに取り次ぐ「決済代行会社」がある。

カード利用者はイシュアと会員契約。一方、加盟店はアクワイアラと加盟店契約をする。複数の国際ブランドを活用している場合は、決済代行会社と契約する。クレジットカード利用者は、イシュアに購入代金を支払い、イシュアはアクワイアラにその代金を支払う。アクワイアラは、売上額から手数料を差し引いた金額を、ユーザーに代わって、加盟店もしくは決済代行会社の口座に振り込む。

Adyenの強みの一つは、日本でもアクワイアラのライセンスを取得し、決済代行(PSP)と両立させているところだ。さらに不正対策もおこない、通常、3者にまたがる決済プロセスを1社でまかなっている。ブラウンステイン氏は、そのメリットについて、「加盟店は手数料コストを低く抑えることができる」と説明する。

日本の観光産業に「大きなビジネス機会」

Adyenは、グローバルでホスピタリティ業界や旅行業界へのアプローチを強めている。ホテルチェーン、OTA、モビリティ、飲食、航空会社とその幅は広い。その処理数は、世界で1兆ユーロ(約159兆円)を超えることから、豊富なデータからさまざまな考察を抽出し、観光事業者に適したサポートを提供することができるという。

日本では近頃、宿泊施設向けITソリューションを展開する「tripla(トリプラ)」が、Adyenの決済プラットフォームの導入を決めた。

Adyenは、日本の観光産業を戦略的重要市場と位置付けている。ブラウンステイン氏は、同社における日本市場の潜在性について、巨大な国内旅行市場に加えて、インバウンド市場が急速に成長していることを背景に、「大きなビジネス機会がある」と強調する。

インバウンド旅行者の決済や越境ECでは、クレジットカードやデジタル決済のオーソリ(承認)率が下がると決済が滞ってしまい、売上損失につながる恐れがあるが、Adyenでは、AIなどのテクノロジーを駆使することで、リスクを検出し、承認率を維持できるサポートを提供している(ブラウンステイン氏)。

また、「加盟店は、コストを削減しながら、決済オペレーションを効率化することも可能になる」と自信を示し、それを可能にする一つの強みとして、利用者が自国の通貨で料金を支払うなど旅行者にとって利便性の高い多通貨決済への対応を挙げた。Adyenは、各国の事情に合わせて、決済のローカライゼーションを進めているという。

一方、国内旅行市場についても、ブラウンステイン氏は「変化の真っ只中にある」との認識を示す。国のキャッシュレス化政策もあり、多くの日本人旅行者がデジタル決済を選択するようになってきた。その決済環境の変化のなかで、「たとえば、ホテルにとって、さまざまな決済オプションは集客の強みになる」と話す。

さらに、グローバル展開する日本企業にとってもAdyenは有力なソリューションになりうる。進出する国ごとに、決済会社と手を組むのは効率が悪くコストもかかるが、Adyenのプラットフォームを導入していれば、それを展開するだけで効率のいい決済運用が可能になるという。

グローバル企業としてのさまざまな強み

Adyenは、決済プラットフォームとして「ユニファイドコマース」という仕組みを加盟店向けに提供している。「ユニファイドコマース」とは、オンラインとオフラインの決済フローを一本化することだ。

たとえば、ホテルの場合、宿泊の予約・決済はオンライン、館内のレストラン、スパ、お土産など物理的な店舗ではオフライン決済のとき、人力で二つの異なる決済データを統合するのは労力と時間がかかる。その煩雑さをシンプルかつ効率化するのがこの仕組みだ。ブラウンステイン氏は、「新規の顧客だけでなく、既存の加盟店からの引き合いも多い」と手応えを示す。

また、クレジットカードについては、不正利用の懸念が常につきまとうが、ブラウンステイン氏は、3Dセキュア(本人認証サービス)について、「先行する欧州での経験を日本でも活かせる」との考えを示す。日本市場参入の際に、まず立ち上げたのはレギュレーションチームだったという。「規制については、他よりも先に取り組むべきエリア」と話し、セキュリティ重視の姿勢を示した。

日本では、2025年3月末から「クレジットカード・セキュリティガイドライン」に基づき、オンライン決済における3Dセキュアの導入がすべての事業者に義務付けられ、クレジットカードを使用した支払い時には、カード情報に加えて本人認証が必要となる。

このほか、旅行における決済データは、人流や消費ポイントの把握に有効になるが、Adyenのプラットフォームでは、加盟店が共有できるデータの領域が設定されており、「そこからさまざまなインサイトを導き出す支援サービスも実施している」という。また、業界ごとにデータリポートを定期的に発行。各市場の動向などを公開している。

Adyenは今後、日本の旅行市場では、デジタル決済をおこなうホテルやOTAなどを中心に加盟店開拓を進めていく。将来的には、航空会社などの交通機関も視野に入れていく考えだ。

※ユーロ円換算は1ユーロ159円でトラベルボイス編集部が算出

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