JTBが、観光地の持続可能な発展に向けた「エリア開発」による事業拡大を加速している。コロナ禍の2020年度に策定した中期経営計画「『新』交流創造ビジョン」で長期目標として2028年度めどに掲げた営業利益目標450億円のうち、約2割はこのエリア開発を含むエリアソリューション事業で利益を出す方針だ。
1912年に創業し、交通や宿泊券の代売、パッケージ旅行の販売、交流創造とビジネスモデルを深化させながら事業を営んできたガリバーが、未来のツーリズムに向けて軸足のひとつに位置づける「エリア開発」とは何か。2023年4月に記者会見したJTB取締役常務執行役員エリアソリューション事業部長森口浩紀氏への取材を通じ、旅行会社と地域が共創して観光創生を図るビジネスモデルをあらためて整理した。
地域とともに取り組むストック型ビジネス
エリアソリューション事業は、ツーリズム、ビジネスソリューションとともにJTBが事業ドメインとする交流創造事業領域として位置づける3つの柱のひとつだ。成長戦略として交流を支えるための地域での仕組みづくりを目指し、JTBの森口氏は「長期にわたって地域とJTBがともに取り組むストック型ビジネス領域として展開していく」と話す。
エリアソリューションのうち、観光地のデジタル化や整備・運営支援とともに進めているのが、エリア開発事業。JTBが描くのは、地域・エリアを一つのテーマパークに見立て、観光コンテンツをつなぎ、エリア全体の価値を高める姿だ。大規模観光施設など旅行者の旅の目的となる「誘引コンテンツ」、滞在を楽しめる「周遊コンテンツ」、良質な宿泊施設を中心として消費を促進する「滞在コンテンツ」を磨き、二次交通などの課題を解決する「インフラコンテンツ」を組み合わせることでエリアツーリズムを活性化させ、観光地の持続的な発展につなげる。さらに、デジタル基盤サービス、ホテルや観光施設の運営サポートなど、JTBの経営資源・強みを地域に投資して事業化する。
沖縄北部の新テーマパークへ出資
すでにJTBがエリア開発事業を手がけている例に、沖縄本島北部での開発プロジェクトがある。「沖縄島北部は2021年に世界自然遺産登録され、世界にアピールするコンテンツが豊富にあるにもかかわらず、滞在日数はハワイの半分、消費額は3分の1程度にとどまっている。先行的にコンテンツを開発・整備し、多くの人が来訪する地域発展に貢献したい」(森口氏)。
具体的には、「誘引コンテンツ」として、今帰仁村と名護市にまたがるオリオン嵐山ゴルフ倶楽部跡地に2025年開業が予定されている沖縄北部新テーマパークへの出資、「周遊コンテンツ」として、やんばるジップラインなどアクティビティ開発、「インフラコンテンツ」としてレンタカー不足を解消するエアポートシャトルバス、無料周遊バスなどの開発・運営に着手している。それを電子周遊パス、交通周遊バスアプリといったDXで支援することで、前述のように沖縄北部を一つの大きなテーマパークのようにつなげ、価値を高める戦略だ。
ALL-JAPAN観光立国ファンドにも参画
もっとも、全国展開に向けて、これだけ大規模な開発をJTB1社だけで担っていくのは難しい側面もある。そこで、2023年3月にALL-JAPAN観光立国ファンドを運営する地域創生ソリューション社への出資を決定。出資比率は三菱UFJ銀行や三菱地所、日本航空などと同じ13.56%で、地域創生ソリューション社が6月頃に組成する「ALL-JAPAN観光立国ファンド第2号」にも出資する予定だ。
ファンドの投資対象は、宿泊施設、企業再生、観光立国支援企業、地域創生支援企業など。森口氏は「誘客を促進するだけでなく、観光産業が直面する人手不足、低い生産性をデジタルの力でどう効率化するか。また、地方部の移動手段、医療の不足をどう解決していくかも観光立国に不可欠な要素。強力なパートナー陣との協業で、幅広いテーマを対象に取り組んでいきたい」と話す。
ファンドの中でもJTBとしては、地域活性化領域で観光政策との連携、投資エリアの分析、地域事業者との協働などを中心に人流創造を支援していく考えだ。日本だけでも47都道府県に拠点を置き、自治体などへの出向を含めた地域とのつながりも活かす。
エリア開発全体を含めて注力するエリアはこれからの検討となるが、森口氏は「ハブとなる空港、駅などから広がるエリアが1つの鍵になる」と明かす。地域の抱える事情はそれぞれ異なり、現実的に何に投資することで人流、消費額を高められるかを慎重に判断したいという。
森口氏は「あくまで黒子として地域に深く入り込み、ともに旅行者が来訪する仕組みを考えていきたい」と今後への意気込みを示した。