【年頭所感】観光庁長官 秡川直也氏 ―さらなる高みへの1年に、観光客受入れと住民の生活の質を両立を

観光庁長官の秡川直也氏が、2025年を迎えるにあたって年頭所感を発表した。

秡川氏は、観光が力強い成長軌道に乗っているとの見解を示したうえで、観光立国推進計画に基づく「地方を中心としたインバウンド誘客」「持続可能な観光地域づくり」「国内交流拡大」の3分野の取り組みを強力に推進していくとあらためて強調。

直近の課題として、観光客の都市部への集中、オーバーツーリズムによる地域住民の生活への影響や旅行者満足度低下への懸念などを挙げた。そのうえで、地域の真の魅力を引き出すための高付加価値な観光地づくり、観光客の受け入れと住民の生活の質の確保の両立、業務効率化による人手不足の解消などに関係省庁一丸となって取り組むと表明した。

また、日本人の海外旅行の回復遅れにも言及。日本人の国際感覚の向上や国際相互理解の増進など観点から重要であることを踏まえ、海外教育旅行の促進など双方向交流拡大に注力する。

発表された内容は以下のとおり。原文のまま掲載する。


令和7年 観光庁長官年頭所感

明けましておめでとうございます。

2025年の新しい年を迎え、謹んで新春のご挨拶を申し上げます。

人口減少が進む我が国にとって観光は成長戦略の柱、地域活性化の切り札です。昨年は、訪日需要の高まりや、円安等の影響に加え、持続可能な観光立国の推進に向けて政府を挙げて取り組んだ結果、訪日外国人旅行者数や消費額の回復が急速に進み、観光は力強い成長軌道に乗っているものと受け止めております。

例えば、昨年11月の訪日外国人旅行者数について、コロナ前の2019年と比べた回復率は単月で131%となり、2023年10月以降、毎月コロナ前の水準を回復しております。また、訪日外国人旅行消費額については、1-9月期の累計は約5.9兆円となり、訪日者数・消費額ともに過去最高を大きく更新する勢いとなっております。さらに、日本人の国内旅行消費額についても、年22兆円の政府目標達成が視野に入るペースとなっています。

本年は、こうした良い流れを更に確固たるものとし、2023年3月に策定した観光立国推進基本計画に掲げる「持続可能な観光」の実現に向けて一層注力すべく、「地方を中心としたインバウンド誘客」、「持続可能な観光地域づくり」、「国内交流拡大」の3つの分野の取組を強力に推進していきたいと考えています。

まず第1に、地方を中心としたインバウンド誘客です。

訪日外国人旅行者数・消費額ともに過去最高ペースで推移している一方、三大都市圏にインバウンドの宿泊全体の約7割が集中するなど、コロナ前と比べても都市部を中心とした一部地域への偏在傾向が見られており、訪日外国人旅行者1人あたりの地方部における宿泊数を2泊にするという目標は達成できていません。

こうした現状を踏まえ、地方の真の魅力を引き出し、外国人旅行者が地方を訪れて交流を深め、具体的な消費活動に繋げるための特別な体験の提供や高付加価値な観光地づくりに取り組んでいるところです。

特に、高付加価値旅行者の地方への誘客の強化については、昨年9月に3地域をモデル観光地に追加し、14地域のマスタープランに基づく取組を引き続き集中的に支援するとともに、その成果やノウハウを他の地域へも伝播させ、観光を通じた地域活性化を促進してまいります。

また、あらゆる機会を捉えたインバウンド需要開拓のため、本年開催される大阪・関西万博などの大規模イベントを契機としたJNTOによる情報発信や商品造成の促進等を進めてまいります。

更に、高い消費効果や参加者の長期滞在など大きな経済効果をもたらすMICEの誘致開催を促進していくことが重要です。このため、各地域におけるMICE開催地としての魅力向上・発信やMICE施設における受入環境整備、コンベンションビューローの機能高度化等を推進していくことにより、地方都市を含め全国における誘致体制の抜本的強化を図ってまいります。

加えて、アウトバウンドについては、インバウンドと比較して回復が遅れているものの、アウトバウンドの促進は日本人の国際感覚の向上や国際相互理解の増進等の観点から重要であることから、海外教育旅行の促進等に取り組むとともに、関係省庁、関係業界や各国の政府観光局などと連携して、双方向交流拡大に向けて取り組んでまいります。

第2に、持続可能な観光地域づくりです。

持続可能な観光地域づくりにおいては、環境、文化、社会・経済面の持続可能性が必要です。基本計画では、2025年までに持続可能な観光地域づくりに取り組む地域数を計画策定時の12カ所から100カ所、国際的な認証・表彰を受けた地域数を50カ所とすることを目標としており、年内の目標達成に向け、日本版持続可能な観光ガイドラインの実践を通じた優良モデルの構築や観光計画の策定をより一層促進してまいります。

また、国内外の観光需要が回復し、力強い成長軌道に乗っている中で、観光客が集中する一部の地域や時間帯等においては、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響や、旅行者の満足度の低下への懸念といった課題が生じております。こうした課題に対処するため、2023年10月に策定した「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」にもとづきながら、観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立しつつ、持続観光な観光地域づくりを促進するため、地域の実情に応じた取組を引き続きしっかりと支援してまいります。

また、観光産業については、『持続可能なあり方』で稼ぐ力をいかに高めていくかが重要であり、成長に必要な投資や働き手の処遇向上を進め、次世代に向けて観光産業全体を発展的な形で成長させていくことが必要です。宿泊施設、観光施設の改修を支援するとともに、観光DXの推進にも取り組み、地域内の宿泊施設などにおける予約・在庫等のデータ共有や利活用を図る取組みなどへの支援を行い、地域単位での業務効率化等を推進してまいります。

更に、外国人材の活用も含めた人材の採用活動支援や、業務の効率化や省力化に資する設備投資への支援等、総合的な人手不足対策を実施し、人手不足の解消に向けて、しっかりと取り組んでまいります。

これらの取組を通じて、観光産業の収益力を強化し、従業員の待遇改善等を図る好循環を生み出すこと等を通じて、観光産業の高付加価値化を推進してまいります。

第3に、国内交流拡大です。

地域の観光資源を一層魅力的なものに徹底的に磨き上げるとともに、テレワークを活用したワーケーションの推進や、反復継続した来訪の促進、ユニバーサルツーリズムといった国内における新たな交流市場の開拓に、従来の取組を更に進化させて取り組んでまいります。

観光庁といたしましては、本年を更なる高みを目指すための1年と考え、基本計画の目標、さらにはその先の2030年訪日外国人旅行者数6000万人、消費額15兆円を目指して、関係省庁一丸となって取組を進めてまいります。

観光関係の皆様、国民の皆様におかれましては、今後とも観光政策に一層のお力添えを賜りますようお願い申し上げて、新年のご挨拶とさせていただきます。

観光庁長官 秡川直也

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