南米チリで人気の氷河が入域禁止に、気候変動による環境変化で、「エコツーリズムは安全な状況ではない」

写真:AP通信

チリ国立森林公社は、パタゴニアで人気の観光地となっている氷河への出入りを永久に禁止することを決めた。急速に不安定化している氷河の融解によって安全性の懸念が高まっていることが理由だが、この決定はアドベンチャー体験を求める観光客や地元ガイドを激怒させ、気候が急速に変化しているなか、改めて氷河登山のリスクについての議論が高まることになった。

規制の対象となっているのは、チリ・アイセン地域のラグーナ・サン・ラファエル国立公園にあるエクスプローラーズ氷河。過去20年にわたって、氷河登山で人気の場所となっていた。

チリの国立公園を管轄する森林局は2023年10月31日、「氷河の動きには明らかなリスクと不確実性がある。エクスプローラーズ氷河でのエコツーリズムは安全な状況ではない」との認識を示している。

氷河登山は世界的な問題になっている。2022年7月にはイタリアのドロミテ山にあるマルモラーダ氷河では、人気のハイキングコースで、アパートほどの大きさの塊が崩壊し、11人が死亡した。 同じ年の夏、氷が溶けたことで落石が多数発生したモンブランでは、初めて登山が禁止された。

エクスプローラーズ氷河で10年以上にわたってガイド会社を営んでいるビアンカ・ミランダさんは現在、2024年3月までの予約キャンセルに対する返金に追われている。

今回の決定は、10月6日に氷河から巨大な氷塊が崩落したことがきっかけになった。幸い人的被害はなかった。ミランダさんは「氷河の地形が刻々と変化することは普通のこと」と話しているが、チリ政府の研究では、大規模な氷河の崩落が一般的になるのも時間の問題との見解を示している。

専門家による調査では、2020年以降、エクスプローラーズ氷河は年間0.5メートルずつ「薄く」なっており、氷河の上にある雪解け水の水たまりの数も2倍になったという。今後、壊滅的な量の氷が本体から切り離されるか、何百もの小さな水たまりが氷河の前面を崩壊させるか、どらかのことが起こると予測している。

カナダのガイド兼冒険家のウィル・ガッドさんは「子供の頃、氷河は永久に存在し、あまりに巨大なので何も影響を与えることはできないと思っていたが、今では、それが私たちガイドにとって大きな問題になりつつある」と話す一方で、「ルートを永久に閉鎖することが解決策ではない」とも付け加えている。

ミランダさんは「私たちはアドベンチャーツーリズムに取り組んでいるが、そこには常にリスクが伴う。ここを閉鎖するなら、エベレスト登山もスカイダイビングも止めるべきだ」と話した。

※本記事は、AP通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。

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