
「アドベンチャーツーリズム・アカデミー(ATA)」は、一般社団法人日本アドベンチャーツーリズム協議会(JATO)、日本航空株式会社、株式会社JTBが共同事業として創設。「アドベンチャーツーリズム(AT)推進の普及啓発および受入環境整備」と「地域マネジメントのできるAT推進人材の育成」を主な目的とした組織だ。2024年9月にAT人材育成に向けた「オンライン講座」を開始。2025年度も、4月から開始される第二期の受講生を募集している。
ATを推進し、持続可能な地域づくりに貢献する人材に必要なスキルが学べる、そのカリキュラムの中身と受講者の声を取材した。
ATは訪日客の地方誘客に最適な旅のスタイル
アドベンチャーツーリズム(AT)とは、「自然」「文化」「アクティビティ」のうち2つ以上の要素から成るツーリズムのこと。ATA事務局の出口学氏は、ATについて「国の目標である2030年の訪日客6000万人に向けて、地方への送客が求められているなか、地域の個性豊かな自然や歴史文化を生かしながら、訪日客の誘客を可能にする手段」と位置付けたうえで、「現地の人たちの暮らしに触れ、地域のストーリーを共有するATの旅のスタイルは今後のトレンドになってくる」と話す。
また、ATに不可欠な専門ガイドの存在についても触れ、「地域のストーリーを伝えるガイティングや演出を通じて、旅の感動を持ち帰ってもらう。(高度なガイドによって)ツアーコンダクターが旅を演出していたパッケージツアーの原点に立ち返った旅の魅力も伝えていきたい」と意欲を示す。
ATは、2023年9月に北海道で開催されたアドベンチャートラベル・ワールドサミット2023(ATWS2023)で注目が高まった。ATAのオンライン講座で講師を務めるキャニオンズ社チーフ・リフレッシング・オフィサーのマイケル・ジョン・ハリス氏は、「高付加価値旅行として国も重視している。訪日客が増加しているなか、日本のATには追い風が吹いている」と大きな期待を抱く。
ATがわかる多彩な「オンライン講座」
そのなかで、ATAの事業の一つである「オンライン講座」は、ATを推進し、持続可能な地域づくりに貢献する人材に必要なスキルを学ぶために設定されたものだ。AT人材に必要とされる「高付加価値体験の提供」「安全対策強化」「環境保護」「地域内連携のリーダーシップ」「行政との協力」「情報発信力」「グローバルな視野での対応力」の7つのスキルを5つのテーマに分け、1期4ヶ月で13講座を開く。2024年9月〜12月にかけておこなわれた第一期には約40人が受講した。
ATAの「オンライン講座」では、5つのテーマに沿った体系的なカリキュラムでAT人材に必要なスキルを学べるATA「オンライン講座」の最大の特長は、実際に現地でプロフェッショナルとして活躍する講師陣の活きた経験に基づくノウハウを学べることだ。
例えば、第一期の講座で危機管理とマーケティングの講座を担当したハリス氏は、キャニオンズ社が活用しているリスク評価システムのほか、法律面の解説、ハザードマップや緊急対応プラン、シナリオトレーニング、ガイドチェックシステム、レポーティングの方法などを説明する。「キャニオニングをメインとした危険をともなうハードなアドベンチャー体験を扱う自社の経験から、現場で実践的に使えるようなメソッドを紹介している」という。
マーケティングの講座では、自社商品と顧客のニーズとのマッチング、顧客の体力や技術レベルとのマッチング、カスタマイズの方法などに加えて、カスタマージャーニー、CRM構築、クチコミを増やす方法など顧客の満足度を上げていくデジタルテクニックなども講義。「顧客のフィードバックから、次回の改善に繋げていく好循環を作ることが大切」と話す。
オンライン講座の講師を務めるキャニオンズ社のマイケル・ジョン・ハリス氏受講後は、学んだことをもとに、参加者自身が関わっている地域に焦点を当てた具体的なロードマップ(事業計画)を作成する。
出口氏は、オンライン講座のメリットとして、経験豊富な講師陣とのネットワークが構築できることも挙げる。ATAでは、AT人材の育成に向けて伴走支援を重視しており、受講修了後、実践の段階で講師陣から適切なアドバイスを受けることも可能だという。
オンライン講座の後は、希望者を募り北海道での「フィールド研修」も実施する(別料金)。地域コーディネーターらの活躍により復活した川湯温泉や釧路川原流域を含む阿寒摩周国立公園を舞台に実施予定。アクティビティ体験のほか、最終日にはワークショップを開催し、ロードマップの磨き上げをおこなう。第一期のフィールド研修は、あいにく悪天候のため中止となったものの、参加予定だった受講生全員が第二期分に合流を希望しているという。
第一期のオンライン講座の様子
AT事業化に向けて実践的な内容に手応え
第一期オンライン講座の参加者からは手応えの声が聞かれる。通訳ガイドの松尾順氏は、地元九州でインバウンド向け旅行会社の起業を計画しているなかで、体験型コンテンツのアプローチとしてATAの「オンライン講座」を知ったという。「ネットには情報が溢れているが、ATに関する体系的な情報やハンズオンの実践的な話はあまりなく、この講座を知った時、受講する必要があると思った」と振り返る。
受講後、松尾氏は「ATの全体像が見えた」という。「特にハイエンドのニーズに応えるツアーの造成で多くのヒントがもらえた。ベテランガイドや経営者である講師から、通訳ガイドとして、また旅行会社の立ち上げに向けて、即戦力になるような詳しいノウハウが学べた」と手応えを口にした。今後何かに行き詰った際に、講師たちと気軽に相談しやすい関係性が構築できたことも大きなアドバンテージだと振り返る。
そのうえで、今後の抱負として、故郷である福岡県の八女市および添田町の「英彦山」をターゲットにしたATツアーの造成に意欲を示した。八女は緑茶や伝統工芸などの文化体験、英彦山は山歩きや山伏体験を中心とした自然体験に可能性を感じているという。
第一期受講生の松尾順氏。今後は故郷である福岡県での文化や自然を活かしたツアー造成に力を入れるというBONSAIトラベル代表取締役の吉田学氏は、異業種から旅行業に参入したが、旅行業は幅が広いことから、「自社の軸足を定めるために模索しているなかで、もともとやりたいと思っていた本物の日本文化を訴求するATに出会った」と明かす。
オンライン講座に関しては、「ATが地域や社会、旅行者に対して提供できる価値の高さを学べたことが非常に大きかった」と振り返る。「講師が現場のプロフェショナルな方々で説得力があり、文章では伝わらない『想い』に触れられた。自身がこれから力を入れて取り組もうとしていることの価値を再認識できた」と強調した。また、これまでサステナビリティの解釈について漠然とした理解しかなかったが、「日本の文化や自然を活用して、経済を回しながら保全していくこと、また地域が潤う仕組みをつくっていくことへの理解が深まった」と話した。
そのうえで、今後については、福井県小浜市を起点に鯖街道を辿るサイクリングや高野山の宿坊を活用したリトリート・ヨガ体験など特色のあるツアーを、DMCという立場で熱意のある地元の事業者と共につくっていきたいという。
ATAの出口氏は、「ATでは人脈が非常に重要」と話し、講師陣だけでなく、講座参加者同士や地域事業者とのネットワーク構築も、ATAの強みとして付け加えた。
第一期受講生の吉田学氏。DMCという立場で、特色あるツアーを地元事業者と共につくっていきたいと話す
第二期からは「オンラインサロン」も開始
ATAでは、2025年4月から開始される第二期オンライン講座の受講者の募集を開始している。講座の期間は2025年4月~7月の4か月間で、13講座を実施。募集定員は約20名。
また4月からは、新たに「オンラインサロン」も設ける予定だ。出口氏は「ATに関心はあるが、もう一歩踏み出せない人たちに向けて、もっと気軽に参加できる機会を設ける」と説明。オンライン講座申込者には、無料で参加できる特典をつける。
「地方では、ガイドやコーディネーターの不足など共通の課題を抱えているところが多い。ATAのオンライン講座を通じて、いろいろな地域で人材を増やしていく取り組みは、とてもニーズが高いと感じている」とハリス氏。
4月からの第二期オンライン講座に向けては、「理論だけでなく実践的な内容となっている。どこからATに取り組めばいいか迷っている方には最適な講座」と強調し、AT事業を始めるにあたってのキックオフツールとして利用してほしいと呼びかけた。
⇒アドベンチャーツーリズム・アカデミー「オンライン講座」の申込はこちら
なお、2025年3月5日(水)15:00~17:00、2025年度アドベンチャーツーリズム・アカデミー開講記念特別ウェビナー「アドベンチャーツーリズムの実践とは?地域に眠るストーリーの活用法」を開催する(無料)。
⇒ウェビナーの詳細はこちら
記事:トラベルボイス企画部